101-①.乗り込みますよ
お読み下さり、ありがとうございます!
これから、完結まで毎日投稿いたしますm(__)m
本日は二話投稿致します。
「……という事で。私は天界に行こうと思います!」
私の力説に舌を巻いたのか、カルロスとロランは頷くしかなかったようだ。
キーランとジゼルは、私の背後で応援の視線を送ってくれる。
魂を抜かれてしまうかも……なんて、ビクビク待つのは私らしくないから。人間の姿のまま、天界に乗り込もうと思った。
――だって、今の時点で私には『王妃の印』は入っていない。
つまり、無理矢理に私の魂を抜くのは天界のルール違反。魔族が人間の魂に手を出せないルールと同じ。
そう、彼等は私に手を出せない。
私にいつか訪れる、自然の死を待つのみ。ただ、それを早める罠を仕掛けてくる可能性は、無きにしも非ず。
だから、この数日間……キーランと、魔王城の図書館で色々と調べたのだ。このタイミングで、ノアが天界へ戻った理由もわかった。
「神の門が開く時期が、間もなくなのでしょう?」
私がそう尋ねれば、カルロスは苦虫を噛み潰したような顔をして「……うむ」と答える。
その門から、天族が見つけ出してきた、神の愛し子となれる魂は入って行くのだ。
――神の加護を受ける儀式。
そう。門の先には神がいる。
光属性の加護持ちは滅多にいない。たとえ、門が開いたとしても、資格のある魂がいなければ誰も入れないのだ。
だから、ノアはそのチャンスを狙っているのだろう。
多分だけれど……直接、神に私の件を願い出るのではないだろうか。もしかしたら、ノア自身に罰が下されてしまうかもしれないのに。
そんなの御免だわ。
直談判するなら自分でやる。望まない者に、加護を与えたりはしないだろう。
それで、人間ではなく魔族の……魔王の妻になると宣言するのだ。
もしも――。
この世界の神が冷酷で、慈悲を持ち合わせていなかったら?
少し背中が寒くなったが、そんな事は実際に話してみなければ分からない。ノアが何かやるつもりなのであれば、多少なりとも勝算がある筈だ。
だからね。
「私は魔王と対等な、魔界の王妃になるのだもの。そのくらい、やってやろうじゃないの!」と啖呵を切ってみたのだ。
「だが、我々魔族は門には近づけない」
「わかっています」
「どうしても行くのか?」
「はい」
「………」
「私とノアを、信じてくれませんか?」
「……はぁぁ。全く、其方は」
大きな溜め息を吐き、カルロスはスッと手を挙げた。
「マチルド、ゴーティエ」と呼ぶ。
聞き覚えのない名前に、キョトンとしたのも束の間。扉から侍女頭とあのヨボヨボ執事がやって来た。カルロスが、この二人を名前で呼ぶことは今まで無かった。
確か、執事は烏に変身できた。侍女頭も、やはり何かに変身するのだろうか?
「ベアトリーチェを天界まで連れて行く。マチルドはロランを。ゴーティエはキーランを乗せて行け」
とカルロスは二人に指示を出す。
「お待ちください、魔王様! 私もベアトリーチェお嬢様について行きます!」
ジゼルは抗議するが、カルロスは首を横に振る。
キーランと私は、ジゼルの気持ちを知っていたから……だから、せめて途中まででもと口添えしようとするが、ロランに制止された。
何故だろう?
ロランなら、ジゼルの剣の腕をよく知っているのに。
「ジゼル。あなたは私の代わりに、侍女としてこの城を守っていてほしいのです」と言ったのは、侍女頭マチルドだった。
マチルドは、カルロスに一時退席を申し出ると、納得できなさそうなジゼルを連れて部屋を出て行った。
「どうして、ジゼルは駄目なのですか?」
じとりとカルロスを見てしまう。
「ジゼルは、普通の人間だからだ」
カルロスはキッパリ言い切る。
「ですが……」と言った私に、ロランは一歩近づいた。
「ヒナ。もし、ジゼルが天族に剣を向け、傷付ければジゼルの魂は強制的に回収される。対天族の場合、争いになったら魔族である俺に……ジゼルを守る術は無い」
息を呑む程に、真剣な表情のロランの言葉は重かった。
「だからな」と、ポンッと大きな手を私の頭に乗せる。
「今回は……絶対に、天族を傷付けては駄目なんだ。出来るのは、ヒナの盾になり目的の場所まで送り届けること。それが唯一、ヒナとジゼルを危険な目に合わせないで済む方法なんだ」
「俺も。……ジゼルと会えなくなるのイヤだから、我慢するよ」
背後にいた、キーランがポソリと言った。
「そうですね。私もジゼルが大切ですから……。ん? ちょっと待ってください」
「何だ?」とカルロス。
「今、ロランは私の盾になるって?」
「そうだが?」
「まさか、無抵抗で攻撃を受けるとか……そんなこと、しないですよね?」
以前、光属性の力で付けられた傷は治らないと、キーランは言っていた。バクバクと心臓が音を立て出す。仲間を失うなんて絶対に嫌だ。
「無抵抗ではない。攻撃は全て躱す」
「は、い?」
「私はベアトリーチェとノアを信じるのだ。だから、其方も我々を信じるべきだ」
カルロスの双眸は、真っ直ぐに私を見ている。
私の提案が、これほど重大な事なんだと思い知らされた。私を尊重したカルロスは、相当な覚悟を決めてくれたのだ。
「ええ。……信じます。ですが、絶対に無理はしないでください。私も、約束しますから」
「ああ、わかった。約束しよう。我々が行くことができる場所までだ」と、カルロスは優しく私に触れた。
◇◇◇◇◇
――いよいよだ。
何だか吹っ切れた顔をしたジゼルに、支度をしてもらう。
白く品の良い、ワンショルダーのドレスを身に纏った。ノアの服に近いデザインにしてみたが、これが正装なのかはよく分からない。
本来、『王妃の印』が入れられる場所を、誰からも見えるようにする為に用意したドレスだ。
もちろん生地も軽くして、動きやすさも重視してある。
ジゼルに連れられ魔王城の屋上へ出ると、もう皆が揃っていた。
大きな真っ黒の烏の隣に立つキーラン。
その奥には、蒼く鋭い鱗で覆われた竜の姿があった。隣にはロランが立つ。
「え……もしかして、侍女頭?」
このメンバーならそれしか考えられない。
『ふふふ。ベアトリーチェ様、当たりでございます。久しぶりのこの姿、腕が鳴りますねぇ。本来より小さくなっておりますが、ご安心くださいませ。天族の攻撃など、全て弾いてみせましょう』
これで小さいのかと唖然とする。道理で、侍女頭の纏う魔力が濃かったはずだ……と納得した。
スピード重視のゴーティエ、キーランペア。屈強なマチルド、ロランペア。
そして、私はカルロスの手を取り天界に向かって、飛び立ったのだ。




