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神通力少女は何がなんでも『普通』に生きたい。(reboot ver.)  作者: 宇宙 翔(そらかける)


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No More 神通力宣言

握っている手にリアルな温かみを感じ、目を開けると、そこは自動車の後部座席。

汗だくで真っ赤な顔をした小さな女の子が、息も絶え絶えに横たわっている。

その子の手を握った状態で友梨奈は車内に出現していた。

嫌々来たものの、ちゃんと移動できてほっとする。


中はサウナどころではない暑さ。

といっても友梨奈はサウナに入ったことはないのだが。

呼吸で鼻と喉が焼けるような感覚が走る。

今は霊体のはずなのに、繋いだ手を通じて女の子の感覚を共有しているのかもしれない。


あまりに苦しそうな姿に、心の中では涙が滝のようにあふれそうだった。

しかし瞳からは一滴も涙は出ていない。

――霊体だから、ではない。

小さい頃、記憶と一緒に普通の感情表現の仕方を失くしてしまったからだ。


(きっとこれも、クラスで浮く原因だろうな。喜怒哀楽を表に出さない人と話すのって、

自分でも気持ち悪いと思うもの)


基本的な感情は頭で理解しているつもりでも、友梨奈のそれと他人のとは違うのかもしれない。


(今はそんなことを考えている場合じゃないし!)


友梨奈は頭を振って我に返った。


「……今すぐ出してあげるから」


後部座席のロックを外し、内側からドアを開ける。

ぐったりした女の子を抱き上げ、外へ運び出した。

地面に寝かせても、苦しそうな様子は変わらない。


「ダメだわ……救急車呼ばないときっと助からない」


今の状態の友梨奈は普通の人には見えないし、声も届かない。

SFのテレポーテーションみたいに携帯持って移動出来れば、と思うのだが、

そんな都合が良い機能は木花家に与えられた能力には無いようだ。

大昔に授けっぱなしじゃなくて、時代に合わせて能力のアップデートサービスをしてくれれば良いのに。


自分の携帯が無いなら、いっそ周りの人から携帯を無断で拝借して119番するっていうのはどうだろう。


(つか、そもそも今のわたし、声出せないじゃん……)


掛けても無言電話で切られるのがオチだ。


気ばかり焦ってなにも解決策が思い浮かばない友梨奈。

その間にも女の子の症状が悪くなっているように見えて、ますます気持ちが焦り、

無駄に車の周りをぐるぐる何度も周回してしまっている。


(あー、だからこんな半端な能力で人助けをするのは嫌だったのよ。

妙に目と耳が良いあかねのせいだからね)


瞬間、頭の中に何かが疾った。

なぜか自分の独り言に妙な引っ掛かりを覚える。


(どこだ? どこが気になった? 

特に変なことは言ってないのに。何かが引っ掛かる……)


もう一回同じセリフを頭の中で繰り返す友梨奈。


(そうか! 耳が良いってことは……もしかして……)


確信は全く無かったが、空に向かって話しかけてみる。

きっとあの子ならこの声が聴こえるはず。

そういえばおばあちゃんには何度も心の声を聞かれて怒られた。


「あかね、聞こえるでしょ? わたしの携帯使って。カバンに入ってるから。

そこから急いで救急車呼んで。場所は……そう、そこのパチンコ店の駐車場。

赤い軽ワゴンって言って。頼んだわよ」


女の子の手を両手でぎゅっと握る。


「大丈夫、絶対助かるから。もう少し頑張って」

「お姉ちゃん、ありがと……。お母さんに車の中でおとなしくしてなさいって言われたけど、

すごく……暑くて、我慢できなくて……。外に出ちゃって怒られるかな……」


息も絶え絶えに答える女の子。

生死の境にいるせいか、友梨奈の存在を感じ取れているようだ。


(もう……なによ。こんな小さい子を車に閉じ込めて、自分は遊んでるなんて、大人として最低!)


癒しの力でもあればいいのに、今出来るのは“手を握る”ことだけ。

祈りを込めて小さい手をただただ強く握り続ける。


やがて――遠くからサイレンの音。

普段ならドキッとさせられて精神的に嫌な音だが、この時ばかりは心地良く心に響く。

救急車が駐車場に入り、赤い軽ワゴンの隣に停まった。

降りてきた救急隊員が横たわっている女の子に気づき、担架に乗せて救急車へ運び込む。

その瞬間、友梨奈の意識がふっと遠くなった。


次に視界に入ってきたのは公園のベンチ。

そこへ満面の笑顔のあかねが、どアップで飛び込んできた。


「流石! 梨奈ねーちゃん。りこ姉ちゃんが見込んでたとおりだわ」


アップで見るあかねの顔は可愛くて少し心拍数が上がったが、

能力を褒められても全く高揚しないし嬉しくもなんともなかった。


「あのね、霊体で移動して現実のモノを神通力で動かすと、すごく疲れるんだからね。

しかも現場に行っても、毎回わたしが助けられるシチュエーションとは限らないし」

「梨奈ねーちゃんは最強なんだし、きっと木花家に伝わる観音様の持物も使えるよ!」


どこかで見たようなポーズでツインテールを揺らし力説するあかね。


「それに助けられる可能性があるだけいいじゃん。わたしなんか聴こえたり視えたりするだけで、

他に何も出来ないんだよ」


身内の誰が言っているのか知らないが、あかねの姉りこも同じようなことを言っていた。

おそらくその受け売りだろう。

だが「最強」と言われても、友梨奈の頭の中では『最凶』に変換されてしまう。

それほど友梨奈にとっては忌むべきものだ。


「今度助けを呼ぶ声が聴こえたら、すぐに警察とか救急車を呼べばいいのよ。

それであなたでも助けられるから。今回も実質あかねの電話で助けられたようなものだし。

ってことで、もうわたしを呼びに来ないでよ、じゃあね」


さっさと背を向け、公園の入口へ向かう友梨奈。


「それじゃ助けられないから、わたしたちの能力があるのよ! 

梨奈ねーちゃんのバカ!! ボケナス!」


(久しぶりに会った従姉妹にバカ呼ばわりされるとは……。で、『ボケナス』って何よ?)


可愛い従姉妹を構ってやりたい気持ちは人並み以上にあるが、能力関連はごめんだ。

木花家の呪われた力のせいで両親は亡くなり、去年あかねの姉りこも同じ原因で命を落とした

――と友梨奈は考えている。

誰も詳しくは教えてくれないが、きっとそうだ。

両親の分も長生きし、『普通』に幸せになる。それが友梨奈の人生の目標だ。


だがこの後も、あの時きっぱり断ったにもかかわらず、あかねは事あるごとに事件や事故へ

友梨奈を巻き込んでくる。

(あかねもこの呪われた力を使いたくないはずなのに――)

彼女がそこまで能力を使った人助けに固執する理由は、後になって知ることになった。


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