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神通力少女は何がなんでも『普通』に生きたい。(reboot ver.)  作者: 宇宙 翔(そらかける)


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17/18

帰ってこなかった……

麻由のスマホがブブーッと振動した。

画面を見ると、メッセージアプリ経由で友梨奈からの通話だった。

まさか短期間で通話まで使いこなすなんて。

陰キャで引きこもりなんて言ってたけど、『普通』のJCにすぐなれるんじゃない

だろうか。


「もしもし?」

「麻由さん、梨奈ねーちゃんが、梨奈ねーちゃんが……死んじゃった……。

死んじゃったよぉーーー、わーーーーん」

「あ、あかねちゃん?」


友梨奈のスマホから聞こえてきたのは、あかねの声。

全く想定外の展開に、麻由の頭は一瞬フリーズした。


(梨奈が死んじゃったってどういうこと???)


冗談を言ってるような口調ではない。

だが友梨奈は人を助ける側で、まさか彼女が死ぬような展開は考えたこともなかった。


「あかねちゃん、とにかく落ち着いて。すぐそっちに行くから、そこの場所教えて」


聞いた場所は麻由の叔母の家から数百メートルしか離れていなかった。

クロスバイクで飛ばせばすぐ着ける。

さっきからうるさいぐらい心臓がバクバク鳴って頭の中はほぼ真っ白だった。


(まさか、そんな、まさか)


短い言葉が何度も頭の中でリフレインされる。

まだ何もお礼できていないのに、せっかく見つけたのに、そんなこと絶対ない、絶対。



キキキキキキ

クロスバイクのブレーキを思い切りかけて河川敷の道路の上で止まる麻由。

あかねに聞いた橋脚のそば。

河川敷を見下ろすと、大の字に仰向けに寝転がっている友梨奈とそのそばにしゃがんで

泣いているっぽいあかねの姿が見える。

クロスバイクを土手の斜面に横倒しで停めて、そのまま斜面を駆け降りていく麻由。

幸い周りには他の人の姿はないようだ。

あんな姿で河川敷に倒れているなんて、正常な状態でないのは間違いない。

あかねの言葉が頭の中でリフレインされるのを必死で否定する麻由。

友梨奈のところに駆け寄ると、自分の耳を直接友梨奈の胸にあてる。

トクン、トクン

と規則正しい鼓動を耳と頬で感じる。

口元に耳を寄せると、静かで規則正しい呼吸音が聞こえた。

安堵で大きく息を吐く麻由。


「あかねちゃん、大丈夫、梨奈生きてるよ」

「……でも、おねぇちゃん、戻ってこない……」


意識のことか、それとも……

二人で何をしていたのか、詳しく聞きたいところだが、友梨奈の状態とあかねの

動揺っぷりから、今その話は無理だろう。


「碧さんのところに連れて行って診てもらお? ほら、ついてきて」


なんとか友梨奈を背負って斜面を登り出す麻由。


カタカタカタカタ……

規則的な軽い金属音が耳に入ってくる。

時々鼻をすする音がそれに混ざってそばで聞こえてくる。

頬にあたってるのは、やけに硬めの枕……じゃなくて、自転車のサドルか。

どうやら自転車の荷台にまたがって頭をサドルの上に乗せたうつ伏せ状態で運ばれて

るらしい。


(ちょっと待って……それってまさかビジュアル的に車に轢かれたカエルみたいで

だいぶカッコ悪いっていうか、女子にあるまじき体勢になってない?)


今は意生身ではないので、周りに人がいれば目撃されてしまう。

また変な噂を流される前に体勢を直そうと思ったが、身体が自分の意思ではピクリ

とも動かない。

諦めて他人に見られないことを祈るしかなさそうだ。

こういう時はどういう神様に祈るのが適切なんだろうか……。


「あかねちゃん、ここでもう自分家に帰って。もうだいぶ暗くなってきたし」


頭の上の方で麻由の声が聞こえる。

友梨奈は麻由が引っ張る自転車で運ばれていて、それにあかねが並んで歩いている

ようだ。


「あ、でも……」


声音に躊躇してる感じがもろに出ているあかね。

いつもなら、母親にバレないように早く家に帰ることが彼女の最優先事項のはずだ。

何を躊躇してるんだろうか。


(まさかわたしを心配してくれてるわけじゃないわよね)


薄目を開けてあかねの方を見ると(横向きでサドルの上にあった顔の方向にたまたま

あかねがいたっていうのが正確だけど)、友梨奈の手元をじっと見つめてるように

見える。

なるほど……そういうことか。


(……わたしが勝手に瞑想の間から持ち出したことにしとくからさ。あかねが早く帰ら

ないと叔母さんにはまたわたしが無理に連れ出したことにされちゃうんだからね)


