第12話 勝負!
ソフィーに「お久しぶり」と言われた料理人、サジが激しく動揺する。
「お……お久しくなんかない! 貴様なぞ知らんっ!」
「え~? でも私、サジくんに昔スカウトされた気がするんですけど~? 『キミのコーヒーは天下を取れるから、ぜひ僕と一緒に店をやってくれ』って~」
「わ……わ~わ~わ~~~! デタラメを言うな~! 知らん、知らんぞ~! そもそも貴様の店はスラムの奥深くだろ! そんな薄汚いスラムのことなんて知るか! まったく汚らわしい!」
いやいや、めちゃめちゃ知ってるじゃん……。
しかも昔、ソフィーをスカウトして断られたって……。
「あら~、私がスラムにしかお店を出せないように手を回したのはサジくんじゃなかったかしら~? それとも、サジくんの熱烈なスカウトを私が断ったことをまだ根に持ってるのかしら~? うふふ~?」
ん? ソフィーがスラムに店を構えることになったのは、このサジのせい……?
「なっ……! なにを言って……! おい、貴様……!」
サジは口から泡を飛ばしながら狼狽えている。
「覚えてるわ~、私のコーヒーを『天上の調べのようだ』って言ってたことを~」
「い、言ってな~い! 断じて言ってないぞ!」
ソフィーは笑顔のまま追撃。逆に怖い。
「あら、言ってたじゃない? 『キミがいれば三つ星、いや伝説の五つ星レストランになることも可能だ!』って」
「わ~~~! わ~わ~! 黙れ、スラムの薄汚いカスが!」
その間にもコーヒーはニャモによって次々と配布されてく。
「え~? でもこれ美味くな~い?」
「うん、美味かった~」
「正直、今まで飲んだ中で一番だわ」
「もしかしてサジって……味オンチ?」
サジの顔が引きつり、丁寧に整えたのでだろう前髪のうねりが二つに割れる。
「ふっ……ふざけるなっ! そもそも! コーヒー単品で味を評価するだなんてナンセンスだっ! いいか!? 『コーヒーと軽食』! この組み合わせでこそ、初めてコーヒーは評価されるべきなんだ! こんな……コーヒーを淹れることしか能のないスラム女なんかに、僕が負けるわけがないだろうっ!」
あっ、ピ~ンと来た。
この無料試飲キャンペーンを、さらに成功させる方法を。
すかさず僕は二人の間に入り込む。
「あ~、いいかな? え~っと、じゃあさ。そこまで言うなら……勝負しない?」
「勝負ぅ? っていうか、誰だてめぇは?」
「うん、僕は喫茶アンタルテの従業員さ。で、あなたはソフィーさんより美味しいものを作れるんでしょ?」
「あ……当たり前だ!」
「なら、あなたの言うとおり『コーヒーと軽食』で、どちらが美味しいものを作れるか勝負しようよ?」
「はぁ!? なんでそんなこと……」
「こっちは試飲キャンペーンを邪魔されたうえに、大事なコーヒーとカップまで壊れてるんだ。僕たちが勝ったら、あなたに謝ってもらう。そうだな、土下座でもしてもらおうか」
「なんだと!?」
「絶対負けないんでしょ?」
「あ、当たり前だ!」
「ならいいじゃん。その代わり、僕らが負けたらあんたの言うことに従うよ。それでどう?」
「くくく……。いいだろう……。そうだな、一度徹底的に叩き潰しておくべきだったんだ……。わかった、受けようじゃないか、その勝負!」
「うん、ソフィーさんはどう?」
「私も受けて立つわ~、うふふ~」
ざわざわ……。
「おい、勝負だってよ!」
「飛ぶ鳥を落とす勢いの一つ星シェフと、スラムの美人店主……こりゃ面白くなりそうだ!」
「いいじゃねぇか、やれやれ!」
「これより美味いコーヒーがあるなら用意してみろってんだ!」
僕たちを取り囲んだ人たちも盛り上がる。
「まさかこの状況から逃げ出したりしないよね?」
「そ、そんなわけないだろうが……!」
「よし、じゃあ勝負は一週間後にここで! メニューは『コーヒーと軽食』! いいね!?」
「あぁ……! そんな生意気な口が二度と叩けないよう、徹底的に叩き潰してやる……!」
「うおおおお! 決まったぞ! 一週間後!」
「久しぶりの祭りだぜ~!」
「コーヒー姉ちゃんがんばれ~!」
「至高の舌の本気も楽しみだ!」
こうして、僕らは。
突如現れた一つ星レストランのオーナーシェフ「サジ」と、美食対決をすることになったのだった。
勝負まで、あと一週間後。
さ~てと。
どんな「軽食」を作るとしようか。
お店に帰って相談だ。




