1-010.襲撃
ワーイε=ヾ(*・∀・)/祝第1章10話目
まだまだ続きます(`・ω・´)
え?襲撃って盗賊?
混乱しつつも頭の中を整理してみる。俺がいるのは馬車の左側。これは馬車で船ではないけれども騎士は右舷といっていた。つまり馬車を挟んだ反対側から襲われたわけだ。大丈夫。落ち着け。まだ焦る必要はない。深呼吸するといまさらながら馬車の向こう側から金属音と怒号が聞こえてきた。
「敵十三。左に三人残して右舷に集中しろ」
俺の周囲にいた騎士が三名を残して馬車の右側に向かってく。
「大丈夫です。アッシュ殿。襲撃者の方が数は少ない。すぐ片付きますよ」
「備えとして二騎をそれぞれ別方向に走らせました」
「何気にふざけていた長老が襲撃者を発見したので初動の被害もでていません」
残った三名の内二人が俺を安心させようと話しかけてくれた。どうやら騎兵も走らせて救援要請も出したらしい。さすが軍人違うなあ、と感心する。というか長老が発見したのか。役にたったのならいいけれど。逆に役に立ったせいで騎士さんたちが悔しそうだ。長老にドヤ顔されて恩を着せられることを考えると俺も嫌だ。
馬車を挟んで聞こえてくる怒号からもこちらが優勢なのが分かる。確かに十三人の襲撃者に訓練を積んだ騎士が十五人あたっているのなら安心だ。
本当に?前世で読んだ小説だと意外と盗賊に頭のいいやつがいて策を講じる場合がある。アリスの馬車は両側に扉が備え付けられたタイプ。街の中では走行側が決まっている。ただ国ごとで左側か右側か違うらしい。イベントごとで他国にも行く必要のあるアリスはそれが理由で両用タイプにしている。ちなみにイギリスでも馬車の時代には左側通行規制があったそうで、自動車が発明されてからは馬車と自動車混合の時代を経て、自動車だけになった今でもその通行規制が引き継がれて車は左側通行なんだそうだ。と出発のときジュネさんが知識をひけらかすついでに説明してくれたのを覚えている。
考えろ。例えばあちらは陽動でこちら側が手薄になったところを襲撃しようとしていたなら。
離れた茂みの中に目を凝らす。例え魚眼といえどもヌンサは水陸両用。何より生まれて一ヶ月ちょいの俺は視力がかなり良い。遠くまで見渡せる。茂みの中に光が見えた。俺は反射的に騎士の一人に体当たりする。さすが訓練しているだけのことはある。よろけつつもすぐに騎士は体勢を持ち直した。
耳に聞こえた風きり音。馬車に刺さった矢を目にして騎士たちが抜いていた剣を構えた。臨戦態勢に入った騎士を横目に俺も立ち上がる。
ピーーーー。一人が笛を吹いた。
「左舷敵襲!」
茂みから七人の敵が現れる。ちくしょう最悪だ。役に立たない俺を含めても一人あたり二人以上を相手にしなければならない。数で負けていた。こんなとき盾にできる長老がいれば。考えても仕方が無い。騎士さんたちが前に出て俺を下がらせる。死ぬ確率が高いと分かった上で俺を守ろうとしてくれている。この人たちいい人過ぎるだろ。でもそれだと駄目なんだ。一人で三人相手にしなきゃいけない人が出る。
数回打ち合い互いに相手の実力を確認。間を空けてにらみ合う。右舷の戦いを考えれば相手だって最短でことを済ませたいはず。出方を窺うこの均衡が崩れた瞬間が勝負になるだろう。俺はヌンサ(理不尽)だ。心が死ななきゃ死にはしない。だから俺は覚悟を決めた。
「一人二人なら持ち堪えられますか?」
「アッシュ殿は武術の経験がおありですか?」
「生まれて一ヶ月ちょいです」
「うちの娘より若いじゃないですか」
「でも転生者で前世の記憶があります。心は三十四歳です!」
「前世は有名な武芸者で?」
「サラリーマンという文官仕事ありの技術者、まあ職人でした」
「ますます駄目じゃないですか」
緊張した中でのジョークじみた会話にお互いに笑い合う。
「それでも何か策がおありなのでしょう」
「やれて時間稼ぎといったところです」
「ご謙遜を。今もっとも必要なのはそれでしょうに・・・・・お任せしてもよろしいですか」
「お互い生き残りましょう」
