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 劇が終わり、エルフたちは帰って行った。そしてサーカス団の面々も舞台の練習などを始めていた。


「ねえ、エルゼ。どうして決闘令嬢なんてしているの?」


 不思議そうな顔で巨人のゴーシュは言いながら、短く切った丸太を投げる。それをエルゼは私の刀ではない、この国で多く使用される剣で切り裂く。と言っても、丸太は予め切れているので、エルゼは切り裂くふりをしているだけだが……。


「私はみんなみたいに空中ブランコやトランポリンは出来ないもの。演技も出来ないし」


 ゴーシュは複雑そうな顔を「エルゼは美人だから、劇とか向ていると思うよ」と言い、エルゼは嬉しそうに「ありがとう」と言った。そしてゴーシュが投げた丸太を切っていく、フリをする。


「それに決闘裁判の周りでみんなが芸を披露したら、普段サーカスを見ない人たちも喜んで見てくれるじゃない。ちょっとした宣伝になるでしょ」


 ゴーシュは「うーん、確かにそうだけどね……」と複雑そうな顔で言った。そしてエルゼは誰にも聞こえない声で「それに恥ずかしいし」と言った。

 


 さてゴーシュ達、巨人はかつてあった深淵の森に住まう者達だった。だが人間たちが森をどんどんと切り開き、巨人達種族はこのままだと住処を奪われると考え、戦争を起こした。そして敗北して、散り散りになってしまった。

 ラコンテ曰く、父親が団長になる前にゴーシュは拾われてきたという。大きな子だなと考えていたら、巨人だったので驚いたらしい。そして抜群の音楽センスを持っていて、子供の時から発揮していた。

 大きなチェロから小さなバイオリン、ドラムなども出来る。劇の音楽はずべてゴーシュが演奏している。

 だけど巨人と言う事もあり、普通の人間と距離を置いている。サーカス団のみんなとは打ち解けているように見えるが、私が見る限り避けているような感じもある。

 そして同じはみ出し者のエルゼとよく話している。


「俺ね、エルゼが決闘裁判をやっている時、ラコンテ達が劇をしているみたいに演じている気がしたんだ」

「……」

「だからエルゼも劇をやったら、かっこいいかなって」


 ゴーシュの鋭い指摘にエルゼはちょっと驚いた。そして投げられた丸太を切り裂けず、空振りした。

 エルゼは失敗を笑いながら、平静を装った。




***


 今、アルコバレーノ・サーカス団は国と国の間の森の中にいる。ここも深淵の森の一部だったため、まだ森が残っている所がある。そう言った森には巨人やエルフの小さな集落があり、あまり人と接触しないようにしていた。

 全知全能の神を信仰する教会の者達はむやみやたら森を切り開いていったから、巨人やエルフが戦争を仕掛けたのだ。だから国境は森にして彼らが住める場所を残せと決まりを作った。この決まりにサーカス団にいるエルフは「いや、お情けで森を残されても……」「ちょっとしかない森でどう生活しろと?」「森の面積が狭すぎて獲物が少ないから生活が出来ないぞ」と呆れたように言う。

 それでも昔ながらの生活をしたい巨人やエルフは森に隠れ住んでいる者は多い。

 ちなみにアルコバレーノ・サーカス団がキャンプをしている所は、ちゃんと近くのエルフの集落に許可を取ってある。


「今日もかっこいいね、ガーディンは」

「真っ白で綺麗だよ、ディン」


 そう言いながら女の子たちが真っ白なユニコーンにブラシをかけている。決して人に慣れないと言われているユニコーンではあるが、女の子たちに褒められながらブラシをかけてもらって気持ちよさそうだ。


「お、ガーディン。今日もハーレムでお世話されていいな」


 それを見ながらラコンテが言うと、ユニコーンのガーディンは馬鹿にしたように歯茎を見せた。その顔を見て女の子たちは苦笑する。


「何で俺が話すと、こいつは歯茎を見せるんだろう?」

「馬鹿にしているんじゃない? ラコ兄ちゃん」


 ラコンテの義理の妹、ファニーは笑って言い、ラコンテは「こいつ!」と言ってガーディンを睨む。だがガーディンは歯茎を出してラコンテをバカにしていた。


 普通、ユニコーンは人に慣れることは無い。だがピクシの民の血を引く生娘なら、ユニコーンは大人しくいう事を聞く。だからガーディンの世話係はサーカス団の女の子たちが担っている。ラコンテがハーレムと言っていたが間違いではない。

 だが女の子たちにもメリットはある。女の子に良からぬ事をしでかす野郎から、ガーディンは守ってくれるのだ。

 

 ラコンテは舌打ちをその場から離れる。様々な動物に好かれるラコンテでもガーディンに触れようとするなら、絶対に噛みつくからだ。

 そして遠くで料理の手伝いをするエルゼの元にやってきた。


「動物に好かれるラコンテもガーディンは嫌なんだね」

「ユニコーンという動物がおかしいのさ。生娘だけしか触れないってどういう性癖だ」

「でも綺麗な馬だよね。額に角があって」

「エルゼも世話出来るだろ」

「あんな風に出来ないよ。私は半分しかピクシの民の血を持っていないから」


 エルゼはそう言って料理を皿に盛ってラコンテに渡した。





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