17,百合か薔薇か
「百合ですか」
「そうです、百合です」
フューネが呟けばフローラは勢いよく頷いた。
一応補足しておけば、フローラの言う百合とは花の品種のことではない。女性の同性愛ーー世の言うGLの事だ。
無論この世界に百合という概念は存在しない為アンナ及びフローラの執事には理解出来なかった。異世界転生者であるフューネもこの様な世界に足を踏み入れていなかったので理解は出来なかった。出来なかったがここでミラクルが起こる。
「百合よりも、薔薇の方が好みですし、そもそも百合に目覚めるとは一体……?」
フューネはただただ、事実として花の種類の中では百合よりも、トゲがありながら美しく咲き誇る薔薇の方が好みだ、とそう伝えた。ここで向日葵、とかガーベラ、とかチューリップ、とか言えばフローラは勘違いしなかっただろうに。
「薔薇信仰者ですのね……?」
「別に薔薇が大好きというわけではないのですが」
フューネがぼやくも、フローラは聞いちゃいなかった。なるほどなるほど、と力強く頷き、笑顔で言い切る。
「私は薔薇否定派ですが、まあ、薔薇寄り百合であればぎりぎりオーケーです。つまり、男装美少女令嬢×元悪役ツン令嬢であれば認められる」
「ちょっと何を仰っておるのか理解不能です」
アンナが誰よりも先に思っていたことを口にした。しかし、フローラはそれに返事をせず、フューネの手を握り締めた。
「男装は続行しましょう! 貴女の正体を知っているのはまだ私のみ。まだ大丈夫です。ナバル殿下に知られては終わりですし、ここは私と腐カップルになりましょう!」
「はあ」
キラキラとした目で見つめられ、頷けば、フローラは手をパンパンと叩き、自分の執事に何やら指示を出した。執事はちょっとだけ無表情になり、「本気ですかそれ」と感情をのせない声で呟いた。
「本気です。ゆくゆくは私達は世界初同性結婚ーー」
「それはやめましょうか。フューネ嬢の兄達に睨まれて死体になります」
「ちょっと意味が分からないわ」
「お嬢様が言わないでください」
「まあ、それは後々話し合いましょうか。とりあえずあの服を持ってきて頂戴」
「はあ、でも、責任はお嬢様が持ってくださいね」
「勿論よ!」
フローラとその執事はテンポ良くその会話をし、フューネもアンナも口を挟めず気付けばフローラの執事は部屋から消えていた。
「よし、まず、その悪趣味な化粧を落とすわよ」
「失礼な人ですね」
アンナが自分がフューネに施した化粧を悪趣味と言われ、むすっとした顔をする。
「私だってこんな化粧をしたくありませんよ。もっと、綺麗なーー」
「そうよ、綺麗な本来の肌を見せ、化粧なんてせずにいれば良いの。ええと、水はどこにあるのかしら」
「……」
フューネはその会話について行けず、ついていくことを諦めてこれからどの様に剣術を極めていこうか、という計画を立てていた。だから、フローラが言った言葉も聞いていなかった。
「そうよ、水がないなら出せば良いのよ」
何処ぞの王女と同じ様な発言をして両手をフューネにかざす。
「えいっ」
威勢の良い掛け声とともに水を出してフューネの顔面にぶつけた。
「……」
フューネは水をかけられても目を閉じない様に訓練をしていたので微動だにせずにいた。無意識下で水に濡れた絨毯を温風で乾かす。『もしかして、騎士になるには馬にも乗れなければならないのでは』と考え始めていた。
「やっぱ顔のパーツがとっても美しいわ。この方を伴侶にできるなんて最高」
「やめて下さい」
フローラの不穏な発言にアンナが噛みついたことにも気付いていなかった。
何やかんやとフローラ、アンナにいじられ、フローラの執事が持ってきた服も着せられ、意識がこちらに戻ってきたときには『ちょっと色気を出しすぎている、良いとこ出身の美し過ぎる令息』が完成していた。
迷走。




