神通力少女 meets 陽キャアイドル
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり……。
(あーー、この鐘の音がまさにそうよね)
娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
驕れる人久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
猛き者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。
(確かに人間なんて宇宙や地球スケールから見れば塵程度の存在かもなぁ……)
壁に取り付けられた古びたスピーカーから、朝の予鈴が鳴り響く。
その音を聞きながら、一限目の国語の教科書に出てくる一節に当てはめて、
窓際一番後ろの席で低〜いテンションのわたしーー木花友梨奈。
教室の中は朝からハイテンションで騒がしい。
推しの話で盛り上がる女子、プロレス技をかけ合う男子、
時間ギリギリで全力疾走で教室に滑り込んできて酸欠寸前の生徒。
……うん、いつもどおり。
でも今日は、なんかさらに騒々しい気もする。
「もう授業始まるから早く席についてー」
担任の井上先生が教室に入ってきた。
その後ろについて見慣れない長身、ロングヘアの女子。
「ほら、あの子よ、職員室で見たの。うちのクラスだったんだ」
「綺麗〜、モデルみたい」
「なに、芸能人来た?」
クラスの連中が口々にその女子について語っている。
どうやらいつもより騒々しいのはこの子のせいらしい。
「はい、静かにして。みんなに紹介します。
今日からこの学校に転校してきた中瀬麻由さんです。
中瀬さん、一言挨拶してもらえる?」
「はい」
「今日からこの学校に転校してきた中瀬麻由です。
みなさんよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる中瀬麻由。
綺麗なストレートのロングヘアがふわっと揺れる。
「じゃあ、席は木花さんの隣ね」
井上先生が友梨奈の右隣の空き席を指差している。
その発言でクラスが一斉にざわついた。
その空気にまるで反応を見せず、教室の後方へゆっくり歩き、
友梨奈の右隣の席に座る麻由。
左側に半身を向けて友梨奈に笑顔を見せる。
「木花さん、わたし中瀬麻由。一応初めまして。これからよろしくね」
「あ゛……、よ、よろしく……」
学校では普段ほとんど発声していないから、声が上手く出なくてどもってしまった。
他人がすぐそばにいるだけで、妙に緊張して心臓のバクバクが半端ない。
鼓動が隣の席まで聞こえないか気になってしまう。
その後は特に隣の彼女からのコンタクトも無く、普通に授業が進んだだけだったので、
大分心も心拍数も落ち着いてきた。
ちらっと横を盗み見ると、整った綺麗な横顔が目に入った。
(これは男女ともざわつくわけよね。しかも高身長で手足も長いし、髪もサラッサラ)
友梨奈はショートでくせっ毛なのでちょっと妬ましかった。
冷静になってから思い返すと、中瀬麻由の最初の発言が気になってきた。
(『一応』ってなに? 意味わかんないし)
こんな目立つキャラ、今までに会ってたら絶対忘れていないはずだ。
一限目の授業が終わるとすぐ、
待ってたように中瀬麻由の周りにクラスの連中がどっと集まってきた。
女子達が彼女の周りを囲んで質問攻めにして、
男子達はその外側でニヤニヤしながら見ている。
自分のそばに大勢の人がいるストレスに耐えきれず、
こっそり席を立って教室を出る友梨奈。
背後で誰かが『あっ!』って言う小さい声が微かに聞こえた。
その後の授業の合間も生徒が大勢集まってくるのは変わらずで、
友梨奈は毎回席を立った。
その度に中瀬麻由がこちらを見ている感覚があったが、きっと気のせいだろう。
お昼休みも当然彼女は大人気で、友梨奈は給食を素早く食べ終えると、
いつもの半地下の備品倉庫に逃げ込んだ。
もし毎日この騒ぎだと全然落ち着かない。
井上先生が中瀬麻由の席を替えてくれないだろうか。
きっとクラスの連中は友梨奈の悪い噂を吹き込んでるはずだから、
今頃彼女も席を替わりたくなっているに違いない。
初対面の子にいきなりネガティブなイメージを持たれるのは気分良くないが、
背に腹はかえられない。
午後の授業になると集まる生徒が目に見えて減ってきた。
きっとひと通りのQ&Aが終わったのだろう。
これならもう逃げなくてもいいかもしれない。
ホッと小さく息を吐く友梨奈。
そして長く落ち着かない一日も、ようやく六限目の授業が終わった。
いつものように速攻で家に帰ろうと通学カバンを持って席を立つ友梨奈。
「あ、木花さん!」
隣の中瀬麻由から突然声をかけられた。
普段起こらない事象に対して、また鼓動が一気に速くなった。
まさか悪い噂に対してのクレームだろうか。
「あの……二人で話したいことがあって……」
それにちょうど被せるように担任の井上先生の声
「中瀬さん、まだいくつか説明と手続きがあるから、この後私と一緒に職員室に来て」
「あ、は、はい。今行きます」
友梨奈の方を申し訳なさそうに見ながら教壇の方に向かう中瀬麻由。
友梨奈はその隙に急いで教室を後にした。
あんな派手な陽キャと二人きりになったら本当にどう対処していいかわからない。
今回はうまく逃げられたが、明日以降まだ危険だ。
お昼休みと下校時間は全力で席を立たねば、と心に決めた。




