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1-015.舞踏家とときめきと

「その必要は無い」


 冒険者ギルド内に渋い男性の声が響き渡り、小柄な人をお姫様抱っこした一匹のヌンサが入ってきた。


「あ、あなたは!Sランク冒険者『舞踏家』ヌンサ・バニーニング」

「なんだって!?あの『まな板の上で踊る魚』の!?」

「おい、ヌンサにSランク何人いるんだよ」


 パンッ。パンッ。

 アッシュは思わず発言した罪の無い冒険者の後頭部を叩いた。


「いつの間に背後に?」

「この私が見切れなかっただと・・・」


 背後へ瞬間移動という神業に周囲がざわめく。バーニングさんも驚いた顔でこちらを見ていた。集まる視線にアッシュ自身も無意識で気がついたら移動してツッコミしていた自分に驚気恐怖する。なにこれ!?無意識って怖い。まるで別の意思に操られているかのようだった。きっとアッシュの中にはアッシュ本体(たましい)とツッコミ衝動が別に存在するのだろう。ボケとツッコミが別体であるように。


「おい。あの抱えられているのってときめきアットナイトじゃねえか?」

「ほんとだ。ときめきアットナイトだ」

「お姫様抱っこされてるぜ」

『ときめいちまうぜ!』

「だからときめきうるせよ」


 パン、パン、パン。

 無意識に会話の取っ掛かり三人を叩いて。あれ?俺今どうやって移動した?自分がどうやって移動してツッコミしたのかと再び恐怖した。


「やあ、バーニィ。事情を説明してもらえるかい?」

「ジュネか。それにサマンサも。チィッ。長老も一緒か」


 バーニィと愛称で呼ばれたバーニングさんはときめきアットナイトを床にそっと降ろして。


「聞きたければ私を倒すことだな!」


 両腕を上げて構えを取った!?


「何でだよ!?」


 パンッ。思わずアッシュのツッコミが入る。無意識の裏拳もといツッコミにバーニングさんは両目を見開き。


「グハァ」


 血を吐いて床に膝を付いた。


「この人Sランクじゃないの!?」

「バーニィはSランクで強いよ」

「でもヌンサだから紙装甲なのよね」

「それ一撃でも食らったら終わりですよね」

「まあ、ヌンサだから復活も早いのよ。それに舞踏家の名は伊達じゃないのよ?」

「私はまだ負けとらん」

「いや、負けとるやんけ」


 復活したバーニングさんにまたツッコミを入れたがするりとした身のこなしで踊るように避けられる。アッシュの平手が空を斬る。初めてツッコミを避けられて戦慄を覚えた。


「舞踏家に同じ技は二度も通じない」


 目を閉じて渋い声でそう口にするバーニングさんがアッシュには力強く見えた。まさしく舞踏家。まとう雰囲気もどこか違う圧がある。とそこで疑問点に気がつく。


「ん?戦うほうの武闘家ではなくてですか?」

「うむ。踊るほうの舞踏家だ」

「バーニングは踊る武闘家と言われていてね。二つ名も踊るように回避する姿からきているのさ。ただねえ・・・」

「精神力だけで武闘を極めてるから強いのは確かなのよね。でも・・・」


 ジュネさんとサマンサさんが含みのある言葉の切りかたをして困った顔をする。サマンサさんは山田くんを呼んでハリセンを貰うとアッシュにそれを渡す。


「アッシュ。それでバーニィを叩いてみて」

「え?あ、はい・・・」


 しぶしぶハリセンを適当に振るった。避けられるだろうと思ったハリセンは、バンッ、といい音が鳴ってバーニングさんにあたった。


「グハァ」


 バーニングさんは血を吐いて再び床に膝を付いた。


「いやいやいまのバーニングさんなら避けられるでしょう?」

「はい。そこでもう一回同じように叩いてみて」

「そんな泣きっ面に蜂のようなこと・・・」


 文句を言いつつもサマンサさんが怖いのでハリセンを振るう。しかし予想外にもちょっと体をそらしてバーニングさんはほとんど動かずにハリセンを避けてしまった。サマンサさんがアッシュに説明する。


「バーニィは初手だけは避けられなくて食らうのよ。まあ、あれよ。前世的に言うと決められたプログラムどおりにしか反応できない機械みたいなものね。一度食らわないと学習して回避行動が取れないのよ」

「それって初手が一撃必殺だったら・・・」

「普通は死ぬわね。でもそこはほら、ヌンサ(理不尽)だから・・・ね」

「生命力の強いヌンサはすぐ復活するわけで。そして二回目には攻撃が通じなくなるからとなると確かに最強ですね」

「しかも剣技の型とかって最適化された先にあるものだろ?大抵到達点が似かよるから熟練者ほど型式にはまっていてバーニィには攻撃を当てられないんだ。素人も似た間違いを犯すしね。だから変化球の使い手、もしくはセンスの無いド素人でもない限り、彼に攻撃を当てられるものはいないんだよね」

