ビーバーの森
雨は翌日も降り続けた。
アルフレッドはイライラしていたが、なるべく妻や娘達に悟られない様にしていた。
が、ついついオーソンと二人きりになると本音が出てしまう。
「いつまで降り続けるんだこの雨は!いい加減にしてくれ!」と荷台で怒鳴った。
雨の音に掻き消されて室内には聞こえない筈だ。
「まぁアルフレッド、そぉカリカリしなさんな、雨はいずれ必ず止む・・どうだトランプでもせんか?」
「トランプ?そんな気分には到底ならん!」
「まぁ、そう言うな、気分転換だと思え、な」アルフレッドはしぶしぶ室内に戻った。
「アリソン、ペグ、ベティ、どうだトランプでもせんか?」とオーソンは家事をしていた3人に言った。
オーソンの心遣いに気が付いたアリソンは
「あら、いいわね、やりましょう」と一も二も無く賛成した。
2人の娘達は嬉しそうに席に着いた。
ケイティはアリソンの膝によじ登ろうとしている。
「よしセブンブリッジをやろう、解るか?」とオーソン
「どうやるの?教えて」とペグ。
「よし、いいか、まずは7枚カードを配る。本来なら表にしないが、今回だけ憶える為に表にしよう。同じ種類の続き数字や同じ数字3枚以上で”場”に出せる。”7”なら1枚でも出す事が出来る。いいか?」
「うん」と娘達、真剣だ。
「ペグは”7”を持ってるな、自分の番にきたら場に出すか、手持ちにするか選ぶんだ」
「なんで?」とペグ
「場に出したプレーヤーは、人が出したカードに付ける事ができるんだよ」
「最終的に自分の手持ちのカードの全てを”場”に出せたら勝ちさ」
「親は・・・そうだな、まずはアルフレッドだな、1枚引くんだ」
言われる通りカードを1枚引く。
「アルフレッドの手持ちのカードは殆どスペードだろ、それに4も持っていない。今引いたハートの5は必要ないから捨てるんだ」いらいらが少し収まってきたアルフレッドは言う通り捨てた。
「左回りなんで、次は俺だ」と言うオーソンはカードを1枚引いた。
ハートの8だ「これはペグがさっき引いたハートの7につける事が出来るから、取っておいてこれを捨てる」とダイヤの12を捨てる。
「ベティの番だ」ベティはカードを1枚引くとスペードの7だった。
「これは1枚でも”場”に出せるんでしょ?」
「あぁそうだ、でも最初の1周目はだせんのだ」
「わかった」と言って別のカードをベティは捨てた。なかなか覚えがいい。
「よし、次はペグだ」
ペグが引いたカードはクローバーのキングだ。
「後で説明するが絵札は点数が大きくなってしまうから、なるべく早く捨てるんだ」
「わかったわ」とペグ。
アリソンが1枚引くと、オーソンが
「すごいな一発だ!」と驚いた。
アリソンはダイヤの4・5・6・7とスペードの8・10、ハートのキングを持っていたところに、引いたカードがスペードの9だったのだ。
スペードの8・9・10、ダイヤの4・5・6、とダイヤの7を”場”に出して、最後に不要のハートのキングを捨てて、
「あがりだ」とオーソン。
「なんだ、もう終わりか!」とアルフレッド。
「そうだ、絵札とエースは全て10点、その他のカードはその数字のまま加算するんだ」
「7を持ってると、全部足した数字に2倍、今回アリソンが一発だったんで、更に倍、振り込んだりすると更に倍になるといったルールさ」
「人が捨てたものを同じ数字で同士で泣くのを”ポン”、同じ種類の連続した数字を上座から泣くのを”チー”ってんだ」
これを何回か繰り返し、合計点数が小さい人が勝ちさ」
「よし、もう一回オープンでやってみよう」とオーソンが言った。
雨は一向にやむ気配がなく、豪雨がローバーを叩き続け、彼等は12時を過ぎるまで夢中になって楽しんだ。
「ポン!」と、あっという間に覚えてしまったベティが泣いて、手持ちのハートの4を捨てた。
「それロンよ!」優しい母の目が、いつのまにか勝負師の目になっていた。
「え~本当に?」「一発振込みで4倍よベティ」
「よし、ここで集計しよう」とオーソン。
