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1-014.王都到着と冒険者ギルドとときめきと


 なぜこうなった?


 石畳の上で半身を横たえた姿でアッシュはそう思った。視界にはいるのは空を挟むようにそびえる建物。いつの間に着いたのかわからない街中の石畳はなぜだか生ぬるい。半身に受ける陽射しが思いのほか暑いことを考えると日が高く暑い時間帯にあるからかもしれない。


「アッシュ。王都到着おめでとう」


 聞きなれた声に俺は勢いよくガバッと起き上がる。


「いやいや。おめでとうじゃなくてですね!」


傍らで拍手するジュネさんに抗議の声を上げた。ジュネさんはペチペチ音の肉球拍手を続けている。


「門を潜った記憶も王都に入った記憶もないんですけど!?」


 確か自分は王都の旅路にあったはずだ。街道を進んでいて王都の影が見えるところまで来ていたのを覚えている。


「あ~それはだね。長老に邪魔され続けてこのままだと王都に着きそうもなかったからショートカットしたんだ」

「着きそうもないってどういうことですか?」

「私らは長老によって作られたヌンサ空間に閉じ込められてずっと王都までの街道の旅をループして繰り返していたんだ」

「はあああああ?」

「いわゆるネバーエンディングストーリーだね。終わらない夢とでも言おうか?」

「何でですか?」

「なんか旅って楽しいなあというほんわり雰囲気に長老がこのまま旅していたいと思ったようでね。気がついたらループするヌンサ空間を作り出していたのさ」

理不尽(ヌンサ)半端ねえ!?」


 俺は驚きのあまり衝動的に両足揃えて両手を斜めに上げてY字で飛び上がる。意味は無い。


「君は不思議に思わなかったかい?遠くに王都の影は見えるのになぜいつまで経っても着かないのだろうか?とね」


 言われてみれば。それに街道でたくさんのことがあった気がする。修行第二段で水にオーラーを流す念能力の修行をしたり。ロボットに乗ってパイロット適正試験を受けたり。卵を温めて孵したり。カードバトルをしたり。鼻毛と腋毛で戦ったり。

 ん?俺は重要なことに気がつく。だがループの中の出来事が記憶にあるとおりにあったのだとしたら、それは起こりえた未来の可能性を示唆するのではないだろうか?俺は大事な思い出についてわざと訪ねる。


「じゃあ、あのアリスとの街道沿いのかわらでの甘酸っぱい思いでも!?」

「うん。ループは三六二八八○回あったけど。それは確実に君の妄想だから忘れるといい」

「そんな!?」

「むしろそんなありもしない思い出という恥ずかしい発言をした君にビックリだよ」

「知りたくなかったそんな事実」

「アッシュもだいぶヌンサに侵食されてきたね」


 ゴハッ!俺は存在しない言葉の拳に殴られて宙を一回転して地べたに()(つくば)る。


「君いつもツッコミ役だから分からなかったけどボケだとオーバーアクションになるんだね。さて、それはともかくだ。一応説明するとだね。本来ループする空間はループさせている本人以外はその違和感に気づかない。なぜならループの際に時間が巻き戻り、違う未来を進むことで世界線を越えてしまうからさ。リセット、いいや違うね。ここは別世界線を進む別の同位存在たちはただ自分たちの世界線で時間軸を進んでいるだけなのだから、違和感なんてあるはずが無い。だが例外は何処にでも存在するものさ。リーディングシュタイナーをもつ私と君は途中で違和感に気づいてしまった。といってもさすが長老。毎回世界線でやることがかぶらないからアッシュもなかなか気づかなかったがね。でもさすがに私もどこぞのかわいい対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスのように約六三八年分ものエンドレスエイトを繰り返し耐えるほどの精神力は無い。ましてやどこぞの凶器のマッドサイエンティストのように最適解を導き出すまで耐えて戦い続けるなんてこともできない。イル・ソト・ヨルグゥ」


 左手を水平にかざして顔を右手で覆いながら仰け反るジュネさん。駄目だ何を言っているのかわからない。特に最後との言葉はなんだろうか?何かの造語?そのポーズはなに?


