第十七話 かててくわえて。男は買物ベタである
父さんが、ご機嫌で帰ってきた。
「母さん、頼まれていた物、安かったぞ!」
それはめでたい。
母さんもさぞご機嫌だろうと思いきや。
「そんなはず無いと思うんだけど」
険しい眉で、けげんな声をあげていた。
おそるおそる父さんを見やれば、その足元には30cmのキグルミ妖怪が。
「アヒル?」
「お金は大事だよね! 私は余計な買物させちゃうほうだけど!」
保険の話ではありませんよ?
保険は必要な買物ってケースもありますし(と、保険をかけておく)。
大金を司る現代妖怪など、この百物語にはふさわしくないのであります。
ともかくスーパーのビニール袋から、ごそごそと品物を取り出す母さん。
「お父さん?」
振り返った時に見せたのは、鬼の形相で。
「頼んだのはみりん、『本みりん』です。お父さんが買ってきたのは、『みりん風調味料』。違うものなんだから、安くて当たり前なの! それと、これは『成分調整牛乳』です!私が頼んだのは『牛乳』、『成分無調整』の牛乳!」
父さんと顔を見合わせる。
何のことだか、全然分からなかった。
ペットボトル入りの、うっすらと色づいた液体。
「みりん」にしか見えない。
牛の絵が描かれている、1リットルのパック。
「牛乳」で無ければ何だと言うのか。
「ユウタ! あんたも分かってないの!? もう!どうして男の人はそうなの!」
わけがわからなくて。
足元のアヒル妖怪に助けを求めれば。
「世の奥様がたから、『男の買物』って言われる現象なんだよね。詳細はググってもらうとして、とにかく『頼まれたのとは違う物を買ってきた』ってこと!」
これはメーカーが悪い!(逆ギレ)
誰がどう見ても違う形のペットボトルとか、色違いのパックとか。
そうしてもらわなきゃ分かんないよ!
アヒル系女子はニヤニヤしてたけど。
母さんはイライラしていて。
「お釣りとレシートちょうだい! 返品して、買い直してくるから!」
「え?安く買えたから、お釣りのぶん、母さんが好きなカリントウ買ってきたんだけど……」
母さん、泣きそうな顔になった。
「余計なことしないでよ!……ちょっと!これ……私、カリントウはPBのって決めてるのに!何でこんな高いの買ってくるの!?」
再び妖怪が解説してくれた。
「『男の人は、お金が余ると余計な買物をする』。これも世の奥様方の悩みのタネ。レシートを捨ててたら返品不可で、これはもう口聞いてもらえないところだったね!」
なるほど理解はできたけど。
父さん、「PBって何だ?」って俺に聞いてきて。
俺も何だか分からなくって。
母さん、ついに大噴火。
レシート保存という「最低限の仕事」が台無しになってしまった。
「安いカリントウでいつも我慢してるのに!私の苦労を分かってくれてなかったんだ!私のことなんて、何にも見てないんだね!」
うわあ。どうしよう。
おたおたするばかりの俺を傍目に、父さんが動く。
「悪かった、悪かったよ。俺の小遣いから出すから!」
うん、理性的な解決だ。
ミスした者が責任を取る、筋が通ってる。さすが父さん、大人である。
「そういうことじゃないでしょう!? そこでまた余計なお金を使おうって言うの!? やっぱり私の苦労を分かってないんじゃない!」
違うんですか!?
これは退散するほか無さそうだと、じりじり移動を試みれば。
「ユウタ!あんたもお金の大切さが分かってない!小遣い減額だからね!」
とばっちり!
「大丈夫だよ。お高いカリントウを食べれば機嫌が直るから」
これまで全てを当ててきたアヒルによる、やけに自信ありげなひと言。
……実際に当たったのを見た時には、初めて妖怪のご利益を信ずる気になったものだった。
「ただ、何かやらかすたびに、関係なくても今回の話が蒸し返されるから。それは覚悟しときなよ?」
アヒル口で言われても、ねえ。
信じたくありません!