「私は昼ごはんの用意をするわ」とアリソンは優しい母の目に戻って立った。
小声でオーソンがアルフレッドに囁いた。
「すごいな、目がマジだったぞ」
「あぁ、昔からだ、ここ一番でアリソンには敵わないんだ」
「賭博打ちになれそうだ・・」
「聞こえてるわよ」と振り返ったアリソンの目は、勝負師のものだった。
その迫力に4人は生唾を飲み込んだ。
あわててオーソンが、
「え~、1位はアリソンだ、98点、才能があるよ、2位がベティ103点だ。3位がアルフレッド、4位がペグ、5位が俺だ。やられたな~ビーン家は全員才能があるな」
「オーソンさんは一発を狙いすぎるのよ!」とベティ。
「なにを言っとる。一発狙いは男のロマンさ、男がでかいの狙わんでどうする」
「はっはっはっは!違いない!はっはっはっは」とアルフレッドは大笑いした。
彼の憂さは完全に晴れたのだった。
昼食を済ませたころ雨足は弱まり始め、20分もしないうちに完全に止み青空が見えてきた。
「かなりぬかるんでそうだが、もう大丈夫だろう」
「傾斜のきつい場所は避けて慎重に行こう」
オーソンは自分のローバーに戻り、2台は仲良く併走しながら目的地へと向かう。
出発してから1時間程度過ぎたとき異変が起こった。
オーソンのWRが遅れ始めたのだ。
無線でアルフレッドは問いかけた。
「どうした?なにかトラブルか?」
[泥濘に足をとられて横滑りするんだ!そっちは問題ないか?]
「あぁ、今のところ問題ないな」
[さすがは6本足だな、見るからに安定してるよ]
とうとうオーソンのWRはスタックして動けなくなってしまった。
キャタピラ走行は無理だと思ったオーソンは、足を動かして歩行を試みた。
こういう時の為の足とも言える。
4mほど歩行させると前足がズブズブと沈み始めた。
もがけばもがくほど沈んでいってしまう。
先行していたビーンのランドローバーはUターンして戻り、
「ウィンチを用意する。ちょっと待て」と言った。
[すま~ん]
アルフレッドはボリス(WR)に乗り込みウィンチのフックをオーソンのWRまで引っ張ってきた。
「手を伸ばせるか?」
「どれ!」オーソンはWRの手を伸ばす。
「よし、つかめた!」フックがWRのマニュピレーターに引っ掛かった。
「そのままで待ってろ」アルフレッドはランドローバーに乗り換え、
「引っ張るぞ!いいか?しっかり持て」
[あぁ、頼む!]
アルフレッドは少しづつローバーをバックさせる。
マニュピレーターがガタガタと震えだす。
[カーネリーの腕が悲鳴をあげてるぞ!]オーソンが乗っているWRは通称カーネリータイプと呼ばれている。
沈んでいた前足が少しづつ泥沼から抜けていく。
「どっせい!」オーソンはタイミングを合わせてカーネリーの足を泥沼から引っこ抜いた。
カーネリーは10mほど引っ張られ、泥濘から脱出する事が出来た。
「すまん!助かった!」窓を開け大声でオーソンは言った。
「車体が泥だらけだ!洗車をしないと、みっともなくてシリングタウンには入れんぞ!」とアルフレッド。
「迷彩塗装だと思えばいいのさ!」
「物は言いようだな!出発しよう!」とアルフレッドはウィンチを片付け、ローバーを発進させた。
[底なし沼だったな、ひょ~恐ろしい!一人だったらあそこで野垂れ死んでたな] なんか楽しそうに言う。
「ここからは慎重に行こう」
[そうだな]
その後は順調に距離を稼ぎ、
「もうそろそろ珈琲でもいれるわね」とアリソンが言った時、
台地に屹立する巨大な岩石に、虹がかかっているのが見えた。
シリングタウンを目指し南下を続けている彼等は、その虹の下に緑があるのに気がついた。
それは地平線の彼方から突如現れ、どんどん広がっていく。
「あれはなんだ?蜃気楼か?」
「こんな寒いのにありえないわ」
「あれはなんなのかしら?」と子供達は目を輝かしている。
「森よ!火星の森よ!」とベティが決めつけた。
アルフレッドとアリソンは目を見交わすと、
「火星に森?信じられない・・・」とアルフレッドがつぶやいた。
