第七十二話 だからそれなに!?
コインロッカーはモール内に三か所。いずれも出入口の脇から少し入った場所にある。
今いる場所から一番近いのは、正面入口のそばにあるロッカーだ。
俺たちは、正面玄関に続く上り階段の暗がりに身を潜めていた。
階段の先、明るいフロアには、すでに無数の傀儡がうごめいているのが想像できる。
俺は皆を見渡し、改めて尋ねる。
「上は絶対に傀儡の群れがいますよ。本当にここから行くつもりですか?」
「なんとかなるんじゃないかな? このメンバーなら」
軽く言うアンジュに、残りの二人も顔を見合わせて答える。
「まあ、防御結界を張るくらいなら」とリラ。
「襲ってきたら魔法でぶっ飛ばすけど」と、シュシュは悪びれることなく答える。
「ぶっ飛ばしたら相手が怪我しちゃうじゃないですか」
「じゃあどうしろっていうのよ」とシュシュは頬を膨らませた。
「……そもそも、術を解く方法はないんですか?」
俺の質問に、三人は黙り込む。
──ないんだ……。
「というか、なんで俺たちには術がかかってないんでしょう……」
俺が不思議そうに零すと、アンジュが当たり前だと言わんばかりに応える。
「シンは元といえども勇者でしょ? ちょっとやそっとの状態異常なんて跳ね返しちゃうわよ」
なるほど、状態異常術式は勇者には効かない。もちろん女神もだ。
俺がリラとシュシュに目を遣ると、アンジュが補足する。
「聖女のリラはもちろん、シュシュだってそれぐらいの術はあるわ。こう見えて高位魔術師なんだから」
アンジュの説明に、「こう見えてって何よ」とシュシュが怒る。
「私は、見たまま偉大なる高位魔術師よ。丁度、周りの人が動きを止めた直前に『嫌な音』が聞こえたの。だから、習慣ですぐに防御魔法を発動したわ」
「へぇ、さすがは元勇者パーティのメンバーですね……って、今、『嫌な音』って言いました?」
一瞬戸惑い、答えるシュシュ。
「……言ったわね」
そう答えるシュシュを、驚いた顔で見るアンジュとリラ。
「だとすると、その音が原因なんじゃないんですか?」
「まあ、そうとも言えるわね」
──そうとしか言えねえよ!
アンジュが呆れたように笑う。 「だから言ったでしょ! なんちゃって高位魔術師だって。この子、ネジが一本抜けてるとこがあんのよねー」
「そんなこと言わないで下さい! そもそもシュシュは高位じゃなくて低位魔術師なんだから、そんな期待を背負わせる方が間違ってます!」
彼女をかばうように怒るリラに、「いや、高位だから! 期待していいから!」とシュシュが即座に反論する。
「……で、それって解呪できないんですか?」
ウーンと首をひねるシュシュ。 「結構難しいな。解呪には術式を理解する必要があるけど、専門家じゃないし」と考え込むように首をひねる。
「どうせなら、術者を殺っちゃうのが手っ取り早くていいんだけど。館内全域、一度に魔法をかけたのだとしたら、相当数の傀儡師がいるはずだから、全員いっぺんに斃すなんて無理だしね」
「それについては、ちょっと心当たりがあります」
「なになに?」 なんか興味津々に俺を見るアンジュ。ホント、トラブルとか困り事とか大好きなんだよなこの女神さん。
俺はため息を一つつき、言った。
「館内放送です」 「館内放送なら、一度に管内全体に放送することが可能ですから」
「なるほど」とリラが納得する。 「それなら、今から行く正面入口のそばにインフォメーションセンターがありますね」
さすが、運営マニュアル熟読者! まるでゲジゲジポポス……て?
「そう言えば、さっき言ってたゲジゲジポポスって何ですか?」
「あーあれはね!」とシュシュが答えようとしたところで、アンジュが「なら早く行こ!」と階段を駆け上っていった。
「もー、アンジュったら」とリラとシュシュも後を追う。
──だから、ゲジゲジポポスって何なんだよ!
俺は「芋太郎ハイサワー」を担ぎ直した。




