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第二十一話 で、あること。


「ギャラは、ご両親が管理されているんですか?」


「ええ。あと、私はアイドルなので……」


 和泉さんの家庭環境が全くイメージできず、俺は混乱していた。

 だから、思い切って核心に触れてみることにした。


「失礼な質問かもしれませんが……和泉さんは、『神明国教会連盟』からの紹介で、パーティに?」


 俺は、隣で興味深そうに聞いているサキコちゃんに聞こえないよう、少しだけ声を潜めた。

 しかし、和泉さん本人は、特に気にする様子もなく、あっさりと頷いた。


「そうですね。私と藤堂さんは、『神明国教会連盟』から選抜されて参加しています」


「藤堂さん?」


 俺が聞き返すと、サキコちゃんが補足してくれた。


「ほら、前の作戦会議の時に、『月末は決算が』とか言ってた、オバ……お姉さん、ですよね?」


 ──今、絶対「おばさん」って言いかけたな、この子。


 自分が女子高生だからって、その若さを振りかざしてはいけません!


「……藤堂さんは、まだ二十代ですよ」


 俺の心のツッコミを読んだかのように、和泉さんが静かに訂正を入れた。


「もともと、私の両親が熱心な信者だったんです。そんな時、私に『空間操作』の能力が発現して……。『神明国教会連盟』の、特A5クラスに通うことになりました。おかげで、両親は教団内での階位が上がり、とても喜んでくれました」


 特A5……。まるで、高級な米や牛肉のランクみたいだな。


 そして、自分のことなのに、あくまで「両親が喜んでくれた」と語る彼女に、俺は何か言いようのない違和感を覚えた。


「その教室では、何を?」


 今まで黙っていたアンジュが、カップを手に口を挟んだ。

 そのうち、「芋焼酎持ってこい!」とか言い出さないか、俺は少しドキドキする。


「そこでは、『神に至る道』を学びます。愚かな我々を赦し、導いてくださる、大いなる存在へと昇華するために。その一環として、異能のトレーニングがあるんです」


 ──赦し、導く、ねぇ。


 俺がチラリとアンジュを見ると、「なによ! ぶっ飛ばすわよ!」と鋭い視線が返ってきた。


 ──全く、赦す気ねぇな!


「ねぇねぇ、和泉さんは、どうしてアイドルになったの?」


 目をキラキラさせて、サキコちゃんが尋ねる。


 さっきから、この子、絶妙なタイミングで核心を突いてくるな……。


「アイドルも、連盟からの勧めです。『迷える子羊たちを救うための伝道活動』として。……おかげで、両親の階位が、また一つ上がりました」


 階位、階位って……露骨すぎないか?


「じゃあ、自分でやりたくてやってるわけじゃないんだ」


 サキコちゃんは、ソファの背もたれに、ぽすんと体を預けた。


 そして、宙を見つめながら、ぽつりと呟く。


「……それじゃ、なんか、つまんないね」


「……つまらない? 何が?」


 和泉さんが、感情の読めない瞳で、まっすぐにサキコちゃんを見つめる。


「だって、やりたくもないことを、ずっとやらされてるんでしょ? それって、すっごく、つまんないじゃん」


 その言葉に、なぜか俺の胸が、ドキリと痛んだ。


 和泉さんは、「別にやりたくないって訳でもないから……」と、ちょっと俯いて呟く。


「でも自分がやりたくてやってる訳じゃないよね。いまいち売れないっていうのも、それが原因じゃないかなぁ。ほら、そういうのって、ステージとか見てると、なんとなく滲み出ちゃうから」


「……売れない、原因?」


「自分の人生だよ! やりたいことを、やらなきゃ! だって、私たちなんて、いつ死んじゃうか、わかんないんだからさ!」


 サキコちゃんは、んーっと大きく伸びをした。

 その屈託のない姿を、アンジュが面白そうに眺めている。


「サキコちゃんは、面白いこと言うわね。お姉さん、気に入ったわよ!」


「じゃあ、サキコちゃんは、自分のやりたいことをやれてるの?」


 少しだけ、とげのある声で、和泉さんがサキコちゃんを睨む。


 しかし、そんな彼女の様子などお構いなしに、サキコちゃんは腕を組み、うーん、と大きく唸った。


「……全然できてなーい! それ、すっごくムズイんだよねー!」


 そして、ぱっと目を開くと、ぐいっと前に身を乗り出した。


「でもさー! それで諦めちゃったら、おしまいじゃん? どっかのバスケの監督さんも言ってたよ!」


 ──それ、完全に漫画の話な!


「……できて、ないんだ」と、和泉さんが寂しそうに呟く。


 そんな彼女を見て、サキコちゃんは悪戯っぽく笑いながら続けた。


「でもね、私、最近見つけたんだ! 自分の好きなことを、思いっきりやってる人!」


 和泉さんが、訝しげに眉をひそめる。

 そして、サキコちゃんは、はっきりと、力強く言った。


「勇者さんだよ! ルーリちゃん!」


「……ルーリさんが?」


「うん! 見てて思ったの。彼女は『勇者だから』やってるんじゃない。『この世界を本気で救いたいから』やってるんだって。異世界から来て、私たちとそんな変わらない女の子なのにさ」


 サキコちゃんは、一度言葉を切り、そして、確信を込めて続ける。


「あの時、迷いはなかった。みんなが諦めかけてても、彼女だけは諦めてなかった。あんなに怖い思いをしながらも、誰よりも自由に戦ってた! そりゃ、負けそうだったけど、それは『結果』であって、彼女の『想い』じゃないもん!」


 和泉さんが、すっと目を伏せる。

 そして、再び顔を上げた時、その瞳には、今までなかった戸惑いの色が浮かんでいた。


「……そ、そうなの、かな……」

「きっとそうだよ! そうじゃなきゃ、あんな辛い役目、やってられないのかも! ……いや、だからこそ、彼女は『勇者』なのかな?」


 ふと横を見ると、アンジュが、本当に嬉しそうに、まるで慈しむように微笑んでいた。


 その顔には少しだけイラついたけれど、一方で、なんだか俺も、嬉しかった。


 ──ルーリ。


 ──こんなところに、君の最高の仲間が、いたみたいだぞ。



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