心の声であかねに伝える友梨奈。

碧と叔母、どっちも怖いから怒られるのは嫌なのだけれど、あえて比べると完全に

濡れ衣の方は怒られ損感が強いから非常に受け入れがたい。

友梨奈が連れ出してるのではなく、毎回あかねが勝手にやってきて、友梨奈が巻き

込まれてるほうの被害者なのだから。

羂索は、碧に内緒で勝手に持ち出したのはあかねだが、実際に使ったのは友梨奈なの

で、まぁ共犯で碧に罰せられてもやむをえない。


「ほら、もう暗いからあかねは早く帰って!」


その声に、麻由が息を呑む気配がした。


「梨奈!! なに? 気づいてたの? もう!! びっくりさせないでよ!」


麻由が声を震わせてこんな感情丸出しな感じで大声を出すのは珍しい。

まだ麻由の人となりを語れるほど長くも深くも付き合ってないけれども。

っていうか大きな声が耳のそばすぎてちょっと耳が痛い。


「何度起こそうとしてもピクリともしないし。

あかねちゃんは、おねーちゃん死んじゃった、って号泣しちゃうし」


もう一度あかねの方を薄目を開けて見ると、確かに目の周りが赤く腫れぼったく

なっていた。

瞳の方は通常の濃褐色に戻っている。


「だからそんな顔してるのか。バカね、人がそう簡単に死ぬわけないでしょ」


事故現場には意生身で行ってるんだし。

何よりまだJCなのにそんな早く人生が終わるなんてありえない。

両親の分も長生きするというのは友梨奈の人生の大きな目標の一つなのだから。

目の周りを真っ赤にしたあかねが、まだ瞳を潤ませながらぼそぼそと呟いた。


「お姉ちゃんも……いつもそう言ってたのに……あの日……帰ってこなかった……」


友梨奈が戻ってこない恐怖で、昔の辛い記憶までリアルによみがえってしまった

のだろう。


(わたしがあかねに羂索渡してって頼んで、ただその通りにしただけなんだから、

あかねは何も悪くない)


麻由の前では言えない言葉は心の中であかねに伝えた。


「こっちは大丈夫だから。早く家帰りな」


薄暗くなった道路には街灯が点き始めている。

そろそろ戻らないと会社から帰宅した時に自分の娘が家に帰っていないことに気づき、

叔母さんが騒ぎ出すだろう。

きっと真っ先に友梨奈のスマホに電話してくるに違いない。

そろそろ番号を変えなければ。

あ、でもそうなるとメッセージアプリは登録しなおし?


「……麻由ねーちゃん、梨奈ねーちゃんをよろしくお願いします」


麻由に向かってぺこりと頭を下げるあかね。


「またね、梨奈ねーちゃん。おやすみなさい」


サドルの上の友梨奈の横顔に向けて手を振って、駆け足で角を曲がって消えていく

あかね。


「だ・か・ら……『また』はないってーの。……ったく」


(どんだけわたしが嫌々能力使ってると思ってんのよ。いい加減気づいてるでしょうに)


「梨奈――、起きてたんなら早く言ってよ。結構大変だったんだから運ぶの。

意識がない人間って本当重いよね。死体もそうなのかな。逆に魂抜けてる分軽いとか?」


いや、そんなもの運んだことないからこっちにもわからない。

逆にJCがそんな経験あったら怖すぎる。


「起きたんだけど、まだ体が全然動かないのよ。悪いんだけどこのまま家までお願い」


あかねがいた方向に顔を向けたまま、麻由に返答する。

逆側の麻由の方へ首を回す力が出ない。


「……ったく。この借りは高いわよ……ってもまだまだ私の借り分のほうが全然残高

多いか……」


そう言いながらもなぜか麻由の声は嬉しそうに聞こえた。

その後はしばらく二人とも無言で、自転車が発する回転音だけがカラカラと響いている。


「そういえばさっきあかねちゃんさぁ、わたしのこと麻由ねーちゃんって、

呼んでくれたんだよね。昔から妹とか弟欲しかったからなんか嬉しかったな」


麻由の家族構成を聞いたことなかったけど、今のコメントからおそらく一人っ子らしい。

友梨奈も梨奈ねーちゃんと呼ばれているが嬉しかった記憶がない……。

あかねに会う時はいつも嫌な案件を持ってくるせいだろう。


「でもあかねちゃんがあんなに動揺して泣くなんてびっくりしたなぁ。

いつも冷静で大人びてたから」


自分の姉のりこの事故が頭に甦って動揺してしまったというのはありえる。

周りの大人たちは当時詳細は教えてくれなかったが、能力関連の事故で亡くなったと

聞いている。

いつも姉妹で一緒に人助けしていたらしいから、あかねはその現場に居合わせていた

に違いない。

その時に何が起きたのかはわからない。

でもその光景が頭をよぎったのであれば、動揺して泣いた、ってことも理解できる。


今の今まで疑問に思っていたあかねの行動。

毎回拒否られながらもしつこく友梨奈を巻き込んでいた理由、母親にダメ出しされ

ながらも能力を使っていた理由、こっそり羂索を持ってきてた理由。

きっと姉のりこに関わる目的があるに違いない。

友梨奈にはそれが何なのかまだわからなかった。


******


しばらく友梨奈が無言になったと思ったら力尽きて寝てしまったようだ。

麻由が念のため確認すると、友梨奈の胸は小さく上下し、微かな呼吸音も聞こえる。


もうだいぶ友梨奈の家に近いので、幸い残りの距離は短い。

ただ、難点は友梨奈の部屋が家の二階にあることだ……。

担いであの急な階段を登る作業を頭に浮かべてゲンナリする麻由。


(まぁでっかい借りがあるから頑張りますけど。今後も力尽きた梨奈を運ぶ機会が

ありそうだから、なんか楽で安全な方法考えなきゃ)


古い趣のある家が前方に見えてきて、思わず安堵のため息が出た。

自分の体力のこともあるが、一番はやっぱり碧に早く友梨奈の状態を診てもらって

安心したい。

友梨奈を載せたまま自転車を家の前に止め、何とか彼女を背中におぶって玄関の

呼び鈴を押した。


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