第六十七話 戦利品は重い
人気のない地下一階、施設管理区画。
バックヤードのルートを進む俺たちは、警戒しながら通路を歩いていた。
前方をシュシュとリラが警戒し、俺とアンジュが後ろを歩く。
ちなみに、俺の肩には、アンジュがタイムセールでゲットした缶チューハイ「芋太郎ハイサワー」の箱が乗っている。
俺は肩に担いだ箱をこれ見よがしにバン! と叩いた。
「この箱、なんなの?アンジュ」
しかしアンジュに俺のいら立ちは一切伝わらず、「そうよ、それ! いいでしょー、『芋太郎ハイサワー』! 激安30%オフだったんだから!」と大喜びだ。
「本当は二ケースまで買えたんだけど、シュシュが『重いからイヤ』って言うからさー、残念」
──ナイス判断、シュシュ!
俺たちの話が聞こえていたのか、前方を警戒していたシュシュが「あったりめーでしょ!」と、振り返りもせずに言い放った。
「で、この箱、いつまで俺が持ってればいいんですか?」
俺が肩の箱をもう一度叩き、うんざりしながら尋ねる。
「いつまでって、買ったんだから家まで持って帰るに決まってるじゃない」
──家までって、本気で言ってるのか、この女神は。
「アンジュ。今のこの状況、分かってる?」
しばらく神妙な顔で考え込むふりをしていた彼女は、ポンと手を叩き、さも名案とばかりに言った。
「ああ、重いのね! なーんだ、言ってくれればいいのに。軽くするために、私が二、三本飲んであげましょう!」
そう言って箱に手を伸ばしてくるアンジュを、俺は猫のように「シャーッ!」と威嚇して追い払う。
「だから、状況を分かれって! 飲んでる場合じゃないだろ! 待て! Stay!」
そんな俺の必死の抵抗に、アンジュは心底不満そうにぽつりと呟いた。
「……なによ、わがままだな」
──どっちがだよ!!
俺たちの不毛な言い争いに、リラがパンパンッと手を叩いた。
「はい、そこまで! ちょうど、そこに良さそうな部屋がありましたので、一旦あちらへ避難しましょう」
リラが指さした先は、警備員の詰所のような部屋で、壁には監視モニターが並んでいた。
幸運にも警備員たちは出払っているようだった。
俺たちは部屋を物色し、伸縮式の警棒とスタンガンをいくつか手に入れる。
続いて、壁一面に並んだモニターでモール内の様子をチェックしていく。
どのモニターにも、まるで電池が切れた人形のように立ち尽くした客たちの姿が映し出されていた。
「……さすがに、この中を戦わずして通り抜けるのは無理そうですね」
一緒にモニターをチェックしていたリラが、険しい顔で呟く。
その横で、シュシュは一台のモニターを食い入るように見つめていた。
「あいつのことだから、心配ないとは思うけど……」
口調は強気だが、指先は落ち着きなくモニターを切り替え、誰かを探している。
──そういえば、シュシュとキリは夫婦だったな。
彼の安否が気になって仕方ないのだろう。
確認が終わった後も、シュシュは同じ場所を何度も見返していた。
リラは彼女の肩に手を置き、優しく声をかける。
「彼らなら、絶対に大丈夫ですよ」
「……だよね!」
シュシュは笑ってみせたが、視線はまたモニターへ戻る。
「もしかして九頭竜さんたちは、もうこのショッピングモールから脱出したのでは?」
俺の希望的観測に、後ろで警棒を弄んでいたアンジュが即答した。
「それは無理ね。和泉ちゃんも随分と“できる子”になってきたけど、この規模の結界は解けないわ。リラだって厳しいでしょ?」
振られたリラも頷く。
「そうですね……正直、追手をかわしながら解呪するのは、私でも困難です」
そして、アンジュを見つめる。
「でも、『状態異常』を完全無効化できるアンジュとシンなら、あるいは強引に通り抜けられるかも……」
リラの視線を受け、アンジュは手をヒラヒラと振って「しないよー、そんなこと」と拒否した。
「面倒だし。万が一うまくいかなかった時は、障壁の狭間に挟まって身動き取れなくなるからね」
──確かに。壁に埋まるのは御免だ。
そこで、アンジュが話を核心へと戻した。
「それよりもさ。なんで『私たち』なんだろうね」
「そうです。それが気になります」
リラも真剣な目で同調する。
「え? それって、ここに俺たちを閉じ込めて攻撃すれば、一気に勇者パーティを潰せるからじゃないですか?」
俺の答えに、アンジュは残念なものを見るような目を向けた。
「……シンってば、年を取って随分日和ったわね」
俺はカチンときてアンジュを睨む。
「なんだよ。ありえない話じゃないだろ?」
「ありえない話じゃないけど……もし私だったら、面倒な連中が固まってるこっちより、外で孤立した“勇者”の方を直接狙うけど?」
そう言って、彼女はニヤリと笑った。




