表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/256

第三十四話 死んじゃうかも


 高速を降り、静岡駅の駐車場に車を停める。


 後部座席では、ルーリがサキコちゃんと携帯で連絡を取り合っていた。


「今、こっちに向かってくれてるそうです!」


「車の場所、分かるかな?」


 そう言ったまさにその時、フロントガラス越しに、大きな旅行バッグを抱えた女の子の姿が見えた。


「あ! サキコちゃんだ!」


 ルーリは勢いよくスライドドアを開け、車から飛び出していった。


「……ねぇ、あの子、『神明国教会連盟』の子じゃない?」

 前を向いたまま、アンジュがぽつりと呟く。


 視線の先では、サキコちゃんの隣に、もう一人の少女が立っていた。


「……和泉さん、ですね」


「やっぱり。たしか、『神明国教会連盟』はパーティー不参加を表明してたはずよね?」


「ですね」


「……ただの見送り?」


「わざわざ、ここまで? あんな荷物を持って?」


 俺とアンジュの会話を聞いていたソニアが、「なになに?」と、後部座席からひょっこり身を乗り出す。


「あ! 本当だ! 和泉さんもいるじゃないですか!」


 ──ちょっ、耳元で叫ばないでください!

 ……けど、いい匂いだな。これが、女神の香りってやつか。


 視線の先では、テンション爆上がりのルーリが、二人を車へと案内していた。


 やがてスライドドアが開き、サキコちゃんが元気いっぱいに「こんばんはー!」と挨拶して乗り込んでくる。


 その後ろから、和泉さんが「……お邪魔します」と静かに頭を下げて続いた。


 俺たちも「こんばんは」と返す。


 最後に乗り込んだルーリが、目を輝かせながら言った。


「和泉さんも一緒に戦ってくれるって! やったね、シン様!」


 バックミラー越しに、和泉さんと目が合う。


「……『神明国教会連盟』は、パーティーを脱退したと聞きましたが」


 俺の問いに、彼女は少し驚いたように目を見開き、すぐに穏やかに笑った。


「ええ、そうですよ」


「……大丈夫なんですか?」


 俺が問うと、彼女は静かに首を横に振る。


「きっと、すごく怒られると思います。でも……」


 彼女は、一度言葉を切り、そして、はっきりと続けた。


「今まで一緒に戦ってきたのに、急に『行くな』なんて、そんなの、勝手すぎますから」


 ミラーの向こうで、彼女の瞳がまっすぐに俺を見ていた。


「だから私は、連盟の一員としてじゃなく、『私、和泉』として参加します。……ダメ、かな?」


「ダメじゃない。……ありがとう」


 俺は、それだけを言うのが、精一杯だった。


 隣のアンジュが、くるりと振り返る。


「へぇー。なんか、こないだ会ったときより綺麗になったんじゃない?」


「え? そ、そうですか? そんなことないと思いますけど……」


 アンジュは満足そうに首を振る。


「ううん、全然違うわよ。すんごく、笑顔がいい。──うん、綺麗になったわ」


 なんだか、おっさんみたいなことを言い出したアンジュだが、言われた本人は「そうかなぁ」と、嬉しそうに頬を染めている。


 ……ここは、あえてツッコまないでおこう。


 俺は、和やかな空気を壊さぬよう静かにエンジンをかけた。


「じゃあ、行こうか。ここから目的地まで、一時間くらいかな」


 するとサキコちゃんが、首を傾げる。


「九頭竜さんは? まだ来てませんか?」


 一瞬、胸がざわついた。


 ──そっか。サキコちゃんは、まだ知らないんだ。


「いや、実は……『求道家連盟』は、パーティから離脱することになってて……」


 俺が説明すると、サキコちゃんはあっさり答える。


「知ってますよ。ルーリちゃんから聞きました。でも──九頭竜さんは来ますよ。……ね?」


 悪戯っぽく笑って、和泉さんに視線を送る。


「ええ。さっき、チャットで『今どこ?』って連絡がありました。一応、『静岡駅で待ち合わせです』とは、伝えておきましたけど」


 和泉さんが、自分のスマートフォンを操作して、「ほら」と、その画面を見せてくれた。


 その時だった。

 一台の黒いSUVが、静かに駐車場へ入ってきた。


 そして、滑るような動きで、俺たちのレンタカーの、真ん前のスペースに、ぴたりと停車した。


 運転席のドアが開き、中から現れたのは──。

 間違いない。あの男、九頭竜だった。


 彼は、高そうなダークスーツ姿のまま、こちらへ歩いてくると、運転席のウィンドウを、コツコツと指で叩いた。


 俺は慌ててウィンドウを下げた。


「やあ。少し実家に寄っていたので遅くなった。待たせたかな?」


「いえ、全然……。ですが、『求道家連盟』は撤退すると聞いていましたが」


「ああ、奴らはそんなことを言っていたな」

 九頭竜さんは口の端だけで笑い、遠くを見た。


「だが、当代の当主は私だ。──奴らの言うことなど、知ったことか」


 九頭竜さんは、今度は、まるで悪戯を企む少年のような顔で、ニッと笑った。

 俺の肩越しに、アンジュがひょっこりと顔を出す。


「いいの? ……死んじゃうかもしれないぞ」


 ──今それ言う!?


 しかし、本人は気を悪くするどころか、穏やかに微笑んで答えた。


「……ある意味、私はもうとっくに死んでいたようなものです。でも今は──不思議と、生きてる実感があるんですよ」


「……あ、そう。ならいいんじゃない」


 アンジュは、その顔をどこか眩しそうに見つめた。


「九頭竜さん! 来てくれて本当に嬉しいです! 一緒に頑張りましょう!」


 後部座席の窓からルーリが身を乗り出し、拳を握ってポーズを取る。


 その無垢な眼差しに、九頭竜さんも、照れくさそうに笑って応えた。


「ああ。今回も、全員で生きて帰ろう」


 それは、冷徹なエリートの仮面を脱ぎ捨てた、まるで冒険に出る少年のような笑顔だった。


 ──そうか。これはもう、戦いなんかじゃない。

 俺たちの、“冒険”なんだ。


 とりあえず、九頭竜さんは、俺たちの車の後ろを、彼の車でついてくることになった。


 簡単なルートの打ち合わせを終え、俺は、アクセルを踏み込む。


 いよいよ、本当の冒険が、始まる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