友達になろう
SNSで見つけた色んな噂
あの日の面影がある顔立ちと目元
そして何より従姉妹のあかねの紅い瞳
絶対友梨奈で間違いないと確信を持ってやって来た麻由は、友梨奈の記憶が無い発言
と碧の否定的な返答に頭の中が真っ白になっていた。
その瞳からは涙が溢れ出しそうになっている。
「そんなに落ち込まないで。梨奈の記憶が戻れば何かわかるかもしれないし。
当時診てもらった医者の先生も精神的なショックによる一時的な記憶障害の可能性
がある、って言ってたから、そのうち少しずつ思い出すかもしれない」
「あの子をね……」
氷をカラカラっと鳴らしてアイスティーに口をつける碧
「あの子を引き取った時は、記憶だけじゃなく普通の感情も一緒に失くしてしまっていて、まるで表情が無い人形みたいだった」
「それがわたしと暮らして少しずつ感情を出せるようになってきて。未だに気持ちを表情に出すのは下手くそだけど、麻由ちゃんと関わってからは、それも少し変わってきたような気がするの」
「肉親の勝手な希望なんだけど、これからも梨奈のそばに居てくれると嬉しいわ」
いつのまにか皿にチーズケーキを一切れ取り分けてフォークでパクついている碧。
「わたしも麻由ちゃんと麻由ちゃんの作るチーズケーキ大好きだし」
(……わたしはまだこの人たちに信用されてないんだ)
そうであれば信用出来る人間であると時間をかけて受け入れてもらうしかない。
「わたし、友梨奈さんのそばに居たいです。感情と記憶を取り戻せる助けになれる
のなら」
顔を上げて潤んだ瞳でキッと碧を見つめる麻由。
「そう。ありがとう、嬉しいわ」
「それじゃ、わたしはこれで。代わりに梨奈呼んでくるから部屋で待ってて」
これで話は終わりとばかり、急にそそくさと部屋から出て行く碧。
しばらくして部屋のドアをノックする音がした。
「はーーい」
ドアを開けて恐る恐る部屋の中を覗いている友梨奈。
その顔を見て麻由は自然と笑顔になった。
(あの時わたしを助けてくれて本当にありがとう、
あなたのお蔭でその後の人生を楽しく続けられているよ。
記憶が無いあなたにこの気持ちは押し付けられないけれど)
そわそわしながら無言で立っている友梨奈。
麻由は友梨奈の手を引っ張って部屋の中に入れる。
「ねぇ、わたしたち今日から友達になりましょ。碧さんみたいに『梨奈』って
呼んでいい?」
「はい???」
感情表現下手くそな友梨奈でも、驚きがあまりに大きかったせいか、誰が見ても
驚いてることが一目瞭然なぐらいに、目を大きく見開いて口をぽかーんと開けていた。
そういうリアクションは想定済みだし、ここは麻由としては絶対に負けられない戦いだ。
「ね! いいでしょ? ね?」
友梨奈の顔の至近距離に自分の顔を寄せて繰り返しお願いする。
麻由の勢いに押され、反射的にコクリとうなづく友梨奈。
「やった! わたしのことは『麻由』でいいからね」
友梨奈の手を両手で強く握って、麻由は顔をさらに至近距離まで寄せた。
嬉しくて顔のニヤニヤが止まらないが、それを隠そうとはしなかった。
対照的に友梨奈は浮かない顔をしているように見える。
ここは正確に言うと驚き顔と無表情の中間ぐらいかもしれない。
その時、階段下から碧の声が聞こえた。
「梨奈〜〜、大分外暗くなってきたから麻由ちゃんを送って行ってあげて。
若い綺麗な子は夜道一人じゃ危ないから」
それを聞いた友梨奈は一瞬眉を顰めて何か考え込んでる風になった後、
不服そうに口を尖らせて何か言いたげな様子だったが、そのまま口をつぐんでしまった。
友梨奈の家の玄関を二人が出ると、碧の言う通り大分あたりは薄暗くなっていて、
街灯が点き始めていた。
麻由は自分の家の方向を指し示し、それを見た友梨奈が先頭で歩き出す。
今日から友達になった二人だけれど、共通の話題はまだ何も無いため、
ただ無言で歩き続ける。
そのうち進行方向の右手に公園が見えてきた。
そこで急に立ち止まった友梨奈は公園の中をじっと見つめている。
その後小さくため息を吐いて、麻由の方に振り向き声をかける。
「中瀬さん」
その一言を聞いた瞬間カチーンと来て、麻由は頬を膨らませた怒り顔で猛然と友梨奈に
向かって近寄る。
迫って来る麻由の顔と勢いにたじろぐ友梨奈。
「中瀬さんじゃ無くて麻由! 名前呼びしてくれないと次から反応しないからね」
この時の友梨奈は、なぜこんなリアクションしてくるのか理解不能だったに違いない。
戸惑った様子で友梨奈は自分のセリフを言い直した。
「……麻由、わたしそろそろ碧さんの家事の手伝いしなきゃだから、ここで家に戻るね。
ここからはもうそんなに距離無いけど気をつけて帰って」
「……わかった。梨奈も気をつけて」
わかったって言ったのは、友梨奈が何かを隠して麻由をこの場から遠ざけようとしてる
ってこと。
それを突き止めるには一旦帰るふりをしないとダメだ。
友梨奈の様子が変になったのは公園の中を見てからだから、しばらく真っ直ぐ進んで
から次の角で曲がるふりをして隠れ、後ろの様子を確認して、友梨奈が見てなかったら
ダッシュで公園まで戻るのだ。
プラン通り、次の角で曲がるフリをして隠れてこっそり後ろを確認すると、友梨奈は
すぐにさっきの公園に入ったらしく、通りには既に姿が無かった。
即ダッシュで公園に向かう麻由。
友梨奈に見つからないように屈んだ姿勢でこそこそと公園の中に入る。
これがもしおじさんだったら、この行動は明らかに変質者だし、警察に通報される
案件だろう。
制服姿の女子中学生だからまだ誤魔化せる。
……いや、充分怪しいけれど。
薄暗闇の中、目を凝らして見ると、奥のベンチの側に友梨奈らしき制服の女子が
立っていた。
何も無い空中に手を差し出そうとして、それを引っ込めるような動きを何回か繰り返し
ていて、それは何かその行動を凄く躊躇しているようにも見える。
何かそうしたくない理由があるんだろうか。
そして、空中に向かって誰かの手を握るように、その手は静かに止まった。




