第十一話 斜陽
それは、音楽の授業のことであった。
教室には、各自の前に安手の年代ものキーボードが置かれていて。
先生が来るまで、みなが閑にあかせて適当にいじっていたその時。
前の席に現れた。
30cmの猫耳が。
「分かるにゃー?……鍵盤を目の前にしたとき、人は思わず弾いてしまう、そういう『あるある』にゃ」
日本では「猫ふんじゃった」の名で知られている(曲のほう。詞は関係ないのである)妖怪であった。
「ユウタも弾いてくれていいのよ?……じゃなくて、にゃ?」
キャラ作りに苦労しているらしい。
記す側は権利関係に苦労する。
「最近、人気に翳りが出ているからにゃ」
そう言って、肉球を彼方に向けた。
「ドレミファソーラファミ、レ、ド 」
ああ、あれはなかなか耳に残るよね。
「フンパーディン子にゃ」
おざなりぃ!女子なのにカイゼル髭って、造形もおざなりぃ!
「ま、ぽっと出だから仕方無いにゃ。リンゴの着ぐるみの『ヤマ○子』じゃあ問題があるしにゃ。 それに、ああ見えてなかなかメルヘンなんにゃ」
弾いてるヤツにかいがいしく纏わり憑いていた。
可愛くないこともない……かな?
「ねえ、違うよね。わたしのことちゃんと見てくれてるんなら、そうじゃないってわかるよね?この曲はね、後半になると少し音が増えるの。そんなに難しくないよね?どうしてちゃんとしてくれないのかな?」
メル……ヘン? メンヘラ(小声)?
「余裕がないのにゃ。我輩のように長年愛されている妖怪は、ちょっとしたミスには寛容になれるにゃ。でもその余裕もいつまで続くか……」
しゃがれた声が聞こえてきた。
「『猫ふんじゃった』さんは、あれでなかなか技術が要りますしね。全くの初心者には難しい」
「ソラシーラソ ソラシラソラー」の音と共に、屋台を引いたおっちゃんが現れた。
ああ、チャルメラ……。クラスにひとりは、いるような気がする。
底堅い人気を誇る現代妖怪か。
「そうそう。一度は習わないと、猫さんを召喚できないんじゃないですか?」
「ラー♭シー」の音と共に、ごつい自転車に乗ったおっちゃん。
豆腐屋さんであった。
「私など、絶滅寸前です。都内にはまだ残っているという噂がありますけれど」
「あんたはいいにゃ。オーケストラの音合わせで必ず使われるにゃ?……中高生オーケストラが、『ラー』の音程ズレで結果的にそうなってるだけにゃけど」
「ピアノに比べて、管弦はそもそも人口が少ないんですよ?」
少し傾き始めた日が、3つのシルエットを形作った。
「少子化はダメにゃ。不況も。子供たちが気兼ね無く習い事できる世に。……それと、J○○○○○はやりすぎにゃ」




