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第26話 愚かな天才シェフ

「さぁ、目に焼き付けるがいい! これが、天才料理家ベジタブル=サジの全力本気の究極料理だぁぁぁぁ!」


 問答無用で勝手にサジが先行でメニューを披露した。


 金ピカなワゴンを覆っていた真っ赤なクロスをサジがサッと引く。


 中から出てきたのは──。



 黄金色の輝きを放つ、巨大なステーキ肉、だった。



「御主人様……あいつ、馬鹿なのだ……」ฅ(๑•̀ㅁ•́ ฅ)ニ


「うん、軽食要素ゼロだよね……」


「ふふふ、 どうだ……! こんな料理見たこともないだろう! 言葉を失いし凡人共よ、さぁ、この意外性、そして美しさを目に焼き付けろッ!」


 相変わらず「ッ」の巻き舌で鬱陶しさ倍増なり。


「あら~、こっちもコーヒーの軽食コーヒーでいけばよかったかしら~」


「ソフィーさん? だから、びっくり対決じゃないんだってば」


 ソフィーもズレてたけど、サジもズレてる。

 この二人、実は似た者同士なのでは……?


 さてさて、そんなサジの出してきた肉塊なんだけど、微かに「実は肉塊風のケーキなのでは……?」なんて可能性も頭をよぎったけど、肉。普通に肉だった。


 丹念に作り込まれたソースが肉塊の表面できらめき、サジが切り取った肉からは、たっぷりジューシーな肉汁がじゅわりっ。


 しかも、その上にキャビア、トリュフ、金粉をふゎさと振りかける。


 ザ・下品。


 まるでTikTok向けのバカ成金向けの料理。


 けど、そんなバカ料理は大衆に大受け。


「あの肉の輝きは【SS】級トラケプトロス、しかもシャトーブリアンだぜぇ!?」

「ったくあんな高級料理、死ぬまでに一度は食ってみてぇもんだ!」


 みんな「コーヒー&軽食対決」ってことを忘れてるな……。


 審査員はそうでないといいけど……。


 僕は長机に据わった三人の審査員へと目をやる。


「あらまぁ、これはゴアシャンク鮫のキャビア、ニコニコ豚にしか探せない幻のビリリトリュフ、そしてリスネコンイタチの尻尾からしか取れないピカピカ金粉。よくぞこれだけの食材を一週間で揃えたもんだねぇ。さすがは『至高の舌(エメラルド・タン)』、ベジタブル=サジ。にしても、こ~んな珍しいものを食べられるだなんて……私は役得だねぇ~!」


 孔雀の扇子、ジャラジャラ宝石の指輪、厚化粧に体にぴったりと張り付いた真っ赤なセクシードレスに身を包んだ女が歓喜の声を上げる。


(えぇ……? 審査員も軽食対決であることを忘れてる……?)


 っていうか……この系統の人ってTikTokでステマしてるようなバカ成金そのものじゃん……。

 そんな人が審査員……?

 はたして、誰がどんな基準でこの三人に審査を依頼したのか。

 そもそも、この三人はいったい誰なのか。

 もしかして三人とサジはグルなのでは……。


 そんな不安が頭をもたげる。


 しかも──。


「うめぇっ! うんめぇぇぇぇぇ~~~!」


 二人目の審査員、色黒筋肉白髭男ときたら粗野にガツガツ夢中で食べてるし……。


 あかん、終わりだよ、もう。


 思わず関西弁で絶望。


 一縷の望みを託して最後、三人目の審査員に目を向ける。


 って……え? 子供?


 子供。緑髪で半ズボン。第一ボタンまできっちり止めた白シャツに、可愛らしい赤い蝶ネクタイをつけた男の子が、ナイフとフォークを置いて、持参した袋から豆をポイッと口に運んでいる。


(肉は一口かじっただけ、か……。イマイチだったのかな……?)