それは、過酷な火星の大地には植物が根付きにくく、一部の乾燥に強い植物のみが所々散らばる様に生えているのが現状なのだ。
近づいて行くほど地平線の緑の幅は広がり、そのまま進み続け木々が判別できるまで近づく頃には、それが周囲3km程度の森である事が解った。
「やっぱり森よ!私初めて見るわ!」とベティ。
「私も!」とペグ。
「こんな所に森があるなんて驚いたな」アルフレッドは家族に向って言った。そしてマイクを取ると、
「オーソン、この森を知ってるか?」と聞いた。
[知らん、俺もびっくりだ・・・]窓越しのオーソンは首を振っている。
安全を期すため家族をローバーに残し、2人が降りてくると眼前の森を見上げた。
「地図には載ってないぞ、こんな森は」とオーソン。
「あぁ・・」アルフレッドは森を見つめたまま、うつろに答えた。
「どうする?アルフレッド」
「ちょっと中を見てみたい」
「そうだな、俺も興味がある」
ローバーの中で待つように言われた娘達が窓越しに森を見ている。
「安全を確かめたら、子供達にも森ってものを味あわせてやりたいな」
「分かった。まさか危険な奴はいないだろうが、念のため銃を持っていこう」
そう言うとオーソンはカーネリーにもどり散弾銃を持ってきた。
アルフレッドは家族にしばらく待つ様に合図すると、オーソンと森の中に入って行った。
少々肌寒い森は湿度があり、木々と土の香りが湿った空気に溶け込んでいる。
ながらく嗅いでいなかった香りに、二人は一瞬たじろいだ。
「なんか懐かしいな・・・」とオーソン。
「あぁ・・」アルフレッドは2人の娘にこれを嗅がせてやりたくなった。
しばらく歩を進めて、森の奥に目をこらしても危険がある様に思えない。
「みんなでちょっと奥まで行ってみるか?」とアルフレッドは提案した。
「あぁ、何事も経験だ。ペグもベティもいい勉強になるだろう」とオーソン。そして付け加えた。
「銃もあるし心配なかろう」
「そうだな」
2人はローバーに戻り、アリソン、ペグ、ベティに
「みんなで森に入ってみよう」と言うと
子供達は大喜びでローバーから駆け出した。
ケイティも嬉しそうに飛び跳ねている。
「まだ森に入っちゃだめだよ!」オーソンが声をかけた。
「は~い!」子供達は荒野に突如現れた木々をまじまじと見て触って抱きしめた。
「こんな大きな木をみるのはじめて!」とベティ。
楓やシラカバ、モミの木など多種多様な木々が林立し、足元にはハハコグサやノゲシ、ヒメオドリコソウなどが優しい風にゆらいでいる。
それらの木々や草ぐさ、湿った土の香りがその風に溶け込んでいる。
子供達は目をキラキラさせながら辺りを見回し、ケイティは木をクンクンと嗅いでいる。
ケイティには念の為リードをつけた。
こうなると予想していたアリソンが、手際よく作ったサンドウィッチをバケットに入れローバーを降りてくる。
「よし、中に入ってみよう」アルフレッドが言った。
オーソンが銃を片手に先頭に立ち、木々をぬって進んで行く。
案外、起伏が激しく上り下りを繰り返した。
20分程度歩き、すこし高い場所から見渡すと大きな池があった。
池の真ん中をなにかが泳いでいる。
「あれはなに?とぉさん」とベティ。
「ビーバーだ・・・」アルフレッドが言った。
「火星にビーバー?なんでだ?」とオーソン。
子供達の興奮は最高潮に達した。
歓声をあげて池に降りて行く。
ビーバーは、木を咥えたまま水中に潜ってしまった。
「あなた達は?」木の陰にいて気付かなかったが、初老の女性が声をかけてきた。
そこに人がいるとはまるで思っていなかったペグとベティは、びっくりして固まっている。
後から降りてきたアルフレッドが代わりに答えた。
「シリングタウンに向かう途中、見事な森を見かけて立ち寄った者です」
「そうですか、私は火星農務省林野局のキャサリン・レナルズです」
「私はアルフレッド・ビーン、妻のアリソン、娘のペグ、ベティです」
「オーソン・ハンズです」
「ここでなにを?」とアルフレッドが聞いた。
「ビーバーの生態調査です」
「生態調査?ですか」
