100.策士不在の話し合い
――太古の。それも、光属性の元となる魔力。
まさか、あれが……。
そんな力が自分の中に流れているとは、いまいち信じられない。
まぁ害は無さそうだし、私自身で呼び起こしてしまったのだから、付き合っていくしかないだろう。
カルロスの話では、余程の事情が無いかぎり、天族が無理に人間から魂を抜き取ることはないらしい。
けれど、私の状況は違った。
実際には仮初めの印だったが――そうとは知らない緑頭は、私に王妃の印が入っていると思っている。
その情報が、共有された可能性が高いらしい。
人間界を飛んだ時にカルロスが感じたものは、尋常ではなかったそうだ。
考えたくはないが、完全な王妃となる前に無理に魂を狙うかもしれないと。
「魔王様は、ノアが何をしようとしているのかまでは、聞いていない……ってことですね?」
ロランは真面目な顔で言った。
「……そうだ。だが、予想はついている。我々が近づけば、ノアの立場が危うくなる。天族に戻ったのなら、今は安全な筈だ」
今は?
カルロスはそれだけ言うと黙ってしまう。何か考えでもあるのか、予想については話してくれない。
「それにしてもっ! ヒナの力は、それだけ天族には魅力があるってことかぁ〜。モテモテだねっ」
「……全く嬉しくないわ」
顔を顰めていた私に向かって、キーランはおちゃらけると、クルッとカルロスの方に向き直す。
「俺には、天界の事情なんてよく分からないですけど。見す見すヒナの魂を、奴らに取られるなんて絶対に嫌だっ。……魔王様も、そうですよね?」
キーランのオッドアイは、カルロスの真意を探るように眼差しを向ける。
それをカルロスは受け止め「無論だ」と答えた。
「私だって、天界に連れて行かれるなんて……ごめんだわ!」
私はカルロスと、共に生きると決めたのだ。
「それにさ、ヒナの力は諸刃の剣ってことでしょ。闇属性の力は天族に敵わないけど、その太古の力は聖属性。アイツらと対等に戦える。一方で、魔族の俺達は簡単にやられちゃうって事だけど」
「キーラン、嫌なこと言わないで。この力は、魔族のみんなに向けたりしないわ」
私の大切な仲間だもの。……そう、ノアだって。
「ノアを取り戻す方法はないのでしょうか? できれば私にも、カルロスの予想が何なのか教えてほしいです」
私の願いにカルロスは仕方なさそうに、ポツリ、ポツリと話し出した。
「皆は知らぬと思うが……。ノアの本来の姿、髪と翼は白だ」
薄々はそうじゃないかと思っていた。
ノアは魔族になったから、グレー寄りの銀色なんだと。天使のイメージや、緑頭の翼も白だったから。
だけど、それがどうしたのだろうか?
「「まさか……」」と言ったのは、キーランとロランだった。
「天族の翼が白であるのは知っているな?」
カルロスの問いかけに二人は頷く。私には何が言いたいのかサッパリ解らない。
「では、髪色はどうだ?」
「殆どの天族が金髪です。まれに、特別な奴は別の色をしていたりとか……」
キーランの言葉で、緑頭を思い出す。
「以前、俺が会った奴らも金髪ばかりでした」とロランも言う。
「白い髪は珍しいのですか?」
「珍しいどころじゃないよぉ。人数的には片手くらいでしょう」と、キーランは言った。
一瞬、ケリーの肉球を想像してしまったが、今はそんなことを考えていてはいけない。五本の指に入るという事だ。
「功績を挙げ、神との対面が叶った者のみ与えられる色だ。天族でも最も高い地位の者がそうだ。ノアの話では、神の前に立つと全てが浄化され、そうなるらしい」
そうか。ノアは天族の中でも上位にいたのだ。カルロスもそれを知っていた。
あれ? なら何で魔族になったのだろうか?
コテっと首を傾げた私に、カルロスは説明する。
「理由などは知らん。私の元へ来るか尋ねたら、来ると言っただけだからな」
――え、そんな感じ!? 随分と軽くないだろうか?
ふと見ると、ロランとキーランもうんうんと頷いている。……もしかして、この二人も?
「何かノアって、ちょくちょく元部下がどうの言っていたし。天界との関係が悪かった訳じゃないって事ですよね〜?」とキーラン。
「でも、緑頭は違ったわ」
ノアに対して嫌悪感が滲み出ていた。
「確かに、ノアは天界を捨てた者と思われていただろう。だが、未だに慕ってくる者が居たこともまた事実。私の監視の為に、魔族として魔界に居たと言えば立場的にも問題ない。周りが信じるかはノア次第だが」
「……もしかして、それも最初から?」
「そうだが」とカルロスはケロッと言う。
寧ろ、そんな戻れる理由まで用意して、ノアを魔族に勧誘したカルロスが不思議だった。
◇◇◇◇◇
――結局。
天界からの動きがあるまで様子を見ると決め、私は一度寮へ戻ることにした。
取り敢えず、学園に居る間はキーランとロランが。寮ではキーランがケリーに姿なって、常に近くで見守ってくれる。
それ以外は、魔界でカルロスのそばに居ることにして。
人間界はもう、空が白む時刻になっていた。
カルロスと出かけたのを知っているジゼルは、きっと心配しているに違いない。寝て待つように言ってはあったが、ジゼルの性格ではきっと……。
「ふふっ、お嬢様。私を除け者にしましたね?」
ケリーと共に転移して戻ると、にこやかな笑顔のジゼルが、仁王立ちして待ち構えていた。
うん、この感じ……二度目だわ。
目が全く笑っていないジゼルに、ケリーの背中の毛がゾワワっと立った。
「ええっと……除け者にしたのではないのよ。想定外の出来事が起こってしまったの」
「では、お嬢様。お支度しながら、たっぷりお聞かせくださいませ」とニッコリ笑う。
ケリーを膝に乗せた状態で、一連の出来事をジゼルに伝えた。
「やはり、除け者……」とボソリと聞こえたのは怖かったが、最終的にやる気満々のオーラが漂う。
私の支度を終えたジゼルは、窓から明るくなった空を見た。そして振り向き様に言う。
「お嬢様、天界へ向かわれる時は、必ずや私にお供させてくださいませ」
「ジゼル、まだ行くとは……」
何としても、私は捕まりたくないのだから。
「私、剣の師匠はロラン様。頭で主人を守る術を教えてくださる師は……ノア様だと思っております。先に言っておかないと、勝手に乗り込んでしまわれるでしょう? お嬢様が、黙って待つなんて」
『有り得ないでしょう』と、不敵な笑みを浮かべる。
「あ……」
ケリーは、すとんと膝から降りるとジゼルの脚に擦り寄り、「ニャ〜オ」と鳴いた。
――そうだ、守りに入るなんて私らしくない。