「え~と。ちょっと一回整理させてください」


 アッシュは頭の中で理解しようと言葉を噛み砕いていく。


「つまり俺らは長老の作り出した閉鎖空間?一定の時間を何度もループするヌンサ空間に閉じ込められていた。しかも毎回違うパターンで過ごしていたがためにループしている違和感がまったく無かった。だから本来であればループに違和感を覚えて。え~と。そのジュネさんが言うリーディングシュタイナー持ちの自分も繰り返される時間に閉じ込められていることに気がつけるはずが気づけなかった?」

「そう。そして気づいていた私はヌンサ空間からの脱出のために一つの策をうった。徐々に君に刺激を与えて終わらない旅路にあることを君に意識させて脱出を計ったわけだ。みごとだったぜ。『それでも守りたい明世界があるんだ!』て叫んで光り輝くハリセン握り締めて長老ごと空間を切り裂いた君の勇姿」

「うん。壮大過ぎてまったく分かりません」


 というか光り輝くハリセンってなんだ。


「まあ、それでね。脱出には成功したんだけど。ループを破るために突き破って進んだ分だけ空間を飛び越えることになってしまってね。出口の位置座標がちょうど王都の西街になってしまったのさ」

「つまりループから抜け出した弊害で街頭から王都の中に移動してしまったと?」

「あながち間違いじゃないし。詳しい説明は中々難しいからね。君の中でそう噛み砕けたのならそれでいいと思うよ。これが物語なら作者が長老のせいで中々王都に着きそうにない状況に辟易して話を進ませるためにやった可能性はあるけど。そういうのは神のみぞ知るってやつだ。ちなみにサマンサたちはちょうど王都の門で検閲を受けているところだろうね」

「大体事情は分かりました。しかしループが三六二八八○回あったって言いましたけど。思い当たることは妄想だったといわれるし、俺自身は実際のループについてはほとんど覚えてないんですよね?」


 記憶を探ってみるがヌンサ一夜八路や街道から変な動きで石柱が飛び出すのを見た記憶ぐらいしかはっきりと思い出せない?他になにかあったのだろうか?


「まあ、それはしょうがないね。数が多すぎて自己防衛のために抑制がかかってるんだよ。ただ少なくともこの世界線の出来事は覚えてると思うよ。ヌンサ一夜八路の話とかがそれさ。君はループしながら世界線を飛び続けて最終的にこの世界線に戻ってきたともいえる」

「わかりました。ちょっと他の世界線で何が起きたのか気にならないわけじゃないですけどね」


 特に別世界線のありえた未来にアリスと甘い思い出は無かったのだろうかとか。


「まあ、そうだろうね。電球を頭に出して必殺技ひらめいたり。長老とアッシュがフュージョン合体したり。愛の告白したり。壷を振ったら魔神が出たり。いろいろ封印したい記憶もあっただろうからね。でも私もアッシュがアリスと『ゼロからはじめよう』って駆け落ちしたときはさすがに驚いたなあ」

「スミマセン。ソノハナシ、クワシク、オネガイシマス。トクニサイゴ」


 逃がすまいとガッチリとジュネさんの肩をつかんだ。しかしタイムリミットだったようだ。


「アッシュもジュネもここにいたのね?」


 急に影がさして空を見上げるとほうきに乗ったサマンサさんがいた。降りてきてふわりと着地する。


「二人とも王都の門の前に着いたらいないんだもの。探したのよ」


 ぷんぷんとちょっとお怒り気味だ。


「ちょっと理不尽に巻き込まれてね。ここに飛ばされちゃったのさ」

「ヌンサが一緒だものね。そんなことだろうと思ったわ。王都の入門手続きはして置いたから」

「ありがとうございます」


 サマンサさんに礼を言う。

 それと、とサマンサさんは意味深げにウィンクをして。


「姿の見えない誰かさんにアリスからの伝言よ。『王城で待ってるから会いに来てくださいね』だそうよ。みんな心配してたのよ?アリスなんて大慌てで見つけたら無事な姿を見せに王城に連れて行くからってなだめるの大変だったんだから」