「えぇ、そうです。放されたビーバー達が元気に暮らしているか、火星の大地に適応できているか確認をしています」
「ビーバーを放した?なぜですか?」
「ここで真水が湧き出る泉が見つかったからです。この森ができるまで、その湧き出た水はただ荒地を流れすぎるだけで、泉をでてすぐに枯れ果ててしまっていました。人の手で植林してもほんのわずかな泉の周りにしか木々は根付かず、森どころか林にすらなりませんでした。そこでビーバーに活躍してもらおうと、つがいにして火星まで連れてきたんです。この森だけで8匹のビーバーがいますよ」
「本当に!?」とベティ。
「解らないな、ビーバーと荒地とどう関係があるんだ?」とオーソン。
「この森を作ったのがビーバーなんです」
「ますます解らない」
「そうか、そういう事か!」とアルフレッド。
「なんだ?教えろよ」
「ここにはもともと何もなく、ただ湧水が荒野を流れていただけだったのさ」
「あぁ」
「ビーバーは水をせき止めダムを作るだろう」
キャサリン・レナルズが引き継いだ。
「火星では夏に気温が40度近くまで上がる事はざらです。小川は干上がり水が貯えられる場所はありません。ビーバーが作り、補修しなが住み続けるダムが、安定的に水をせき止め乾いた土地に水をもたらし周囲の環境を変えるんです」
「ビーバーはダムを作るの?」とベティ。
「あぁそうか、ベティはビーバーを知らなかったんだね」
「あそこを見てごらん」とアルフレッドは指差した。
小枝が積み重なって山になってるだろう?」
「うん」
「あそこがビーバーの作ったダムさ、あの中に彼らの巣があるんだよ」
ビーバーは齧歯類という鼠の仲間で、成長すると1m以上になる。
繁殖力が高く、あっという間に増えていく。
彼等の作ったダムのせき止められた莫大な水の水圧が強くなりすぎると、ダムは突然決壊し道路の冠水や周囲を水浸しにする事があり、害獣として駆除されたり毛皮目当てに乱獲された歴史があった。
しかし2000年代初頭、記録的な干ばつに見舞われた時、干ばつの影響で水位が激減した池に比べて、ビーバーが生息している池では水位の影響がほとんどなかったのが解った。
一度枯れ果てそうになった小川が、ビーバーが戻った事により水辺の環境が一変し、豊かな生態系を取り戻した事などが確認され、彼等の環境への大きな貢献が見直されたのである。
それを火星でやらせようというのである。
キャサリン・レナルズがもう一度引き継いだ。
「ダムを作るだけじゃないのよ。彼等は陸上では速く移動できないから天敵から逃げる為に、ある程度の水の深さが必要なの。その秘密の一つが水中に掘られた水路なのよ。ビーバーが活動する池の底には深い溝がたくさんあって複雑に入り組んでいるの。池は深い程多くの水を貯えられる。つまり、ビーバーは自分達に都合のいい深さになるまで池の底を掘り続け、周辺からより多くの水を取り込んでいるの」
「へ~そうだったのか・・・初めて知ったよ」とオーソン。
ベティはビーバーとキャサリンを交互に見ながら目を輝かせ、ペグは興味津々と聞き入っている。
「あの枝は全部拾ってきた物なの?」とペグ。
「強力な鋭いノミの様な歯で、立木を切り倒してしまうのよ。細い幹なら10回ぐらいで噛み切ってしまうわ」
「もっと近くで見ていい?」
「彼等を驚かせちゃうから、遠くから見るだけにしましょう」
「はい」とベティは素直だ。
ビーバー達は人間の存在など微塵も感じていないかの様に、悠々と池の真ん中を泳ぎ、切り倒した木をダムに運んでいる。
そんな姿を見ながら、アリソンが持ってきたサンドイッチを皆で食べ珈琲を飲んだ。
湿った風がそよいでいる。
ベティはとても幸せな気持ちになった。
キャサリンに別れを告げ、ローバーに戻った彼等は森を周りこむように進み、予定のコースに戻った。
その後はそれ程のトラブルもなく、順調な旅路となった。
パボニス山が見え始めたころ日が暮れ始めた。
美しい夕日が地平線に沈んでいく。
走って走れない事はないものの、安全を考え休む事にした。
