友梨奈 meets 可愛い疫病神
神通力少女の世界観にスムーズに入っていただくために、10話までは毎日21:00更新予定です。
それ以降は週3回ぐらいの更新を予定しています。
それではよろしくお願いします。
中瀬麻由の意味深な一言や、明日から周りに人が多い中でどう生き延びるのか、など
真剣に考え事をしながら生徒玄関から校門へ向かって歩いていると、いきなりどこからか声を掛けられた。
「梨奈ねーちゃん!」
そもそも学校では先生以外、友梨奈の名前を呼ぶ人はいない。
まして下の名前で気安く呼んでくる人なんて存在しない。
お姉さんってことは……まさか自分が知らないうちに生き別れの兄弟がいた?
あるいは両親が初婚じゃなく、異母兄弟や異父兄弟がいたとか……。
ぼっち生活で身に付いた妄想癖がフル回転する。
想像が正しいかはさておき、想定外の呼びかけにかなり動転してきょろきょろあたりを見回すと、校門の外に小学生ぐらいのツインテールの女の子が立っていた。
背の高さとランドセルから見て、間違いなく小学生だ。
(わたしの名を呼ぶのが……小学生?)
ニコニコ笑顔でこちらを見ているが、どこかで見たことがあるような可愛い子だなぁ……ぐらいの印象で、誰かは心当たりが無い。
テレビや動画で見た子かもしれない。
そんな有名人に知り合いがいるはずもないが。
怪訝な表情の友梨奈を見て、その子の笑顔が消え、ジト目になった。
二人はお互いの顔を見合って、しばしの沈黙の後、友梨奈の脳裏に過去の記憶を元に成長させたモンタージュ写真が突然浮かんだ。
「あっ、あーーー、あかね! 久しぶり!」
「……梨奈ねーちゃん、今の変な間って、わたしのこと完全に忘れてたよね?」
「そんなわけないじゃん。いつの間にか大きくなってたから見違えただけよー」
苦しい言い訳に、頬がピクピク引き攣る。
「どーだか」
めっちゃふくれ顔のあかね。
この子は昔からどんな表情でも可愛い。
三年ぶりぐらいで正直存在を忘れていたが、あかねは従姉妹。
亡くなった友梨奈の母の妹の二番目の子だ。
確か小学四年生ぐらい。
くりくりした大きな目にちっちゃく可愛い鼻と口、まるでお人形みたい。
「で、どーしたの? 今日は急に」
「……ちょっと梨奈ねーちゃんに助けてほしいことがあって。一緒に来て欲しいんだ」
「いいけど……何? 宿題?」
ぼっちで引き篭もりな生活のおかげ?で、学習時間が充分取れているので結構勉強は得意だ。
この機会に年下の従姉妹にいいところを見せられるかもしれない。
「時間無いから、とりあえずついて来て」
否定も肯定もせず、ただ時間がないという返答。
特に疑いも無く早足のあかねにつられ、黙ってついて行ってしまった。
しばらく歩いて、住宅街の人気の無い寂しげな公園に着く。
少子化や禁止事項の増加で、こういう公園は多いらしい。
人混みや行列が嫌いな友梨奈は、人口減少はむしろ大歓迎なのだが。
(公園ってことは一緒に遊んでって誘われただけかも)
なんて能天気に考えていたが、公園奥のベンチに向かうあかねの進む先を見て、友梨奈は急に立ち止まった。
視界に“それ”が見えたからだ。
「やっぱり、梨奈ねーちゃんにも見えるんだね」
あかねが振り返る。
「その瞳、わたしと一緒で紅くなってる」
いつの間にかあかねの瞳が紅く染まっていた。
自分では見えないが、友梨奈の瞳も同じ反応をしてしまっているらしく、誤魔化しが効かない。
「りこおねーちゃんが言ってた。『梨奈ねーちゃんはわたしと同じ種類の力を持ってる』って。『小さい時から一族で最強レベルで、悲念の力だけじゃなく強力な慈念の力も使ってた』とも」
(……そのセリフ、確かに昔りこちゃんから聞いた気がする。ほとんど意味がわからなかったけど)
「あたしの能力じゃ人が助けを呼ぶのが遠くから聴こえたり、その姿が視えたりするだけなの。梨奈ねーちゃん、助けてあげて!」
二人の視線の先には、歪んだ空間から突き出した小さな子供の腕のイメージ。
「……。この能力は使いたくない。使っちゃいけないの……」
「なんで? 小さい女の子が車の中で暑くて死にそうなの! 梨奈ねーちゃんだったら、ここからその子のところに行って助けてあげられるでしょ!」
あかねの言う能力――
助けを求める”手”を握れば、思念で生み出された体 “意生身”《いせいしん》としてその人の元へ行ける力
しかし他人から見れば能力を使う友梨奈は、何もない空間と握手している怪しい子にしか見えない。
そのせいで昔は変人扱いもされた。
自分が視えていなければ他人の不幸を無いことに出来る。
でも今は、助けを求める小さな腕が友梨奈の紅い瞳にはっきり視えてしまっている。
その上あかねに具体的に状況説明までされてしまった。
諦めたように俯いたままのろのろと右手を伸ばす友梨奈。
(今回は騙されてついて来たけど、二度目はないからね! もう二度と使わないと毎回決心しているのに……なんでこう……)
『小さい女の子が暑くて死にそうなの』
頭にあかねの言葉がリフレインする。
下唇をキュッと噛んだ友梨奈。
恐る恐る伸ばした右手で小さな手をぎゅっと握った瞬間――身体がガタガタと震え、意識が急速に遠のいた。