頷くと同時に前に出る。とっさのことに警戒した襲撃者が一歩下がる。俺の中の盗賊のイメージってもっと粗野なイメージなんだよな。こいつら行儀がよすぎる。盗賊じゃないのかもしれない。まあいい。考えるのは後だ。
俺は半身になって指を軽く曲げる。両腕を肩と足の付け根より上へ持っていく。左腕は地面四十五度の角度で右腕を平行に。右を少し出した半身に。ちょっと軽く跳ねて右腕を左右に降り始めた。襲撃者たちには俺の行動が奇妙に見えることだろう。素手でピョンピョン跳ねているだけにしか見えないのだから。でもこれは前世の知識から選んだ立派な格闘術。
フリッカー・ジャブ。ボクシングにあるジャブ技の一つ。腕の長さを利用して鞭のようにしならせて拳を打ち込む。全身の捻りをバネに加えたりするとさらに威力が上昇する技だ。恐ろしいことにうまく顎を打ち抜けると脳震盪で相手を一発KOも出来る。俺は前世にいたときずっと思っていた。フリッカー・ジャブはツッコミの究極系に違いない。つまりフリッカー・ジャブ=ツッコミなのだ。俺がこの世界に来て唯一持ちえた満足な武器は認めたくないがツッコミだった。今の俺にはこれしかない。これだけはやつらに一矢報いることができる。
様子見で前へと出た相手方に合わせて俺はカウンターを入れる。避けるなんて器用なまねは俺にはできにない。さっくりと剣先が俺の表皮?鱗肌を切り裂いていった。でも俺の拳は相手の顎を貫いた。痛みを堪えて身を引くのを忘れない。目の前で眼球がくるりと裏返り相手が倒れた。周囲に動揺が走る。
「なんだ。このヌンサ特殊固体か」
「聞いてないぞ」
「おちつけ。人数差の優位は変わらない。これ以上時間をかけるな。二人以上でかかれ!」
くそっ。せっかく広がった動揺が指揮官の一言で覆った。二人飛び出してくる。俺の技は一対一用。引くしかない。俺の引きにあわせてこちらも一人出る。俺も合わせて前へ出ると一人引いてさらに二人出てくる。三対二。思った以上に俺は警戒されたらしい。
相手方の捨て身の一撃に騎士が一人足をやられてその隙を突いて剣で刺される。
「アレックス!」
え?あの人そんな名前だったの?血を吐きながら油断した敵に剣を刺し返す。あの状況から相打ちに持ち込んだ騎士アレックスに心の中で敬礼する。
「ゼッタ。ダウブルゼッタ。俺の家族を頼む」
もう助からないと悟った騎士アレックスは捨て身の特攻をかける。防御を捨てた手負いの虎は強い。でも一人を手負いにするのが精一杯だった。アレックスが敵中で崩れ落ちる。俺は急に現実に引き戻される。ついさっきまで笑いあっていた人間があっさりと死んだ。周りを見れば敵も味方も血を流し。血の臭いが立ち込めている。生々しい傷跡に吐き気が襲ってくる。
「危ない!」
足の止まってしまった俺をかばって騎士ダウブルゼッタが切られる。俺はヌンサ(理不尽)だ。心が顕在なら死なない。最初の傷だってもう治った。でもこの人は俺をかばってくれた。ばかやろう。何足を止めてるんだ。捨て身は俺のやることだろうが。俺は捨て身の一撃で一人を倒す。ヒットアンドウェイ。ダウブルゼッタの側に身を引く。
「大丈夫ですか」
「なに。傷は浅いです。闘士ダウブルゼッタは頑丈さだけが取り柄ですよ」
笑いながら立ち上がる。思いのほか元気そうだ。たださっきよりも動きが鈍い。向こうを見れば騎士ゼッタさんが二対一で善戦していた。そしてそこで重大なミスに気がつく。馬車から離れすぎた。俺たちとゼッタの間を敵二人が駆ける。
くそっ!考えろ。考えろ。唱えながら俺は走り出す。俺のほうが馬車の前に着くのが早い。でもその先が。いい考えが浮かばない。バカだなあ。物語の英雄のようになんて何を望む?自分の身の程くらいは知っているだろうが。俺は戦う力も持たない最弱のヌンサで。この場をうまく切り抜けられる力なんて持ち合わせちゃいないってさ。
でもさ。それでも。そんな俺でも心の奥のほうには譲りたくないものがあるらしい。
心が折れてヌンサが死ぬのなら。譲ってしまったほうが死んでしまうじゃないか。さっきだってそうだったろう?ヌンサ(理不尽)が盾にならなくどうする。この体でも扉を塞ぐぐらいはできる。
