第七十一話 ゲジゲジポポス
「どういうことだよ」
『ノア・クロモール』ショッピングモール。
早朝から買い物に来ていた俺たちは、何者かの策略により、店内にいるすべての人間に追われる羽目となっている
人々に追われるまま、今は地下一階にある施設管理事務室に、俺とリラ、そしてさっき合流できたアンジュとシュシュで避難している。
途中はぐれてしまった、キリやガース、九頭竜さん達とはいまだ会えていない。
いったい誰がこんなことを?
まあ、こんなことできるのは敵対する魔王勢力しかないわけだが……。
アンジュ曰く、これは今日バイトで来られなかったルーリを孤立させるためだという。
これについて、リラが反論を始めた。
──この二人、仲が良いようで、いつも言いあうんですよね。
「アンジュが言う、勇者パーティの分断が狙いなことは同意します。ただ、結論が違う。狙いは、勇者ではなく、やはり私たちであるということです」
彼女はやや皮肉っぽい笑顔を浮かべて言った。
「正直、勇者は強い。困難の中、たとえ一人になっても切り抜ける胆力と底力があります。それに対し、勇者パーティは勇者あっての存在です。私たちだって、シンがいなければ魔王などとても討伐することは無理でしたから」
彼女は、そのころを思い出すかのように目を閉じ、首を振った。
「魔王たちはずるい奴らです。いつだって弱いところから攻めてくる。だからこそ、いま狙われているのは、勇者にとっての弱点である我々なんです」
リラは言い終わると、「わかりましたか?」とでも言いたげに、にっこり微笑んだ。
一方アンジュは、そんなリラを見て、まるで母親が娘を見るような優しい笑顔を浮かべる。
「ま、シン様ナンバーワンのリラならそう言うだろうね」
話を聞いていた俺はといえば、
──どっちでもよくね?。
と思ってしまった。結局、閉じ込められている状況は変わらない。
アンジュはこう見えて、俺たち勇者パーティを導いてきた女神である。
それなりに……まあ、それなりだろう。
言ってることは正しいかもしれない。
──とはいえ、その頃の記憶がない俺からすると、筆頭・残念女神だけど……。
話し合いを終えてからもしばらく状況分析は続いたが、進展のないまま、いつしか皆黙り込んでしまった。
いつまでもここに隠れている訳にも行かず、キリや九頭竜さん達を探しに行こう! ということになり、残念女神のアンジュが、いつものようにわがままを言い出した。
▽▽▽
「いやだ!」
何度でも言う。たとえこの喉が枯れたとしても。
アンジュが目をスッと細め、俺を見つめる。
「私だってイヤ! この子たち……24人を、こんな薄汚い場所に置いて行くなんて!」
──あんたその24人のうち、3人をここでおいしくいただこうとしたくせに。
「なら、アンジュが持っていけばいい」
俺は、今は傍らに置いた「芋太郎ハイサワー」の箱をバンバンと叩いた。
「それはイヤ。だって重いもん」
──堂々と言いやがった。
「俺だって重いんです。しかも敵だらけの中、こんな荷物を持って歩きたくないです」
「勇者のクセに!」
「元でしょうが! 記憶ないし! それに勇者関係ないわ!!」
そんな不毛な会話をする俺たちを見て、リラが助け舟を出した。
「だったら、この『コインロッカー』に入れておけばどうでしょう?」
彼女は、『施設利用ガイド』と書かれた冊子を手にニッコリ笑う。
「そ、そんな便利なものがあるのか!」
「あるみたいです。百円玉が必要ですが、使い終われば戻ってくるみたいですよ」
リラは手に持つ冊子をペラペラめくる。
さっきから何を読んでいるかと思えば、警備室にあった運営マニュアルを熟読していたようだ。
「なんで今、そんなものを読んでたんです?」
俺が呆れて尋ねると、リラは「えへへ」と頬を染める。
「建物の構造や設備の事を頭に入れておこうと思って探していたら、これを見つけちゃって。つい、読みふけってしまいました」
隣でシュシュが、「リラは活字中毒だからねー。文字を見つけるとすぐ読み出しちゃうんだから。まるでゲジゲジポポスみたい」と、からかうように笑う。
「やだシュシュ! あんなのと一緒にしないで!」
リラが本気で嫌そうに顔を顰める。
「なんなんです? そのゲジゲジポポスって面白ネーム」
「シンはホントに記憶がないんだね。ゲジゲジポポスってのは・・・・・・・」
シュシュが解説しようとしたところで、アンジュが大声で宣言した。
「よし! じゃあまずはロッカーに行くわよ! さ、みんな出発!」
アンジュが急かし、我先にと部屋を出ていく。
皆しぶしぶ、彼女の後を追った。
俺も「芋太郎ハイサワー」を担ぎ直し、ため息交じりに歩き出す。
箱はずっしりと重いが、それより今は「ゲジゲジポポス」の正体で頭の中は一杯だった。