 それとも、ちゃんと対決の趣旨を理解してくれてる?


 とはいえ子供だからなぁ。あまり期待は持てそうにない。


「ツカサ……もしかしたら審査員もサジたちもグル……」


 ヨルが不安そうな目をこちらに向ける。


「大丈夫。ヨルも食べただろ、僕たちの必殺のスイーツ。たとえこれが審判が買収された茶番劇だったとしても、僕たちは絶対に勝つよ」


 なんてったって、この世界初の砂糖。


 食べたら成金だろうが脳筋だろうが腰を抜かす。絶対に。


「う、うむ! たしかにあの『すいーつ』というやつは、口に入れた瞬間にヴァンパイアたる我ですら思わず天国に舞い上がりそうになったくらいなのだ!」


「でしょ? だから大丈夫だって。信じて」


「……うん! そうなのだ! 我らの大事な居場所を守るのだ! あのお店は、我とツカサ、ニャモ、そしてソフィーとの大事な繋がりなのだ! なくなってもらっては困るのだ!」


 居場所。うん、僕たちの居場所。

 守んなきゃね。守んなきゃ。


 そのためにも──。



「おやおや~? これって『コーヒー&軽食対決』じゃなかった~? サジさん、趣旨を履き違えてな~い?」



 釘を差して対決の趣旨を周知。流れを引き戻す。


「にゃ~! その通りにゃ~! 対決の趣旨すら理解できてないサジと審査員は恥ずかしい大バカ野郎にゃ~!」


 ニャモ? 援護はありがたいけど、審査員にまでケンカ売らないでね?


「ふふ……ふははは……! 軽食! 軽食がなんだ! 軽食で腹がふくれるか!? 否! 一つ星レストランのシェフ、ベジタブル=サジのプライドに賭けて言おう! コーヒーとは! ガッツリ肉料理を食べた後に飲んでこそ価値があると! 軽食だぁ? ハッ! その軽食という生ぬるい『()()()()()()()』ごと、この天才ベジタブル=サジが打ち砕いてみせようではないかッ!」


 おままごと遊び。


 たしかサジって、ソフィーとのおままごと遊びがきっかけで料理にハマったんじゃなかったっけ。


 で、もしかして。かつてソフィーに振られたもんだから、その時のおままごと遊び自体にヘイトを募らせてる……?


 うわ、ありえる。ていうか、自分も非モテゆえにサジの非モテムーブが痛いほど理解できてしまうのがツラい。


 ま、僕はあそこまでパーマに気を遣ったり、傲慢になったり、人を誘拐させたり、店に嫌がらせを仕掛けさせたりなんてしないけどね!


 そうだ、思い出してきた。あいつは、公衆の面前でソフィーのコーヒーをカップごと地面に叩きつけ、ソフィーを拐い、店に何度も嫌がらせを続けてきたんだ。


 僕の中に沸々と怒りが湧き上がってくる。


 そこにサジのウザすぎる一言が。


「はぁ~、それにしても臭い臭っい! ここまでスラムのドブの臭いが漂ってくるぞ! あ、これは貴様らの匂いだったか! 失敬失敬、どはははは!」


 ぷ、ちん。


「サジ! さすがの温厚な僕でもさすがにキレちまったよ……! 僕たちを、軽食を、そしてソフィーの淹れたコーヒーを馬鹿にした報い、たっぷりと受けてもらうからな!」


「くはは! 愚かなスラム住民が、この僕に報いを受けさせるだって!? くははは! では、見せてみろよ、その惨めで陳腐なスラムの軽食を!」


 いいだろう、サジ。


 正々堂々「味」で勝負するつもりだったけど、あぁ、わかったよ。徹底的にやってやる。


「ニャモ、いくぞ!」


「はいですにゃ!」


 僕たちは、この一週間準備を続けてきた成果──『パンケーキ』を披露するために、審査員たちの前へと進み出た。

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