整備された都会の道路ではない。
ライトに照らし出された、岩がむき出しの地面は危険を伴うのだ。
彼等は少し早い夕食を取った。
パンとスープとささやかな肉。
今日の夕食はいつも通りの質素なものだ。
ペグやベティの勉強は今どの程度まで進んでいるのか、暖かい地方でワイン造りが始まったなど、そんなささやかな話のあと、オーソンがアルフレッドに聞いた。
「なぁアルフレッド、たしか火星の3大プラントと言われているものがあるよな」
「あぁ」二人ともウィスキーをロックでやっている。
「まずは火星の大気生成プラント。そして今回向っている火星に地磁気を再現させるプラント。最後の一つはなんなんだ?」とグラスを傾けた。
「これがもっとも厄介で、時間がかかり、大事なものなんだ」とアルフレッドもグラスを傾ける。
「と言うと?」カランと氷が音をたてた。
「地球も火星も木星の重力の影響をかなりうけている」
「木星?いきない木星か?」
「そうだ、今奇跡的に火星と地球の地軸の傾きは似た物になってるが・・」
「あぁ」オーソンは身を乗り出した。
それにつられてペグとベティも身を乗り出す。
「火星は木星の巨大な重力の影響を受けて、ぐらぐらと地軸が揺れてるのさ」
「ペグ、もし地軸が90度横になってしまったらどうなると思う?」とアルフレッドは勉強の為に聞いた。
「う~ん、1年の半分が昼で、逆の半分が夜になる?」
「そうだ、それは木星の影響次第でどうにでもなってしまうのが、今の火星の状態なんだよ」
「地球も同じじゃないの?」とベティが割って入った。
「さぁそこだ、地球はその心配がないのさ。なぜか解るかな?」と一呼吸あけた。
3人は頭を抱えてしまった。
「降参だアルフレッド、教えてくれ」
月だよ、月がオートジャイロの様に地球の地軸を安定させているのさ」
「火星にもフォボスとダイモスがあるじゃないか」とオーソン。
火星の月とも言える21km前後の小天体が二つ、火星を回っている。
「質量が小さすぎるのさ、地軸を安定させられないんだ」
「月は大きいの?」とベティ。
「もともと地球の衛星にしては月は大きすぎると、科学者が頭をひねったほど月は大きいのさ」とアルフレッド。
「宇宙の神秘だな・・地磁気といい、月といい、地球は命がやどる為にある様なものじゃないか・・」とオーソン。
「その奇跡の惑星を汚してしまったのが人類だよ」
「まったくだな、まぁ我々はその一人だがな」
「違いない」
2052年、人類は火星への入植を開始し、着々と火星のテラフォーミングを進めていた。
火星の環境を人類の居住に適したものにする為、三つの巨大プラントを基軸とするいくつかの施設を同時進行で建造していた。
この人類の新たなフロンティアは莫大な費用を必要としたが、火星の権益を得る為、資本家達から潤沢な資金を得る事が出来た。
それがこれから起こるであろう大きな格差社会の根源になるとは、殆どの人は考えていなかったが・・・
だがそれは先の話で、この物語には当面関係ないのでこれ以上は割愛する。
「そういえば、日本がフォボスにやばい研究所を造ってたらしいな」とオーソン。
「やばい?危険な、と言う意味か?」
「この前酒場で一緒になった奴で、フォボス補給船のクルーから聞いたんだが、警備が半端ないらしい」
「軍事施設ならいやでも警備は厳重になるだろう?」
「いやなんでもあまりにも危険だから、なにかあった時被害を最小限に抑える為フォボスに造ったっていう、噂だ」
「フォボスか・・・」とアルフレッドはローバーの天井を見上げた。
アルフレッドはこの時、まだこの事を他人事の様に聞いていた。
ローバーの中で皆が笑いくつろいでいる。
夜のとばりが赤い火星の大地におり、闇がローバーを包んでいった。
すいません。仕事が忙しくなってきてしまったので、暫く休止します。
次章から登場人物がガラリと変わり、荒々しい話になってしまいますが、ビーン一家やオーソン達と密接に絡み合っていきますので、長い目で見てやってください。




