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第25話 お勝負、始まりますわよ

 広場の噴水からぷしゃ~と放たれた水しぶきがキラリン☆ と、きらめく。


 決戦の朝。


 朝露がお日様を反射する、そんな気持ちのいい天気の中、僕たちの「コーヒー&軽食対決」の準備が着々と執り進められていた。


 準備、とは言っても、どこから来たなんなのかわからない人たちが広場に長机と椅子三脚をぽつんと置いただけ。


 ガヤガヤガヤ。


 それでも人はそこそこ集まってきている。


 半数は、なんかよくわからないけどなにかやるっぽいから見てみるか、って人たち。


「ツ、ツカサ、すごい人の数なのだ……! 地面が抜けてしまったりしないのだ!?」


 魔界育ちで人の集団に慣れていないヨルが、そこはかとなく可愛い心配をする。


「大丈夫だよ」


「そ、それならいいのだ。勝負が始まる前に地面が抜けてしまっては元も子もないのだ……」


 どうやら魔界ってとこは地面がゆるいみたい。


「それより、ヨル」


「な、なんなのだ……?」


「この一週間、お店を守ってくれてありがとう」


 甜菜を使ったスイーツのレシピを研究してたこの一週間。

 サジの手先の嫌がらせ客たちが、絶えずアンタルテを訪れていた。

 けど、そのたびにそいつらをヨルが追い払ってくれていたのだった。


「な、なんてことないのだ……! ただ、ポイポイ外に放りだしてただけなのだ……! 我は……我は、(小声)ツカサの眷属だから、主のために尽くせるのが嬉しいだけなのだ……」


「? 途中から聞こえなかったんだけど」


「ななな……なんでもないのだ! それよりも勝負に集中するのだ! お店の存続がかかっているのだ!」


 ヨルがプイと顔を背ける。


 気難しい。

 まぁ、いいや。この勝負が終わったら改めてしっかりお礼しよう。

 アンタルテの常連様第一号&用心棒さん。

 そうだな、どこか旅行でも連れて行ってあげてもいいのかも。


 なんて思ってると、



 フィ~ン!



 と、軽快なエンジン音を響かせてニャモが人並みを縫って軽快に走ってきた。


「おまたせしましたにゃ~!」


 ニャモには、ソフィーが足をかけて乗っかっている。


 ふわりと舞う白のエプロン。


 光る朝露が照らす美貌。


 集まった野次馬のみなさんからも「おぉ~……」と声が漏れる。


「ソフィーさん、大丈夫?」


「えぇ、ばっちりよ~」


 その手には、僕らの昼食用のサンドイッチの入ったバスケットが握られていた。


「ほっ……。忘れちゃったから食べなくてもいいかなと思ってたんだけど……」


「だめよ~。めっ! お昼はちゃんと食べないと楽しくないでしょ~?」


 楽しく? ハハッ。ソフィーらしい。必要があって食べるんじゃなくて、楽しいから食べる。そういう発想はなかったな。僕にとって食事は、ただの生きるための作業だったから。


「にしても、ニャモちゃんってとっても早いのね~! 私、びっくりしちゃったわ~!」


「なにもソフィーさんが行かなくても、僕が行ったのに」


「うふふ~、私ニャモちゃんに一回乗ってみたかったのよね~」


 そう笑うソフィーの笑顔に少しだけぎこちなさを感じる。


 緊張してるのかな、と思う。


 そうだよな、お店がなくなるかもしれないって勝負なんだ。


 いくらソフィーでも……。


「お腹が空きすぎて震えてきちゃったわ~」


 ずるっ! 思わず僕の足が地面を滑る。


「お腹が空いてたんだ、ソフィーさん……?」


「ええ~。だから今のうちに腹ごしらえしておきましょう~」


 ソフィーは噴水の縁に腰掛けると、バスケットを開ける。

 中には赤、緑、黄色の色とりどりなサンドイッチ。

 料理の苦手なソフィーが朝から頑張って作ってくれた一品だ。


「わぁ~! 美味しそうなのだ~!」


 ヨルが目を輝かせる。


「うん、じゃあ食べよっか」


 僕たちが噴水の縁に腰掛けてナイスなサンドイッチの詰まったバスケットを開けた時、人垣の後ろからすご~く粘り気のある声が響いた。


「ハッ~ハッハッ! まさか、そ~んなみすぼらしいサンドイッチで、この僕と戦おうとはな! これは、まさにへそが茶をわかすってやつだ!」


 現れたのは、ベジタブル=サジ。

 痩躯の神経質そうな目つきの男。

 自称「至高の舌(エメラルド・タン)の持ち主」。

 しかも、今日は一段と紫髪のパーマの整い具合に気合が入っている。


「ん? これは勝負に使うんじゃなくて、僕らの昼食用なんだけど?」


「ハッ! 言うに事欠いて言い訳と! 惨めとはまさにこのこと!」


 えぇ……? 言い訳とかじゃないんだけどな……。


「まぁ、いい! 貴様らがなにを用意しようと勝ち目はな~いのだから! なぜならば! この至高の舌(エメラルド・タン)の持ち主ことボク、ベジタブル=サジが厳選に厳選を重ねた超一流食材を使った軽食! それに勝てるはずがないからだ~!」


 超一流食材を使った軽食ってなんなんだろう……。


「ニャモ? コーヒーに合う一流食材ってなに?」


「にゃ。(思考構築中(*ΦωΦ))(思考構築中(*ΦωΦ))」


 ニャモの頭の上で、ピンク霧が「?」マークになる。


「にゃっ。一流食材、といえば一般的にはキャビアやフォアグラが予想されますにゃ」


 う~ん……その組み合わせ、どうなんだ……?


 想像してみようとするけど、そもそも僕はキャビアもトリュフも食べたことない。


「ハッ、ポンコツロボットのわりには、なかなかいいとこ突いてるじゃないか!」


 いいとこ突いてるんだ?

 っていうか、ポンコツロボットって……。

 かつてこの世界にはポンコツなロボットがいっぱいいたらしい。

 まぁ、そのおかげでニャモが警戒されずにいるんだけど……でも、だからといってニャモがポンコツ扱いされるのは不快だよね。


「よろし~い、愚かなる貴様らに教えてやろ~う! この天才シェフ・ベジタブル=サジ様の軽食メニュー! それは……」


「それは……?」


 あまり気が進まないけど、一応対戦相手だから聞いてあげる。


「ふふふ……メニューは勝負の時までお預けだぁ~! 貴様らの絶望する顔が見ものだよ! あ~はっはっ~!」


「死ねばいいのにですにゃ」


「ニャモ? 穏便にね?」


 結局メニューを教えることもなく、サジは噴水の反対側にあるあっちの陣地へと帰っていった。なんだったんだ、一体。


 それから、僕たちは噴水の縁に腰掛けて、今度こそサンドイッチをパクパク食べてお腹を満たし──。


 その様子を見て、サンドイッチが本当に僕らのご飯だったことを知ったサジが照れ隠しなのか怒りなのかよくわからない表情で「ぐぬぬ……」とハンカチを噛み──。


 設置された三脚の椅子に、審査員の三人がやってきて──。


 どこにいたのか、急に湧いて出てきた司会が宣言する。



「これより『コーヒー&軽食対決』を開始致します!」



 と、こうして。


 なんだかんだ、ついに喫茶『アンタルテ』の命運を決める対決が始まったのだった。

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