「へ~すごいですねえって!俺のツッコミはいままで経験したことが無かったレベルってことですか?」

「アッシュ、誇っていいぜ」

「ツッコミなんて誇りたくないです」

「うむ。私に膝を付かせたんだ。誇っていいと思うぞ。お主は真の強者だ」


 ジュネさんが親指を立ててにっと笑う。復活したバーニングさんもそう言ってくれるなら悪い気はしない。でも本当にこの人強いのだろうか?疑問に思えてくる。


「そういえば紹介がまだだったな。私の名はヌンサ・バーニング。認めたものにはバーニィと愛称で呼んでもらっている。新しいヌンサの君もそう呼ぶといい」

「ヌンサ・アッシュです。よろしくお願いしますバーニィさん」


 バーニィさんと握手をした。


「ところでそろそろ話を進めたいのですが?」


 俺はちらりと床に寝かせられたときめきアットナイトを見る。ときめきアットナイトは周囲の冒険者よりも一回りも小さく小柄で、横たわる姿は縮こまってよりいっそうときめきアットナイトを小さく見せていた。耳を顎下までの長さの髪が垂れて横顔を隠しているが日に焼けた肌に丸みのある顔でぷっくりとした唇といい。きれいに線を描いた鼻と整った顔立ちをしている。かなり美形なのではないだろうか?というか美少年?美少女?見た目だけでは性別が不明だった。ときめきアットナイトが女の子だったら俺もちょっとときめいてしまいそうだ。

 みんなときめきアットナイトって呼んでるけど。というかときめきアットナイトは二つ名でさすがに本名は別だよな。二つ名の由来も容姿がかわいいから回りがみんなときめいちゃってだったりして?・・・・・・そんなはず無いよな。もしそうなら本人が不憫すぎる。

 とそんなことよりもときめきアットナイトに何があったかだ。


「なんだい?急に気持ち悪くしか見えないまじめな顔してアッシュは気持ち悪いな」


 気持ち悪い二回言われた。二回言われたいうことは大事なことなんだろう。俺はショックを受けてちょっとしょぼんとした。


「王都付近の森で野営していた冒険者が三人いた。ときめきアットナイトはそいつらと戦っていたのだよ」


 そんなこんなでバーニィさんが話し始める。意外とマイペースな人だ。


「なんで戦っていたんですか?」

「怪しかったからだろうな」

「というと?」

「おいおいアッシュ。ここは王都だぜ?宿屋があるんだ。普通なら宿屋に泊まるだろ」

「うむ。金が無くとも冒険者ギルドには事情さえあれば仮眠させてもらえる場所もある。冒険者でも初心者のころによく世話になるものだ」

「でも彼らはわざわざ野営していた。つまりはなにか事情があるってことだ」

「しかもときめきアットナイトは王都ギルドのトップとして後身の育成に熱心でね。初心者冒険者への世話焼きで有名なのよ。おかげでときめくやつが増えてやっかいなのよね。と、話がそれたわね。だからときめきアットナイトはこの王都の冒険者のほとんどを知っているの」


 うんうんと周りの冒険者も頷いている。本当に世話焼きな冒険者なのだろう。


「それが知らない冒険者が野営をしていた。ときめきアットナイトのことだからきっと困ったことが無いか世話やきついでに声をかけたんだろうね。もし長旅で宿代が無いのなら貸すくらいするだろうしね」

「しかし私が見たときにはときめきアットナイトは彼らに襲われていた。しかもときめきアットナイトをあっとうするほどの腕前だった。ときめきアットナイトは相手の力量に気づいて人数的にかなわないと判断したのだろう。一緒に来ていた冒険者に言伝を頼んで彼を逃がした。離れた場所でそれを見ていた私はときめきアットナイトが押し負けて木に叩きつけられ、気を失ったところで助太刀に入ったわけだ」


 なるほどそんな事情があったのか。その冒険者三人はかなりの手だれのようだし。訳有りの人間であることは間違いないな。よくないことを企んでもいないか事情聴取する必要がある。


