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神通力少女は何がなんでも『普通』に生きたい。(reboot ver.)  作者: 宇宙 翔(そらかける)


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7/14

一難去って……

翌日の朝

緊張気味に教室のドアを開けると、

案の定ニコニコ顔の見慣れた女子の姿が目に飛び込んできた。


「おはよ、木花さん」

「お、おはよ……」

「昨日はありがと。碧さんに凄く褒められちゃったし、

また今度何か作って持って行くね」


そういえば碧と中瀬麻由は二人で盛り上がって次回以降の約束までしちゃっていた。

昨日は結局碧がずっといたので、二人だけで会話する機会も特に無く、

友梨奈としては助かったのだが、

今みたいに二人きりになると、外から聞こえてしまうんじゃないか、ぐらいの

激しい心臓の鼓動音とピリピリとした緊張感がハンパない。


「木花さんの家って、外観凄い古風で、かなり歴史ありそうだよね」


友梨奈も幼少期に引き取られた先なので家の詳細は聞いていない。

築百年以上らしいが、生活する部分は今風に改築されている。

ただ、碧しか入らない古い区画も残っていた。

能力絡みの気配がするので、友梨奈は近づかないようにしている。


「なんか古いお宝とかありそうで、探検させて欲しいかも」


いかにも楽しそうな笑顔を向けてくる中瀬麻由。

その発言に思わず少し目を見開く友梨奈。

確かに普通の家に無いものがあの場所には色々あるが、

それを広められると『普通』のイメージからまた遠ざかってしまう。

何より碧が麻由に見せるだろうか。


クラス内では引き続き中瀬麻由は大人気で、人が絶え間なく席に寄ってくる。

自分に寄って来てるわけではないので、友梨奈に少しずつ耐性はついてきたが、

流石に昼休みには空間の人密度がキツくなって逃げ出した。


隣の校舎の半地下の備品倉庫。

小さいすりガラスの窓からのあかりでうっすらと中が見渡せる程度の薄暗い場所。

昼休みにわざわざこんなところに来る生徒は皆無で友梨奈の憩いの地だ。

少しカビ臭い空気も教室の息苦しさと比べると清々しささえ感じてしまう。


「ここが木花さんの隠れ家?」


落ち着いていた心拍数がまた突然跳ね上がった。

この声は……


「ごめん、お昼休み話そうと思ってるのにいつも席にいないから、

今日はついて来ちゃった」


中瀬麻由がぺこりと頭を下げた。


(クラスにもっと釣り合う子達が色々いるのに……なんでわたし?)


これまで友梨奈から出来るだけ距離を取ろうとする子達はたくさんいたが、

自分から距離を詰めて来た子は初めてだ。

転校して来たばかりで友梨奈のことをよく知らないから

間違った動きをしちゃってるのだろう。

自分と関わることを「間違い」と考えるのは、さすがにちょっと惨めだった。

けれど、後から急に態度を変えられるよりはずっといい。


「……ねぇ……クラスのみんなから……わたしのこと……」


気が進まない質問に全部言い切れずに俯き口籠る友梨奈。


「あー、うん、なんか色々言ってくる人がいたけど、

わたし、自分か本人から見聞きしたことしか信じないから。気にしないで」


晴れやかな笑顔で友梨奈に答える麻由。

友梨奈的には気にして距離を取ってもらう方が気持ちがずっと楽になるのだが。


その日の終礼の後。


「それじゃ、また明日ね」


友梨奈に笑顔を向けてそういった後、席を立って教室を出て行く中瀬麻由。

かなり警戒態勢に入っていたので、ちょっと拍子抜けした。

流石に二日連続で他人の家に遊びには来ないのか。

『普通』の人付き合いの経験値が著しく低い友梨奈でも

それぐらいは常識的に理解できた。

まして中瀬麻由は育ちが良さそうな雰囲気が漂ってるし。


校門に向かってゆっくり歩いていると、

中学生達に混ざってランドセルを背負ったツインテールの小さい姿が門の外側に見えた。


(一難去ってまた一難か……。もう来るな、ってあれだけ言ったのに……)


