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神通力少女は何がなんでも『普通』に生きたい。(reboot ver.)  作者: 宇宙 翔(そらかける)


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空白の記憶

「嘘?! 本当に?」


中瀬麻由が声のトーンを上げて、一歩踏み出し友梨奈に詰め寄り気味で聞いてくる。

その必死さに押され、思わず逆のことを言っちゃいそうなぐらいだった。

申し訳ない気持ちを精一杯込めて小さくうなずく友梨奈。


「ちょっとだけ覚えてるとか無いの? 沈んだ船のこととか、何か部分的にでも

記憶が残ってるとか、無い?」

「ごめん、その期間の記憶は全然無いの……。両親のこととか何度も思い出そうと

したんだけど」


小さい頃の記憶なんて、誰もが大きくなるにつれて徐々に薄れて曖昧になっていく

ものだと思うが、友梨奈の場合は明らかにその間の記憶が綺麗に飛んでいた。

どうせなら小四の黒歴史も飛んでくれて良かったのだが、そういう嫌な記憶に限って

いつまでもハッキリ記憶に残ってしまうものらしい。


その直後、中瀬麻由は見てて気の毒なぐらい本当にがっかりして俯いて無言になって

しまった。

当時の記憶は彼女にとってよっぽど重要なことだったみたいだ。


その時友梨奈の部屋のドアをノックする音が響いた。


「はい? おばあちゃん?」


シーンとした静寂。

返事が無い代わりにドア越しに寒気がするほどの凄まじい殺気を感じる。


「み、碧さん?」


慌てて言い直す友梨奈。

それを待っていたようにガチャっとドアが開き、友梨奈の祖母、木花碧が入ってくる。

以前友梨奈と親子に間違われて以来、碧は『おばあちゃん』って人前で呼ばれると

キレるようになった。

普段からそう呼んでると人前でも無意識に使うから、という理由で鬱陶しいことに

家の中でも『碧さん』と呼ばされている。


「ちょっと中瀬さんと話をしたいんだけど、いい?」


碧がここで出て来ることに疑問はあるが、この状態で二人きりでどうしていいか

わからなくなっていたので、友梨奈にとってこの提案は渡りに船だ。

心配なのは、友梨奈が居ない間に碧がチーズケーキを独り占めしてしまうことぐらいか。

ずっと鼓動音MAXでうるさかった心臓も心拍数が少し下がって落ち着いてきた。


友梨奈の記憶が無い発言に始まって、彼女の祖母とのタイマンという想定外の連続に

麻由の頭の中はちょっと混乱状態だった。

そそくさと部屋を出て行く友梨奈を見送る麻由。

元気無い時は雰囲気でわかったが、この時の彼女の気持ちまでは無表情な顔からは

ハッキリとはわからない。


「梨奈は家に友達連れてくるの麻由ちゃんが初めてだから、まだ色々挙動不審なのは

許してあげて」

「でも、麻由ちゃんは梨奈と遊びに来たわけじゃなさそうね」


友梨奈に記憶が無いと言われてしまった麻由としては、ここに来た本当の理由を

この人に話すことが果たして正解なのかどうか、この時は全く判断不能だった。

外見から分かる情報としては、友梨奈やあかねととてもよく似ていて、血の繋がり

が一目瞭然なことと、祖母と言うには凄く若見えすることぐらいで、

人となりまでは当然わからない。

しかも麻由が話そうとしている内容は現実離れしていて、下手すると頭がおかしい子

として木花家に出禁になる可能性すらあるかもしれない。

けれども、他に選択肢は無かったし、直感でこの人にはそんな話を受け入れてくれる

何かがある気がしていた。


「実は私、彼女に超大きな借りがあると思ってるんです」

「借り?」

「子供の頃、両親と観光船に乗ってて海難事故に遭ったんです。

私そのとき船に酔っちゃってて、一人だけ客室に残ってたせいで逃げ遅れて……」


麻由は、碧に海難事故で不思議な紅い瞳の少女に助けられた一部始終を話した。

「あの時、その子が救助船まで手を引っ張ってくれたお陰で私助かったんです。

その手の温かさと力強さの安心感からか、

『この子は何で海の中で普通に歩けるんだろう』

『何で助けてくれてるのにずっと泣いて謝ってるんだろう』

って妙に冷静に考えてました」

「着いた救助船の上で御礼を言おうと周りを探したんですけど、もう姿が見えなく

なっちゃってて。今までずっと後悔してたんです」

「しかし随分と荒唐無稽な話ね。今まで誰かに話したの? 信じてもらえた? 

ご両親は?」


俯いて首を左右に振る麻由。

両親には自分が助かった経緯を力説したけれど、

低い水温と酸欠状態の中で夢か幻覚を見たのだろうという医者の説明を信じて、

まともに取り合ってくれなかった。

それでもずっと諦めずに探し続けて、麻由のあまりの粘り強さに、両親もとうとう

折れて協力してくれるようになったのだ。


「で、その時の女の子が梨奈だと思って今日確認しに来たのね。

どうしてそう思ったの?」

「最初は人伝で不思議な少女がいないか情報を集めてたんです。

スマホを持てるようになってからは、SNSとかで、『紅い瞳』「不思議な手」

とか検索して」

「そのうちたまたまSNSでF市内のある噂を見つけて、

『瞳が吸血鬼みたいに紅く染まってた』とか

『霊が見える子』

『誰もいないところでなにかに話しかけたり、エアー綱引きとかエアー握手をしてる

とこを見た』とか、

どれもほんとかどうかわからない噂レベルの情報だったんですけど、

それが全部一人の子のことっぽくて。

その噂から浮かぶイメージがあの時の女の子のイメージとわたしの中で重なったんです」

「それでこっちまで引っ越して来たの?」

「……おかしいですよね。でも感謝の気持ちや大好きって想いは出来るだけ早く

相手に直接伝えたい、ってわたしの中で心に決める出来事があったので……。

その時以来必死で探してたんです」

「麻由ちゃんは真っ直ぐで良いわね。好きよ、そういう感じ」


「肉親からの優しさって、無くしてみないとありがたみがわからないのよね」

ぼそっと碧が呟く。


「どうして肉親って? 確かにわたしのは事故で亡くなった祖父母の話なんですけど」

「ん? よくある例を言ってみただけよ。合ってたんならたまたまの偶然ね」


碧の顔をじっと見つめる麻由。


(この人には単なる不思議さを超える何かを感じる。絶対木花家の人で間違い無いのに)


「やっぱり、わたしが会ったのは友梨奈さん、何ですよね?」


テーブルを挟んだ向かい側の碧の方へ大きく体を乗り出して問いかける麻由。


「……残念だけど……」

「わたしが梨奈を引き取ったのは8歳の時だから……、その頃のことはわからないの」

「で、でも従姉妹のあかねちゃんが紅い瞳になってて、あの時の子とそっくりなんです!」

「あの子は色素薄いからなぁ。角度とか光の加減で色んな色に見えるのよね」

「……そんな……」


その言葉を聞いて、身体の力が抜けたように床にぺたんと座り込む麻由。


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