第十三話 名作と資本主義
妖怪たちの遊具となっていたロデオマシーンだが。
実は、これが陽の目を見たのは数年ぶりのことで。
母さんが通販で買ったはいいけど、すぐに飽きてしまい。
高さが手ごろなものだから、いまでは小物置きになってしまっていたのだ。
使われなくなった道具が化けて出るとか?
そんな、「よく聞く話」を頭に思い浮かべていたところ。
聞こえてきた。
「こんにちは!」
言葉を返す間もなく、身長30cmの少女にまくし立てられる。
「私はアン○・D・シャーリー!」
聞き取れない部分があったから良いようなものの。
それがなければいろいろと問題のあるお名前であった。
「平たく言えば『もったいないお化け』なの!」
赤毛でそばかす、口が回る少女。
ツッコんだら長くなるだろうなという確信はあったけれど。
それでも聞かずにはいられない。
「平たく言えば?」
「ええ。『もったいないお化け』は、とにかく捨てるのを嫌うでしょう?でもそれってあんまり無分別だと思わない?知恵が足りないわ。がさつな男の子みたい」
ふむ。
「だって21世紀よ?資本主義は高度化し、物よりお金、お金もデータ数値化される時代。金銭や動産とは区別されてきた土地だって、証券化されちゃった。そうすれば無個性なデータ数値に変えることができて、一気に流動性が高められるものね?それが悪い方向に働いたのがリーマンショックだけど、こういう流れはもう止められないってことは、知ってるでしょ?」
すいません、知りませんでした。
「もう、男の子はダメね!19世紀からまるで変わらない!」
カナダの平和な島に住んでる男の子ですね、分かります。
「そういう『気分』ぐらいはユウタ君だって感じているはずよ? 昔はただただ『額面』を気にしていた、いえ、『物』であるだけで、もったいないと思っていた。だけどいまはその『価値』……『収益性』を、誰もが気にする時代じゃない」
うん?
「『ロデオマシーンを3万円で買いました』。これを『3万円の物』と固定的に見るのが昔の人でしょう? でも今の人は、『減価償却』とか、『効用』とか……そうね、『3年使ったから、もとは取れたかな?』とか考えるじゃない。ほかにも『一畳を占拠しているということは、家賃のうち毎月1000円を無駄にしているのと同じだ』とか、ね? 昔の人が、『何年使おうが、場所ふさぎになろうが、動く限りは価値がある』と考えるのとは違うでしょう?」
時代を先取り……まではしていないかもしれないけれど。
進歩的な女性(?)であることは、間違い無さそうだ。
「でもね?『もったいないお化け』の理屈も分かるの。バッファの問題よね。『物が溢れる時代が、いつまで続くかなんて分からない』じゃない」
そんな時代が来ても、いやむしろそんな時代にこそ、ロデオマシーンは要らないと思うのですが。
「そんなことないわ。ロデオマシーンを分解すればモーターが取れるでしょう?70~80年前の日本人ならそう考えるところじゃない。想像力が足りないんだから!」
想像力の翼を広げるのは得意そうですものね。お名前的に考えて。
「理論は時代と共に移り行くわ。でも、人の『気持ち』は、時代が移ってもあんまり変わらない。それが迷いにも悩みにもなる。だから昔から今まで、ずっと言われ続けているんじゃない。『執着から離れろ、煩悩を去れ』とか、『ときめきを感じないなら……』とか」
ふむふむ。
「合理的だと頭では分かっているけれど、心では抵抗を感じる。その『悩み』・『心の負担』を取り除こうって目的は、私にも分かるわ? でも、失われていくその悩みを惜しいとは、素敵だとは思わないのかしら?」
そういえば、赤毛でそばかすのあの少女。
進歩的な知性と、柔らかな感性と、ふたつを兼ね備えていたっけ。
「誰しもが感じている気持ち……『物を捨てようと思った時に抵抗を感じる』、それも『理屈ではいらないと分かっているのに、どうしても捨てられない』っていう『あるある』を、私は象徴しているの」
でもそれ、「昔からの話だ」って。今君が口にしたばかりじゃないか。
「代替わりしたの。昔は、あごの四角い鶏肋輔ってお爺ちゃんだった。でも最近、わかりやすい言葉が流行ってるから……」
やっと名前が聞き取れた。
「私の名前は、『アンチ・断・捨離』。それと、アンチは、Antiだとあんまりありふれていて、ロマンチックじゃないでしょう? だからAntieでお願いね!」




