ありがとうを伝えたくて
「麻由――!!」
駆け寄って来た両親に抱きつかれて揉みくちゃにされた。
岸に上がってすぐ両親と再会出来たのは、救助船から先に連絡が行っていたらしい。
その時になって今までの緊張の糸が切れたのか、二人の腕の中で号泣してしまった。
旅行は台無しになってしまったけど、船酔いから解放されてちょっと嬉しかったのは
両親には内緒だ。
気持ちが落ち着いてから、自分が助かった経緯を両親に力説したけれど、
内容が現実離れし過ぎていてまともに取り合ってくれなかった。
それでも麻由はずっと諦めずに少女を探し続けた。
小五でスマホデビューしてからは、一気に情報量が増えて、
SNSでそれっぽい子がいないか探し回っていた。
そんな中ひっかかって来た情報がある女の子の噂だ。
『地縛霊が見える』
『誰もいないところでなにかに話しかけたり、エアー綱引きとかエアー握手を
してるとこを見た』
『瞳が吸血鬼みたいに紅く染まってた』
書いてる子たちの他の書き込みを見るとF市内の学校に通っているっぽかった。
SNSなんて本当のことを書いているかどうか疑わしい。
でもその噂のイメージは、麻由の中であの時の女の子のイメージにピタリと重なった
気がして、居ても立っても居られなくなった。
その結果、叔母の愛子と同居&転校という行動を決行することになったのだ。
木花さん本人。
あの家。
碧さん。
そして今日会ったあかねちゃん。
全部があの日の少女へ繋がっていく。
今日はわくわくして眠れそうにない。
でも焦って学校内で目立つ行動に出ないようにしなくては。
ここ数日で彼女が対人関係が苦手で、地味で目立たないように行動しているのは
わかっていた。
転校生の自分があまり教室でコンタクトを取ると、周りの注目を浴びて
彼女は避けるようになってしまうに違いない。
確かめるなら、また彼女の家に行くしかない。
事前に確認すると断られそうな気がするから、迷惑かもしれないけど
当日押しかけるか……
「ねぇ、今日木花さんの家に遊びに行って良い?」
お昼休み、いつもの備品倉庫で潜んでいた時に、中瀬麻由がやって来て、
開口一番そう言った。
その言葉に一度目ほど大きな動揺はしなかったが、今回のはどう受け取れば
良いんだろう。
二回もうちに遊びに来る、っていうのは『友達』認定になるんだろうか?
『友達』
友梨奈の今までの人生で存在しなかった概念だ。
そう思ったら急激にドキドキしてきた。
そういえば、この前の備品騒動は、三年のあるクラスが持ち出した時に申請が
漏れてただけだったらしい。
ということで、これまで通り昼休みに潜んでいることが出来ている。
ってか、その行動を担任の先生に把握されてるとは思わなかったけど……。
「もしかすると何か用事ある?」
ここでこの間あかねに答えたような返事をしたら、二度と次の機会は訪れない
気がする。
社交性が無い友梨奈でもそれぐらいは想像出来た。
「……う゛、ううん。大丈夫だよ」
相変わらず上手く声を出せなかったが、中瀬麻由はそういうのにツッコんで
来たりしない。
「やった! またチーズケーキ上手く焼けたから木花さんちで食べて欲しいと思って」
碧がやたら褒めていたが、あれは本当に美味しかった。
一人でワンホール全部食べちゃいたかったぐらいだ。
実際は学校行っている間に碧にほとんど食べられてしまっていた。
綺麗でスタイル良くて、料理も上手いとか、一人でスペック独り占め過ぎる。
まだ運動能力と頭の良さはよく分からないけれど、それも持ち合わせていそうだ。
神様の贔屓っぷりがハンパない。
わたしには人が引く変な能力しかくれないくせに。
「昨日の夜焼いたの。今日の方が美味しいんだよ」
心底嬉しそうな爽やかな笑顔を友梨奈に向けてくる。
きっと本当の『友達』だったら、理解出来ないとダメなのかもしれないが、
今のとこ彼女が楽しそうに自分に関わってくる心情はさっぱり分からなかった。
前回と同じく、校門から少し離れたところで待ち合わせて二人は木花家に向かった。
よく考えたら、中瀬麻由にはもう家バレしてるから、木花家集合でも良かったのだが。
一緒に帰った方が友達っぽいような気もする。
中瀬麻由がそれを意識して行動してくれたのかは分からないけれど。
木花家に着くと、早速碧が奥から声をかけてきた。
「麻由ちゃんいらっしゃい。梨奈の部屋にお茶入れておいたから。また後でね」
「お邪魔します。碧さんありがとうございます」
友梨奈の部屋に入ると、案の定テーブルの上に皿とフォーク、アイスティーが
三人分置いてあった。
(後で食べに来る気満々だし)
前回に引き続き碧の動きが気になってしまう友梨奈だが、本当に気にしなくては
ならないのは、麻由が家に来るほど友梨奈に関わりたがっている理由だ。
前回は隣の席になったから仲良くなりたいと言っていたが、それが本音だとは
どうしても思えない。
「あのー、今日は木花さんにどうしても聞きたいことがあって……」
(とうとう来た……。まさかわたしの噂の数々について確認しに来たの?)
「わたしにとって凄く重要なことで、でも自信が無くて……、あと人前で聞ける内容でも無くて……」
陽キャオーラ出まくりで、対人無敵な感じだった中瀬麻由が、俯き加減で
どんどん小声になって、なんか超弱々しい自信が無い子になっている……。
この子がそんなになるって一体どんな話題なのだろうか。
「わたしが六歳の時なんだけど、ってことは木花さんも同じ六歳だったはずなんだけど、海難事故に遭った船の船内でわたしたち会ってない?」
まるでドラマのような劇的な出会い。
これが本当だったら何かの始まりを予感させるけれども……。
「六歳……か……。ごめんなさい、
わたし大体五、六歳ぐらいから八歳ぐらいごろまでの記憶が無いの。
だからもし会ってたとしても覚えてないんだ」




