第二十話 パーティメンバー
そこは、落ち着いた音楽が流れる、広々とした店だった。
「ここの奥に個室があるよ!」
サキコちゃんが店員に挨拶をして先導してくれる。
個室は、ゆったりとしたソファーが置かれた小部屋のようになっていた。
「あーココ、打合せでも使ったことがある」
和泉さんが、頷きながらソファーに腰掛ける。
「和泉さんてアイドルやってるんだよね」
隣に腰掛け、サキコちゃんが言う。
「アイドルって言っても、全然売れてないんだ」
そう言って彼女は恥ずかしそうに自虐的に笑う。
「えーかわいいのにー」と頬を膨らますサキコちゃん。
俺は二人の向かいに座って話を合わす。
「そうだね。おっさんが言うのもキモイかもだけど、二人とも可愛いと思うよ」
俺が言うと「私は全然だよー」とサキコちゃんが手を振り、「そんなことない! 絶対可愛いよ」と和泉さんが言う。
「何? この状況? なんで平然と美少女と冴えないおっさんがだべってるわけ?」
いまだ納得いかなそうに呟くアンジュが俺の隣に座る。
それぞれがオーダーをした後、和泉さんから話を切り出してきた。
「で、お話って何だったんですか?」
——来たか。
俺は、ごくりと喉を鳴らし、頭をかいた。
今日の俺の目的は二つ。一つは、このパーティの実態を探ること。そしてもう一つは、九頭竜や和泉さんといった、才能ある若者たちを、あのバラバラなパーティに引き留めることだ。
「俺って、こんな歳ですけど、パーティでは一番の新参者でして。これが本当に現実の出来事なのか、まだ不安もあって……。それで、色々とお話を聞いてみたかったんです」
「なぜ、私に?」
和泉さんが、怪訝そうに眉をひそめる。
——ここ。一歩間違えば、ただの下心あるおっさんだと思われる、ターニングポイントだ。
俺は、言葉を選びながら慎重に続けた。
「昨日、勇者さんから直接お話は伺ったんですが、正直、信じられないことばかりで……。和泉さんは、パーティの創設メンバーだとお聞きしたので、ぜひお話を伺いたいと。……実力も経験もあるあなたが、なぜあのパーティに留まっているのか、その理由が知りたいんです。ついさっきまで、九頭竜さんにも、同じような話を聞いていました」
九頭竜の名前と、「あなたがパーティに必要なんだ」というメッセージを滲ませたのが良かったのか、和泉さんの険しい視線が、ふっと柔らかくなった気がした。
「確かに、初期メンバーは九頭竜さんと私ですね」
納得したように頷く和泉さん。その横でサキコちゃんが「ヘェーそうなんだ」と相槌を打つ。
「そーいえば、ルーリちゃんも日本名が山川だったけど、何か関係あるんですか?」
一瞬、隣のアンジュの唇の端がピクリと動いたのを視界の端でとらえた。
——こいつ絶対。『パパ』です。って言おうとしたぞ!
俺はわざとらしく肩をすぼめる。
「まったくの偶然。俺も聞いたときは驚いた。彼女は、異世界出身で山川は本名じゃないみたいだけど、俺は正真正銘、日本人で本名が山川、山川新次郎です」
新次郎と言ったところで、一瞬、和泉さんの目がスッと細くなった気がしたが……たぶん気のせいだろう。
「そうですか」と呟く和泉さん。
「山川さんは、どこか教会とか組合とかに所属しているのですか?」
ある意味、シンなら女神教では? と脳裏をよぎったが、一応否定するように首を振った。
すると、彼女の視線が今度はアンジュに向かった。
「あのーお姉さんは」
そこまで言ったところでサキコちゃんが「安寿さんだって」とフォローする。
「安寿さんは、ソニアさんと知り合いなんですか?」
鋭い質問が飛ぶ。さあ、どうするアンジュ! と、思ったが、彼女はそつなく返す。
「そうね、知り合いといえば知り合いだね。だって私は、彼女の護衛ですから」
──護衛!? 護衛がなぜここにいる!
「ソニアさんの護衛が何で山川さんと一緒にいるんですか?」
ナイス突っ込み、和泉さん!
「安寿さんは山川さんの事務所のえーじぇんとさんだよ」
サキコちゃんが解説する。
ただ、今回はアンジュがぺこりと頭を下げた。
「ごめんね、あれは冗談。ほんとは、ソニア様のお話に感銘を受けて、一緒に付き従わせてもらってるの」
——ソニア様!? 本人がいたら、悶絶しそうだ。
「それでね、この人の力は、ソニア様が見つけたの。それで、結果的に私がエージェント役を引き受けたの」
「エージェント……」
和泉さんは顎に手を当て考え込んだ。
一方、サキコちゃんは「だからソニアさんと一緒の格好してるんですね! リスペクトですね!」と興奮して声を上げる。
なんだか、こっちばかりが探られている気がして、俺は強引に話の矛先を変えた。
——ここからが本題だ。
「和泉さん。俺が本当に気になっているのは、ギャラのこと。そして、本当に魔王なんてものがいるのかどうか。もしよければ、和泉さんご自身が、どうしてこのパーティに入ったのかも、教えていただきたいんです」
「ギャラ?」
彼女は再び眉をひそめる。
「それ! 私もびっくりした! あの日の後、口座にお金が入ってて」
サキコちゃんが声を上げる。
「あーそれね、時給五千円はルーリちゃんから、それ以外の経費は、『過剰脅威対策室』からだと思う」
「だと思う?」
「うん。わたしの分は、両親の口座に入るから、詳しく知らないんだ」
ご両親ねぇ……。




