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 和解は不成立をして、決闘の準備に取り掛かる。ナーシャは傍聴席に戻って、戦わないシルビアやアリサは東西の入り口に設置した高座に移動して、決闘を見守る。

 その前にエルゼはシルビアに刀の私を渡した。


「それでは決闘になりますので、こちらの剣の鞘を少し抜いてください」

「え? 少し抜く?」

「はい、そうすれば刀の精霊である【助太刀】が現れます」


 半信半疑のような表情をシルビアはしながら、刀である私の鞘を少しだけ抜いた。


 シャキン


 素早く鞘が戻る。

 シルビアが戻したのではない。実体化した私が、シルビアの前に立ち、刀の鞘と鍔を握って刃を鞘に戻したのだ。

 実体化した私にシルビアは驚き、息をのむ。ご令嬢に見せれるような精練した姿ではないのでしょうがない。武装ひげとボサボサな髪、深緑色の色褪せた汚い着物を着ているのだから。

 そもそも突然現れて驚愕しているのか。

 エルゼは「それでは行きましょう。【助太刀】」と促すので、「ああ」と返事をしてシルビアから刀をもらってエルゼの後に続く。

 審判から「この方は?」と言われ、エルゼは「剣の精霊です」と優雅に嘯く。


「教会や王宮にもありますでしょう。精霊が出てくるアクセサリーや鏡、そして武器。それと同じですよ」

「これが精霊?」


 審判ではなくダグラスが私を見る。まるで文明を知らぬ野蛮な民族を憐れむような目つきだ。


「随分とボロボロじゃないか」

「腕は確かですよ」

「本当かよ。身構えて損した」


先ほどまでエルゼが提示した証拠を聞いて動揺していたが、もう余裕は戻っているらしい。

ダグラスの手には繊細な意匠が付いた剣が握られていた。鞘には金や銀の細工が施されており、鍔も同様だった。

 私が彼の剣を見ているのに気が付いたようで、流暢に話して来た。


「ああ、僕が持っている剣は我がラテルナ家の家宝だ。百年前の戦争の時に我が一族は最後まで勇敢に戦い敵の将軍を打ち取った褒美で王からもらったのさ」


 そう言って、ダグラスは誰も聞きたくないのに自慢話をしてきた。剣を抜くと刃にも美しい彫刻を施している。


「どうだ、美しいだろう。刃についた彫刻は炎をモチーフにしていて……」

「すいません。決闘を始めてもよろしいでしょうか」


 ダグラスの自慢話を被せるように、エルゼは審判に促した。審判も頷き、「位置についてください」と冷静に言った。

 自慢話を切り上げられて、こめかみがピクついているダグラスは何か言いたそうだったが、審判の指示に従った。


 その場に一礼して、右手に鍔を、左手に鞘を持って、前に出し、少し身を低くした。

 目を閉じて、エルゼが提示した証拠を思い出す。


 そして目を開けて青年を見据えた。

恋は盲目とは言うが、耳まで聞こえなくなったとは哀れな男だ……。

よろしい、決闘だ!


 審判が「初め」と言った瞬間、私は前に出た。

 ダグラスは私がすぐに動くとは思わなかったのか、一瞬動揺する。だがすぐに後ろに引いて繊細な意匠をつけた剣を振り下ろした。

 その剣を私は鞘から刀を抜き放つ勢いで一撃を与える。


 ガキン


 闘技場に重たい金属音が響いた。




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