19
ダグラスの剣に一撃を与えた後、私はダグラスの首近くに刃を向けた。彼の目を見ると目が泳いでいて震えている。
決闘場、いや傍聴席も水を打ったような静けさがあった。その静けさの中、彼は「え? 我が一族の家宝が……」と呟きが聞こえてきた。
彼の家の家宝は私の居合で打ち合った際、ぼっきりと折れて地面に突き刺さっている。
剣は美術品じゃない、武器だ。繊細な彫刻をしていたら、すぐに折れてしまうのは分かっていないのか。
時間が停まったような空気にエルゼが「ダグラス様」と声をかけた。
「ここで和解してもよろしいですよ。シルビア様が突き落としていないと……」
「突き落としていない!」
ダグラスは情けなく叫んだ。
「僕は突き落とした所は見ていない! アリサが、アリサが、勝手に言っているだけだああ!」
ダグラスがそう叫んだ瞬間、アリサが「ちょっと!」と言って車いすから立ち上がって、ダグラスの元に向かった。
「何で、何で、そんなことを言うの! ダグラス様! 私を愛していないのですか!」
歩けないはずのアリサが走り出して、傍聴人たちはざわめきだす。私は気にせず刀を鞘にしまって、エルゼの元へと向かう。その背後でダグラスは膝と手をついて泣き出した。うなだれるダグラスにアリサは励ましのような暴言のような言葉を紡いで縋り付いていた。
エルゼの所に来たら決闘場に一礼した後、刀をエルゼに渡す
「ありがとう、【助太刀】」
そう言ってエルゼは刀を受け取る。すると私は実態を失い、普通の刀に戻った。もう決闘は終わったのだから。
審判はシルビアの証言が正しいと宣言して、傍聴席は大騒ぎになっていた。それを一切気にしないで、刀の私を持ったエルゼは優雅に歩き、シルビアの所に向かった。
「おめでとうございます。シルビア様の訴えが認めらえました」
「ありがとう、ございます」
シルビアはぽろぽろと泣きだした。今まで彼女の中に振りぼってきた勇猛果敢な気持ちが解けていったようだ。
そんなシルビアに優しく「お疲れさまでした」と手を握ってあげた。
二人は決闘場の出口から出ようとすると「シルビア!」とダグラスが叫んだ。彼は未だに膝と手をついていたが、顔だけはシルビアを見ていた。アリサもまだダグラスの背中をさすっている。
「僕は! 僕は君を愛している! だから許してくれ!」
……何を言っているんだろう、この男は。
「君は優しい子だから、きっと僕の過ちを許してくれるはずだ! アリサの言葉をすべて信じてしまった僕は可哀そうな人間なんだ! だから君は分かってくれるはずだ! 哀れな僕を許してくれ!」
非常に情けないダグラスの言葉にシルビアは「ダグラス様」と言ってほほ笑み、彼の方を向く。
「あなたを哀れとか可哀そうとは、二度と思いません」
そう言ってエルゼに「行きましょう」と言い、決闘場を後にする。
ダグラスのすすり泣く声は決闘場の扉が閉まるまで聞こえた。




