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エルゼは優雅な笑みを浮かべて「さて、アリサ様」と話し出した。
「どうしてシルビア様が突き飛ばしたと思ったんですか?」
「顔を見たからです! シルビア様の顔を! 目撃者だっているんです!」
「でも突き飛ばした現場は見ていないし、シルビア様って思っていなかったようですよ」
エルゼの言葉にアリサは「そんなはずないです!」と言って睨む。なかなか気迫のある顔だが、エルゼは微笑んで、「そろそろ、証人を出しましょう」と言った。
「入ってきてください」
そう言って東の入り口から黄色のドレスとハイヒール、帽子を目深く被った女性がトランクを持って入ってきた。背格好もシルビアにほとんど似ているようだ。
エルゼとシルビアの所に来るとダグラスとアリサを見てカーテンシーをする。
「こちらのご令嬢は、隣の国を中心に移動雑貨店を営んでいるブラン商会のナーシャ・ブラン様です」
「どうぞ、ナーシャです。ブラン商会をご贔屓に」
「花祭りでは初めてブラン商会は出店したんですよね」
「はい。大きなお祭りだという事で、花や食べ物を売っていました。大盛況でしたが、スタッフ達だけでお店は任せられると判断して、両親と一緒にお祭りを見て回りました」
「あちらのアリサ様とお会いしたと思うんですけど、どういう状況でした?」
エルゼの言葉にナーシャは首を傾けて、「あれはお昼頃でした」と話し出した。
「あの時、私は迷ってしまって王都の小さな道の階段上にある花屋さんに大通りへ行く道を聞いていました。そして階段を下りた時、あの方が階段の一番上から『シルビア様?』と言ってきたんです」
「その後、どうされました?」
「声のする方を向いたら面識がない方でした。私は『違いますよ』と言って、そのまま大通りに向かいました」
「その時、大騒ぎになったりとかしていませんでした?」
「……そのまま大通りに向かっていると、何やら彼女が騒ぐ声が聞こえました。振り向いてみるとしりもちをついて、転んだのかなって思いました。すぐさまそちらの男性がやってきたので知り合いのようだし、彼女も転んだ後にすぐ立ち上がったので大丈夫かなって思って声をかけずに立ち去りました」
ナーシャの話しが終ると傍聴人たちはざわめきだした。新聞に書いてあった事と全然、話が違っているのだから当然だ。
話しを聞いてアリサは叫ぶように「違うわよ!」と言った。だがエルゼは「目撃者のお話ですが……」と話しを続ける。
「新聞に書いてあった目撃者に私たちは一人一人にお話を聞きました。すると黄色のドレスとヒール、帽子をかぶった令嬢は見たけれど、それがシルビア様だったとは言っておりません。そしてナーシャ様が突き飛ばしたという場面も見ていません」
「……彼女が語っている話しは捏造じゃないのか?」
ダグラスは顔を真っ青にして、冷や汗をかきながら話し出した。
「もしかしたら、ナーシャ様はシルビアに頼まれてこんな茶番をやっているのかも……」
「道を教えた花屋の女主人はナーシャ様の事を覚えていましたよ。彼女は道を教えた後、階段を降りてアリサ様が跡を追ったところも。だから記者からの『アリサ様の事故の時、黄色のドレスを着た女性を見ましたか?』と言う質問に『はい』と答えただけでした。それがなぜかシルビア様が犯人だと言う事になってしまい、花屋の女主人は呆れていました」
「……僕は、彼女の、後ろ姿を見たんだ」
「それは、あなたがシルビア様に贈った服が似ていたから、シルビア様と思い込んだだけじゃないでしょうか」
エルゼは切り返しにそう言って、ナーシャが持ってきたトランクからシルビアが持っていた黄色のドレスとヒールを出した。
「こちらはシルビア様が持っていたダグラス様からもらったドレスです。見てください! ヒールの底は一切、汚れていません。新品っていう事は、シルビア様はこのドレスを着ていないという事です!」
「……」
「あなたは花祭り前日になって、シルビア様とのデートをドタキャンするお手紙を書いておりますね。あなたがドタキャンする手紙も残っております。予定が無くなった彼女は当日、メイドと一緒に書籍売りの男から本を借りました。その証拠の書籍売りの男から本を借りているという証明書も持ってきました! 見てください! 花祭りの当日の日付です!」
そしてエルゼが「以上が、シルビア様が事件に関与していないという証拠です」と言って、ダグラスとアリサを見据えた。
「シルビア様がアリサ様を突き飛ばした事実は皆無です。アリサ様、突き飛ばした人間はシルビア様でなく、自分で転んだのではないでしょうか? それから本当は歩けるのではないでしょうか? 車いすに乗っているのに、フリルたっぷりの服なんて着ません。車輪が巻き込まれますからね。人前に出る時は車いすに乗って、裏では歩いているのではないでしょうか? あなたが履いているヒールの靴の底も汚れていますよ」
エルゼの言葉にダグラスの方が、目が泳ぎオドオドして動揺していた。一方、アリサはワナワナと震えて、エルゼたちを指さして口を開いた。
「あなた方が言う証拠はすべてでっち上げだあああ!」
「……」
「そのナーシャと言う人も書籍売りの話しも証明書も、全部全部、お前らが作った妄想だ! シルビアが! 私を突き落としたんだ!」
「……」
「我が家が! 発行している新聞が! すべて! 正しいんだああ!」
傍聴人、いや国中に聞かせるごとくアリサは宣言した。
それを聞いてエルゼは小さく「……和解は無理そうね」と呟いた。




