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第24話 お砂糖抽出

 無事、僕とニャモはバレルの畑から甜菜をゲットして帰ってきた。


 帰りは高速運転。たぶん時速80キロは出てんじゃないかな? ビュンビュンのビュンビュン。


「一度通った道はマッピングされてるので、ぶっ飛ばしますですにゃ~!」


 とのこと。さらに。


「峠の王者はニャモですにゃ~~~!」


 と、ノリノリで猛烈なドライビングを見せていた。


 この世界、当然ながら制限速度がない。


 だから好き放題飛ばせるんだけど……さすがにちょと怖かったな……。


 というわけで、僕らはバビュンと『アンタルテ』へと帰ってきて、店の前で待っていたヨルから熱烈な抱擁で出迎えられたのだった。



 ◇猫◆猫◇猫◆猫◇猫◆猫◇猫◆



『アンタルテ』の扉を開けると、香ばしいコーヒーの香りが鼻の奥をくすぐった。


「あら~、早かったのね~」


 ソフィーのほんわかとした声に、思ったよりもホッとする自分がいて驚く。


 頭で思ってるよりも、体がここを「ホーム」として受け入れてるのかも。


「ただいま。畑の方は大丈夫そうだったよ。使えそうなものもいくつか持ってきた」


 僕はにっこりと笑うと、肩から下げた買い物用の布袋からユレルが選りすぐってくれた甜菜を取り出し、カウンターの上にごろんと置いた。


「結構たくさん残ってたのね~」


「ニャモとバレルの子供たちが頑張ってくれてね」


「そ、その子供というのは男なのだ!? 女なのだ!?」


 ヨルが逼迫した表情で問い詰めてくる。


「女の子一人と、男の子二人だったよ」


「ガーン……! またしてもライバル出現なのだ……」


「? ところで、お店の方は大丈夫だった?」


「大丈夫よ~。ヨルちゃんが頑張ってくれたの~」


「そ、そうなのだ! 変な奴らが来てたが、我が楽勝(らくしょ~)でつまみ出してやったのだ! 我は立派にアンタルテを守ったのだ!」


「そうか、ありがとなヨル」


 ヨルの銀色の柔らかな髪をわしゃっと撫でる。


 ヨルは俯くと顔を真赤にして「こ、子供扱いするな……なのだ……」とぷいとそっぽを向いた。


 おやおや、照れ隠しかな?


「じゃあ、畑のほうは再建の目処(めど)がついたのかしら~?」


「うん、しばらくは厳しいと思うけど、すぐにまた収穫できると思う。僕たちもちょくちょくチェックにいくしね。それにクロちゃんも見張ってくれてるし」


「クロちゃん?」


「うん、黒狼の子供でね。畑を荒らしてた子なんだけど、今は畑の番犬……番狼? をしてくれてる」


「ツカサ、モンスターと戦ったのだ!? 無事なのだ!? どこも痛いところはないのだ!?」


 ヨルが、あわあわと僕の手足をさわさわする。


「あはは、大丈夫だよ。ニャモがでっかい狼になったらコロリ。で、今では僕たちに絶対服従だよ」


「ホッ、よかったのだ……。って……ん? 絶対服従……? もしかして眷属なのだ!? 我の他にも眷属が出来てしまったのだ!?」


「いや、眷属……ではないと思う。甜菜好きの狼だから、甜菜スイーツを振る舞う約束で取り引きに応じてる感じかな」


 ヨルは心底安堵した様子で胸をなでおろす。


 ん~、そんなに大事なこと? 眷属かどうかって。


「そ、そうなのだ……それならいいのだ! うん、(小声)ツカサは我だけの主でいてほしいのだ……。たとえ、その器ゆえ今後多くの者を従えることになろうとも、少なくとも今だけは……なのだ」


「ん? なんか言った?」


「ななな……なんでもないのだっ! それよりもほら、この甜菜を錬成するのではないのだ!? 対決まで時間がないのだ! さっそく取り掛かるのだ!」


 ヨルは目をぐるぐると回しながらうろたえる。


 なんだか様子が怪しい。


「ソフィーさん? 本当に大丈夫だった?」


「うふふ~、ヨルちゃんも多感なお年頃だからね~」


 相変わらずわけのわからないことを言うソフィー。


 う~ん、この二人、いまいちよくわからないな。


 まぁ、いい。


「うん、僕たちに残された時間は、ヨルが言った通りあと一週間! ってことで……」


「にゃ!」


「やろう、砂糖抽出!」


 こうして、僕たちは念願の砂糖の抽出へと取り掛かった。



 ◇猫◆猫◇猫◆猫◇猫◆猫◇猫◆



 数時間後。



 ぺっか~ん!



 僕たちの前に現れた茶色の粉末。


 ヨルがそれに指を伸ばし、恐る恐る口に含む。



「◎△■☆✕✕◯◆□~~~ッ!」



 漫画のように目を『◎☆』にするヨル。


「どう?」


「これは~~ッ! この脳天に響く悠幻なる旋律! これが……これが砂糖……! すごい……すごいのだ、ツカサ! ヴァンパイアさえも虜にする、とてつもない新味覚なのだ~~~!!!」


 全身は弛緩し、目は虚ろ。

 息遣いは荒く、口からは涎がだらりん。

 恍惚を超えた超恍惚。

 ヨルは、そんな人には見せられないような表情のまま、わなわなと震えている。


 続いてソフィーもぺろり。


「まぁ! これだけ強い味なら、コーヒーもクセのあるものをぶつけられそう~!」


 おお、さすがはソフィー。

 砂糖初体験ながら、頭の中はコーヒー。

 これはこれですごい信念だ。


 さっ、じゃあ僕もいただいてみるとしますかね……。ぺろり。


 うん、甘い!


 この世界へとやって来て数日。


 すっかり忘れかけていた砂糖の魔力が、再び僕の脳の中に染み渡っていく。


「絶対……絶対に勝てるのだ! あのサジとかいういけ好かないキザ野郎の鼻を明かしてやるのだ~!」


「うふふ……この癖のある味と調和させるには、あれとあれをこのバランスでブレンドして……うふふふふ……!」


「にゃ。これであと一週間、レシピ作りに時間を避けますにゃね」


「うん、だね。よし、この勝負もらったぞ、サジ!」


 こうして僕たちは砂糖を使ったスイーツ作りに精を出し──。


 一週間後の、決戦の日を迎えた。

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