18,野性の勘と見守り
何気にフローラが用意した服を気に入ったアンナはフューネの第一普段着をそれにした。普段学校を徘徊するときにはその格好で行こう、と。
さて、フューネは剣術、弓術、馬術、魔術の四つを専攻することに決めた。剣術以外はそこそこできるくらいなのでここで極めておこうと決めたのだ。因みに成績上位4位までにこの優遇措置が適応される。次席にナバルとザーク、続いてグルーネイという順番である。残念ながらフローラは13位であった。しかし、それは記名忘れで減点されての点数であり、実際は6位。結構良い感じの点を取っていたのだ。
フューネが専攻措置を使用すると情報を得たナバルは自らも同じものをとり、ナバルの護衛を兼ねるグルーネイは否応なしに同じものを専攻することになった。ザークは、ナバルがその四つを専攻すると聞いて同じものを取った。つまり、フューネはナバル、ザーク、グルーネイとずっと一緒であるのだった。
そんなことも知らず、授業初日を迎えたフューネは馬具を手の持ってフローラが持ってきた令息用服を着た。意外と動きやすく、馬に跨るにも良い設計がなされていた。これはたまたまではなく、フローラが「白馬の王子様に迎えにきてほしいなあ。だから、馬に跨って格好良く見える感じでよろしく」と専属デザイナーに言ったからである。
フローラは夢見る乙女であるのだ。
午前中は馬術の授業を取り、午後は魔術をとっている。
「アンナ。言ってくる」
凛々しくそう言ってみるとアンナは笑った。
「お嬢様。すっごくカッコ良いです。思わず惚れちゃいそう」
「アンナにだったら惚れられても良いな」
じゃあ、と兄達の真似をして手を振り、馬具を担いだ。
軍靴を鳴らして廊下を歩けば令嬢達が顔を赤らめる。ちょっと意地悪したくなったフューネは手を振ってウインクをする。これは罪作りな兄、リュートの真似である。
バッタバッタと人が倒れる。フューネは頭を打っては大変だ、と考えて風で令嬢達の頭を守り、ゆっくりと地面に寝かせた。勿論ドレスの中が見えない様に配慮付きだ。
やり遂げた感を滲ませ、颯爽と歩いていくフューネに惚れた令嬢と憧れを抱いた令息がフューネ親友会なるものを結成するのはまだ先の話だ。
馬術部が普段活動している場所に集合、と事前に連絡を受けていたが残念なことにフューネは若干方向音痴で事前に情報収集をするということを忘れていた。馬術部が普段活動する場所か、と確認して寝てしまったのだ。
さて。その場所は何処だ。
フューネは考える。馬を飼える場所。馬の匂いがする場所。思い出せ。
馬の匂い。馬の匂い……
目を閉じてすん、と鼻を動かした。ふわりと風に乗って微かに馬の匂いが。
あっちだ!
人に聞けば良いのに自分の野生の勘と鼻に頼るところは育ちがあれだからだ。仕方ない。
時折目を閉じて何やら感じ取っている美男子がいる、と噂が流れ、ナバルの耳に入った時、ナバルは即座にその場所を突き止めてフューネを迎えに行った。
丁度フューネは馬小屋を見つけて喜んでいた。達成感溢れる笑顔を馬に向けていた。
「やったぞ、目的地に着いた!」
よーしよし、と草を食んでいた馬の頭をわしゃわしゃと撫でている。
「グラス! 君の名前はグラスだ!」
よほど嬉しい様で馬に勝手に名前をつけて口元に草を押し付けている。馬はかなり嫌そうな顔だ。
ナバルは遅れてやってきたグルーネイと遠くからフューネの姿を見た。
「フューネ嬢ですよね、あれ。何をやっているのでしょうか」
グルーネイが呆れた様に目をくるりと回した。
わざわざ目立ちに来るなんて何を考えているのだろう、そもそも女だとバレたのだから男装しなくて良いのでは、と疑問に思っているのだ。
「何をやっているのかは分からないけれど、可愛い」
恋するナバルにはそんな奇行ですら可愛いで済ませられるものだった。恋のレンズは偉大だ。
その後、ザークが従者を伴わずにやって来てフューネを目ざとく見つけた。声を掛けようか迷っているところをナバルが回収し、フューネの行動を見守ることに決めた。
そして、授業開始を知らせる鐘の音が学院に響き渡った。
授業が始まらない