こっちはこっちで友梨奈が一番避けたい問題を持ってくる。


「梨奈ねーちゃん、時間が無いの」

「わたしも時間無いから。それじゃあね」


あかねに背を向けて歩き出す友梨奈。

慌てて友梨奈を追っかけてついてくるあかね。


「ちょっと! 梨奈ねーちゃん、絶対暇だよね?」


その言い方明らかに悪意を感じる。

陰キャでほぼ引き篭もりでも忙しいことはある。

学校の宿題とか、アニメ鑑賞、読書やゲームの続きとか。


「そんなの急ぎの用じゃないし」


(こいつ、話しかけてないのに心の声を読んでツッコんできやがって)


「梨奈ねーちゃん出力が大きすぎるんだよ。ちゃんと調節しないと」


振り向いてあかねの顔を目線で睨む友梨奈。

そういう世界には関わりたくないから情報や知識を入れていないのに、

あかねと関わってると知りたくもない余計な情報が入ってくる。


「役に立つ情報の方が多いと思うけどなぁ。

例えば、背が大きい綺麗なお姉さんが離れたところからずっとこっち見てるっぽいとか」

「!?……」


その描写で当てはまるのは……友梨奈が知っている範囲では彼女しかいない。

そんな行動を取る理由って何?……。

本人に直接聞けないことを何か探ろうとしている?

自分で見聞きしたことしか信じないと言っていたっけ。


「あの人から逃げるなら手伝うよ」


あかねについていくと、また能力を使う現場に誘導されそうで嫌な予感しかない。

でも学校でまた能力絡みの噂が出るよりはマシか。

中瀬麻由の発信力はかなり大きそうだし。

友梨奈の脳裏に小学四年生の時の嫌な思い出がよぎった。

ため息を吐きながら早歩きのあかねについて行く友梨奈。


信号や他の人の流れ、通りの死角を上手く使いつつ、

家に真っ直ぐ帰ったと見せかけて、結局最終的に着いたのは

この間あかねに連れて来られた公園だ。

流石に千里眼でバードアイ並みに周りが見晴らせるだけある。

その能力には小五の時の生き霊事件でお世話になったことがあったし、

今でもその時のことを一応感謝している。

とはいえ今回の終着点は納得出来ないが。


「どうしよ、梨奈ねーちゃん!

『助けて』って言ってる子供の声がどんどん小さくなってるの」


焦った表情で友梨奈を紅い瞳で見つめるあかね。

この肌がピリピリする嫌な感じ、

また前回と同じく公園内に空間の歪みが出来ているのを感じる。

木花家の人間は、そこに近づくと言葉にしづらい感覚的な違和感がしたりして、

それがそばにあることがなんとなくわかる。


公園の奥に視線を向けると、青白い子供の腕らしきイメージが、ベンチの上に

空間を割って出現しているのが視えた。

助けを求めて手を伸ばしてる、と言うよりは力無くぶらりと垂れ下がっている感じだ。


「あぁ、やっぱり、もう時間が無い…」


あかねがそのビジョンを視て暗い声で呟いた。

前回に引き続き命の危機が迫っている子供。


(わたしが断れないようにそういう事件、事故ばかり選んでるんじゃないの)


友梨奈の右手が無意識に小刻みに震えている。

能力を使う前はいつもこうだ。

その手を取ったら、その人の命を託されるような気がして、気が重いからかもしれない。

『普通』のJCなら、日常でそんな責任を託されることなんてない。


ため息を吐き、空間から突き出た腕に向かって手を伸ばす。

友梨奈の右手の指がその手の指先に触れ、瞬間ビクッと反射的に手を引いてしまう。

一瞬の躊躇の後、覚悟を決めてその手を思い切りぎゅっと握った。

次の瞬間、友梨奈の身体がガクガクと震えて目の焦点が合わなくなる。


あかねの目の前には、腕を前に突き出した体勢で放心状態で立っている友梨奈の身体。

見開いたその眼は紅く光っている。


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