「でそいつらは?」

「殺した」

「いまの流れで殺したの?普通事情聴取とか考えて一人は生かしたりするだろ!」

「武を極めるとはそういうことだ」

「極端すぎるだろ!」

「相手は手練れで武器を手にしていたのだ。死合以外に何がある」

「武器を持った子供にもいえるのかよ!」

「そのものが武人であるならな」

「ふざけんな!」

「アッシュ。バーニィは理由があれば殺すわよ」

「実際過去に十歳の子供を殺してるしね」

「そんな・・・せっかくまともなヌンサに合えたと思ったのに・・・・・・」

「落ち込む基準がそこな時点でアッシュもろくでなしだよ・・・」

「さすが『舞踏家』。その生き様に――」

『ときめいちまったぜ!』

「うるせえよおめえら!」


 バチンバチンバチン・・・・・・


「鞭のようにしなる張り手は痛いな」

「さっきの空気を内包した平手や裏拳は重さがあって痛かったが痛みは一瞬だった。こっちはビリビリして後が続くぜ。これはまるで――」

『ときめ「いわせねえよ!」』


 バチンバチンバチン・・・・・・

 一回目のさっきは頬を叩いたが、二回目のいまは顔面を正面から叩いた。みんな顔に二つの手跡が残っている。


「あきらめるんだアッシュ。ときめきはリエント王国内で一番質が高い冒険者であることの証なんだ」

「どういうことですか?」

「ここは国の中心だぜ?常に人が集まりにぎわうホットな場所さ。ゆえに王都ギルドには国中の依頼が集まる。国外のものもだ。その依頼場所で処理することのできない高難易度依頼の数々がここには集まるのさ。受ける冒険者にも相応の実力が求められる」


 つまりは世界中の高難易度依頼が集まるということになる。その壮大さにごくりとつばを飲み込む。


「なあアッシュ。ここにいる冒険者たちが君には弱く見えるかい?」


屈強で鍛えられた冒険者たちが目に入る。各々が卓越した技術をもつベテランの空気をかもし出している彼らは決して弱くは見えない。


「だからこそ。王都ギルドを去る冒険者も多い。だいたい半分はレベルの高さに着いていけなくてになるね」


 なるほど。ふざけたところはあるがここにいる冒険者たちはすごいんだなと見直した。そしてふと気になったことを聞いてみる。


「ちなみに残りの半分はどんな理由ですか?」

「ときめけなかったやつらだね」

「ここでそれが理由に出てくるのかよ!?」


 バシン。アッシュは思いっきりハリセンを床にたたきつけた。

予想外だよ。ときめけないと王都ギルドでは生き残れないの!?


「冒険に心躍らせて危険に飛び込めなければ冒険者じゃないのさ」


 まったくだ、と周囲の冒険者たちが同意して頷きあう。


「冒険に――」

『ときめいちまうぜ』


 トクン。心臓の高鳴りが聞こえた。

え?なにこれ?なんかときめきがかっこいい。


「ふむ。強者との戦いに私も心が躍るものだ」

「ときめきはロマンだよね」


 腕を組んで共感するジュネさんとバーニィさん。


「ときめいているところ悪いけど。治療が終わったわよ」


 ときめきアットナイトの側にサマンサさんが屈みこんでいる。話の間にときめきアットナイトの治療をしてくれていたらしい。


「まったくビートも無茶するわね。あばらが折れて臓器に刺さってたわ。あのまま放置してたら死んでいたかもしれないわね」

「ビート?」

「ビート・シュラーゲン。ときめきアットナイトの本名よ。まあ、みんな二つ名で呼ぶから知ってる人少ないけれどね」


 ん・・・と小さなうなり声を口にしてときめきアットナイトが目を覚ました。ちょっと甲高い子供っぽいきれいな声だった。薄め目を開いて口を動かす。


「・・・ここは」

「ここは冒険者ギルドよ」

「あなたはサマンサさん?」

「久しぶりねビート。いえ、立派な冒険者になった今なら実力を示す二つ名で呼んであげるべきね。おはよう。ときめきアットナイト」

「俺。その二つ名嫌いです」

「あら偶然ね。私も自分の二つ名嫌いなの」


 ニコニコ笑ってときめきアットナイトの頭を撫でるサマンサさん。どうやら二人は仲のいい知り合いのようだ。


「ときめきアットナイトは三十年前の駆け出しのころサマンサと一緒に冒険者をやって追ったんじゃよ」

「へ?三十年前って一体何歳なんですか?」

「少なくとも四十ぐぇ・・・」


 長老がときめきアットナイトに蹴っ飛ばされてふっ飛んだ。


「長老もいたのかよ」


 もう~と口を尖らせるときめきアットナイトはかわいかった。とても四十代には見えない。耳は尖ってないし。エルフというわけでもない。

 ちょんちょんとジュネさんがつついてくる。耳元に顔を近づけてささやく。


「ちょっと事情があってね。十代のころから姿が変わってないんだ。本人も気にしてるからあまり詮索しないでくれるかな」


 内緒だよ、と口元に指を当ててこっそり教えてくれた。

 事情があるならまあいいか。

 長老がまた余計なことを言って逆撫でしてときめきアットナイトに蹴られる。


 自分に長老の被害が来ないって素敵なことだな。

 小さな幸せを感じるアッシュだった。


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