 やんちゃ下で機の悪い息子を見るような目でサマンサさんは仕方が無いなあと息をつく。

それは悪いことをしたなと思いつつ。アリスが心配してくれたことがうれしかった。慌てふためくアリスが見れなかったことも残念に思う。


「さて、お城のほうもアリスや護衛の帰還でしばらく騒がしいだろうから。私たちは今のうちにやること済ませちゃいましょう」

「やること?ですか?」

「なるほど。冒険者登録じゃな?」

「うわ。長老!?」


 いつものように音沙汰も無く長老が現れる。


「ちっ。空間ごと切り裂かれたのにやっぱり無事なのか・・・」


 ジュネさんが舌打ちする。


「ほらほら。ぼけっとしてないで行くわよ」


 箒を降りて歩くサマンサさんとジュネさんのあとに着いて行く。冒険者登録をしている二人は歩きながら冒険者について教えてくれた。

 基本AからGまで七ランクあり、こなした依頼の数や難易度でランクが上がる。まれに国や世界規模の貢献をした冒険者に与えられるものでSやSSランクもあるらしい。

小説やゲームのように掲示板にランクごとに依頼が張られていて、受付に希望する依頼を持っていって依頼の受注を行うそうだ。依頼によっては依頼未達成でのペナルティもあるので選ぶ際には依頼内容をよく読むことが大切なのだそうだ。


「ちなみにヌンサは生命力は強いけど最弱だから凡人の一万倍の努力してGランクがいいところかな。サマンサみたいに魔法が得意だったり秀でたところがあれば別だけど」

「それって最低ランクじゃないですか?大体Gランクはどの程度の実力になるんですか?」

「薬草集めが主なクエストでゴブリン一匹と相打ちがいいところかな?もともと未成年や駆け出し用のランクだしね。Eランクで一人前。Cランクでベテランってところかな。ああ、言っておくけどこの世界スライムは最弱では無くて上位モンスターだから。物理攻撃無効な上にいろんなものを溶解できる。つかまったら終わりだ。謀RPGゲームの影響で勘違いしないようにね。一説では転移者の勇者がそれで瀕死になって蘇生された後王様に、死んでしまうとは情けないぞ勇者よ、いわれたらしいね」

「絶望的じゃないですか!?俺登録する意味あるんですか?」

「・・・さあ?というのは冗談でさ。アッシュは他にはないものをもってるからね」

「なるほど。ツッコミじゃな」

「ツッコミね」

「縁起でもないからやめてくれます?」

「ほらそうこうしているうちに冒険者ギルドについたわよ」


 石造りの土台の上に建てられた三階建ての建物。正面から見て幅二十メートルほどと屋敷と呼べるくらいに大きい。一国の王都に構えるギルドだけはある。

 扉を開けるとカンカンと扉の上で音がなる。来客を教えるように木製の鳴子がドア上に付けられていた。奥に建物の横幅に近いカウンター。左右にテーブルと椅子が置かれている。前世の映画で見たアメリカの西部劇に出てくる酒場に似ていると思った。ただカウンターの奥に居るのは男女の受付担当の事務員。受付嬢に美人が多いのはお約束だが美男や渋いジェントルメンが居るのが解せぬ。

 漫画やアニメのようだ。夢にまで見た冒険者ギルドにドキドキする。長老が隣で、ヘイヘイアッシュビビってる、とささやく。別にそういうドキドキじゃねえよ、と一発叩(はた)いといた。

 一歩冒険者ギルドに足を踏み入れると屈強な戦士や流麗な女性冒険者たちの視線が一斉にアッシュに向いた。これまたお約束の新人いびりにでもあったらどうしよう、なんて冗談じみたことを思った矢先だった。


