プロローグ 〜 ep.1. 地縛霊で自爆
これは「神通力少女は何がなんでも『普通』に生きたい。」の全面改稿・改編版です。
既にオリジナル版を第二部まで読んでいただいた方には、
ストーリー的には第三部で合流する予定なので、そこまでお待ちいただければ。
キャラクターや大きな世界観の設定は変えていません。
もしお時間あれば、オリジナル版との違いを楽しんでいただくのもありかもです。
初見の方は、この先「神通力少女」の世界を楽しんでいただければ嬉しいです。
今流行の要素は全くありませんがw、
一部の人には何かが心に刺さったり、
たまに読み返してキャラクターたちに会いたくなったりする、
そんな『残る』作品にしたいと思って書いています。
それではこれからよろしくお願いします。
プロローグ
ポツポツと小さい雨粒が顔に当たってくる。
灰色の分厚い雲で覆われた空は、夕方なのにもうかなり薄暗い。
今は小降りになっているが、昨日の集中豪雨の影響で、普段穏やかに市内を流れる川は、水位が急上昇してまるで別の生き物のようにうねる濁流に変貌していた。
その川沿い、河川敷の上を通る道路を、一人の女子高生が自転車で帰宅していた。
左下に見える轟々と音を立てる凶暴な濁流を、恐る恐る眺めながら走っている。
突然背後から右肩に風の塊がドンっと勢いよくぶつかってきた。
「え?!」
次の瞬間、猛スピードの車が脇すれすれを通り抜けていく。
必死にハンドルをギュッと握るが、車の風圧で自転車は大きく左へよろけ、
濡れた路面でバランスを失う。
そのまま川へ続く土手の斜面を勢いよく転がっていき、
あっという間に濁流に飲み込まれた。
女子高生の体は自転車から投げ出され、一瞬宙に浮いたあと、背中から斜面へ
落ちた。
そのままずるずると滑り落ちていく。
落ちながら必死に広げた両腕と両足の抵抗で、間一髪途中で止まった。
そこから両手で地面を掴み、匍匐前進で土手を登ろうとするが、濡れた土と草で
滑って逆にずるずると下っていってしまう。
慌てて足で踏ん張って滑りを止めようとした時、その足には全く力が入らなかった。
足元を生暖かい感触が伝う。
これはかなり出血しているに違いない。
この足の状態であの激しい流れの中に落ちたら絶対助からない。
(今日はお母さんの誕生日なのに。早くおめでとうって言ってプレゼントを渡したい
のに)
残った力でもう一度両手でもがいたが、さらに体は斜面をズリ落ち、足先が水面まで
間近に迫ってきている。
「だ、誰か!!」
「助けてーーー!!」
思わず叫ぶ女子高生。
その声は濁流のノイズでかき消され、周辺には何の明かりも見えない。
その時右手を誰かにぎゅっと掴まれたような温かい感覚が走った。
目に映るのは自分の右手だけ。
でも確かに右手を何かに掴まれた状態で斜面から上に強く引っ張られ、ゆっくりと
体が登っていく。
(な、なに? なにが起こってるの?)
そのまま道路脇まで引き上げられた後、女子高生は呆然とカエル座りのまま
動けなかった。
手を掴まれた感覚がスッと消えていく直前、闇の中に一瞬紅い瞳が光っているのが
見えたような気がした。
「あ、ありがとう……」
その瞳に対して思わず声を出した女子高生。
辺りには濁流のゴーゴーという音だけが響いていた。
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第1話 地縛霊で自爆
わたし、木花友梨奈。14歳、F市M中学2年生。
両親を小さい時に事故で亡くし、その後は母方のおばあちゃんに引き取られ、
今も一緒に住んでいる。
周りから想像されるほど今の生活がすごく不幸なわけじゃないけれど、周りの子と
同じように両親と一緒に『普通』の家族生活を送りたかった。
その願望のせいか、子供の頃からいつも『普通』の子でいようとしていた。
過去に失ったものはもう取り戻せないけれど、自分が『普通』でいればこの先
普通の幸せを掴めるような気がしてたから。
その願いは小学四年生の時に最初につまづいてしまった。
あれはクラス全員で課外授業に出かけた時だ。
交差点で停車中のバスの窓から、友梨奈は中央分離帯に座り込む青白い顔をした
若い女の人を見つけた。
なんであんなところに……。
そう思って、とっさに隣の席の子に声をかけた。
「ねえ、あの人危なくない?」
通路側の席に座っていたその子は、友梨奈の指さす先を覗き込んで、
しばらく無言になった。
「……友梨奈ちゃん、そこ、誰もいないよ」
「え? だって、そこに顔色悪い若い女の人が座って……」
そう言っている途中でようやく気づいた。
あれって視えちゃいけないものだったんだ。
怯えた表情で友梨奈を見つめる隣の席の子。
その後は目的地に着くまで二人とも無言だった。
学校への帰途、友梨奈は席に一人ぼっちになった。
翌日、教室で友梨奈の隣の席は空いていた。
クラスの女子は誰も理由を説明しなかったし、友梨奈も聞かなかった。
男子は亡霊女とか、ゲゲゲの友梨奈とか、トイレの友梨奈さんとか、言って
からかってきて、もっと最悪だった。
今思えばあの女性はその場所に未練がある地縛霊だったのだろう。
ちなみに子供の頃は、「地縛」を「自爆」だと思っていて、
何で爆発するんだろうと本気で悩んでいた。
それから友梨奈は心に決めた。
次からは、絶対何も見なかったことにする。
霊なんかより、もっと視えちゃいけないものはなおさら。