「たいへんだ!」


 一人の冒険者がギルドに駆け込んできた。その慌てふためいた様子になんだなんだと冒険者たちがざわめく。


「ときめきアットナイトがやられた」

「な、なんだって、あのAランク冒険者のときめきアットナイトが!?ときめいちまうぜ」

「あのときめきアットナイトがやられるなんて・・・ときめくな」

「くそう。他のAランク以上冒険者がみんな出払ってるってときに・・・ときめいちまう」

「くそう。なんてことだ。あまりの衝撃の事実に――」

『ときめいちまったぜ!』


 なぜかギルド内の人間全員が一斉に『ときめき』発言。


「しかしどうする。こんなにときめいたってどうにもならないぜ?」

「実質ときめきアットナイトがこの冒険者ギルドリエント王都支部のトップだ。ときめきアットナイト以上の冒険者なんて・・・まったくこの状況にときめいちまうな」


 悲痛な面持ちで誰もが下を向いた。ギルドの受付も同じだった。そんな中で空気を読まない朗らかな声が上がる。


「ふむ。まさかあのときめきアットナイトがね~」


 顎をさすりながら楽しそうに言うジュネさんに周囲の視線が集ま理事対は一変する。


「あ、あなたはSランク冒険者の『長靴を履いた猫』別名『シュトルム・ウント・ドランク(疾風怒涛)』」

「お、おい。あのSランクの『ヌンサの魔女』もいるぞ!」

「え、あの別名歩く災害『ヌンサノイド・タイフーン(ヌンサ台風)』の!?」

「普段は会いたくないし、かかわりたくも無いけど心強いぜ!思わず――」

『ときめいちまった!』


 ぷちん。

 アッシュの中で何かが切れた。


 バチン

「急展開過ぎるわ」

 バチン

「ときめきアットナイトってなんだよ」

 バチン

「つうかときめきときめきしつけえ」

 バチン

「そもそも入ってきたやつ。何があったのか早く説明しろやこら!」

 バチン


 溜まった鬱憤を晴らすようにアッシュはツッコミ続けた。ただし紳士なので女性は除く。

バチン、バチン、バチン、バチン・・・・・

 ギルド内の人間をあらかた叩き終わったあと。ふ~とやりきった顔で掻いてもいない額の汗を拭った。


「あれ?我々にはなにもないのかい?」

「あ、お二人については特にありません」


 サマンサさんとジュネさんが怖いのと二人がSランクだったのには納得していたからだ。後二つ名についても。

 頬を押さえたいかつい男たちが信じられないものを見る眼差しでアッシュを見ていた。やばいやり過ぎたかも。報復されるかも。内心ビクビクする。


「なんてツッコミだ。ときめいた」

「しびれたぜ!ときめいたぜ!」

「さすがSランク冒険者の二人が連れてきただけのことはあるわね。ときめいたわ」

「おい。彼になら任せてもいいじゃないか?」


「どうしてそうなる!?オレ、シンジン。オマエラ、センパイ」

「な~に君の実力ならドラゴンくらい倒せるさ」

「その自信どっから来るの?ねえ教えて?なに?この冒険者ギルドにはポンコツしかいないの?ワケガワカラナイヨ」


 俺が理解できないと純粋無垢な真丸お目々をしていると。


「Sランク二人の推薦で彼にAランクを」

「ジュネさんんんんんんん」


 びしっと親指でアッシュを指しながら受付に冒険者登録をジュネさんが依頼した。


「わしもわしも」

「この老害にじじいランクを」

「わ~いやった~」


「Jランク?」

「ああ。年齢の関係で戦力外通告されたにもかかわらず、引退に頷いてくれない老人冒険者に与えられるランクね。でも何気に緊急時には戦力になるからバカにできないのよね」


「ともかく安心しなさい。わたしとジュネも着いていくから大丈夫よ」


 ほっと胸をなでおろした。


「その必要は無い」


 冒険者ギルド内に渋い男性の声が響き渡った。




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