俺は馬車の扉の前にがっちりと張り付く。
体に異物が突き刺さる感触。剣で突き刺される感触も斧で切られる感触も前世じゃ経験することも無かった。
痛いなあ。痛みが俺に意識を手放して楽になれっていう。
ふざけるな。意識を手放すんじゃねえ。でも体はいうことを聞いてくれないらしい。腕が力をなくし。視界から自分が倒れていくのが分かった。
守るのって案外難しいよな。ごめんアリス。俺は君を守ることもできないらしい。
そんな時風が俺の耳に声を運んできた。
「やるじゃないか。君焼魚にしたらきっとうまいぜ」
この口調。声を知っている。
深緑のマントをはためかせ。現れた小さな背中にほっとした。黒いノーブルハットの白い羽根が揺れている。
「私の名はテンペスト・フォン・ジュネ。長靴を履いた猫さ」
颯爽と現れた長靴を履いた猫の騎士は一瞬で間合いをつめる。
「私の剣技の売りは鋭い突きでね。その貫通力は――」
向けられた切っ先を防ごうと敵が斧を盾にする。しかし突きは斧を貫きその先へ。
「――斧をも貫き通す」
敵の眉間を貫いた。
「知ってるかい?長靴を履いた猫は最強なんだぜ」
襲撃者たちの顔が絶望の色で染まったのを見て俺は安心して意識を手放した。
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「やあアッシュ。目を覚ましたかい」
「夢じゃなかったんですね」
視界を埋め尽くした猫に聞き返す。
「なんだい。その言い草は。せっかく助けにきてあげたっていうのにさ」
「すみません」
「私と君の仲だ。聞き流せ。謝る必要なんてないさ」
「ありがとうございます」
ジュネさんはやれやれとため息をついた。
「君たちが出発した後タイヤキくんとサマンサが現れてね。アリスが狙われていると教えてくれたんだ。間に合ってよかったよ」
その言葉に慌てて身を起こす。
「アリスたちは?」
「アリスは君が体を呈して時間稼ぎをしてくれたおかげで無事だ。騎士たちも二人重傷者が出たが残りは軽傷。死傷者零と奇跡的な結果だ」
示されて横を見ると横たわるアレックスさんと壁に寄りかかるダウブルゼッタさんの姿があった。俺が勝手に死んだと思っていただけでアレックスさんは生きていたようだ。ダウブルゼッタさんがこちらの視線に気づいて手を振ってくれる。よかった。安心してから気づく。ここはどこだろうか?周囲には荷物が置かれている。天井は布張りだ。
「ここは商隊の馬車の中だ。けが人がいたのでね。道中で見つけた商隊に頼んで乗せてもらったんだ。いまは近くの村に向かっている。そこで重傷者二人を下ろしたら、我々は次の町へと向かう予定だ」
「我々ということはジュネさんも一緒に来てくれるんですか?」
「王族襲撃の緊急事態だ。減った護衛の分をサマンサと私で埋める。ヌンサだから心配はしていないがそっちは動けるかい?この商隊は次の村止まりだ。そこからは再び歩きになる」
立ち上がって軽く体を動かしてみる。シュッシュとなんちゃってシャドーボクシング。うん。問題ない。
「問題ないです」
「なぜシャドーボクシング?」
「ただの気分です」
「そうかい。やっぱり君もヌンサなんだな。外に出よう」
気になる一言があったが従って外に出る。ゆっくりとはいえ動く馬車から飛び降りるのは怖かったがヌンサなので気にしない。まさか着地に失敗して転がって次の馬車馬に引かれかけて全力で転がって街道脇に逃げることになるとは思わなかった。ジュネさんから、君はバカかい、といわれたけど否定できない。道の脇でジュネさんが空を示す。
「サマンサには空からあたりを警戒してもらっている」
見上げると箒に乗ったサマンサさんが手を振っていたので手を振り返す。さあ行こう、と促されてジュネさんと歩き出す。
「君が気を失ってから一時間ほどしか立っていない。商隊との合流。遺体の片付けとあって出発再開も遅かった。予定よりも遅れている。少し急ぎ足になる必要がある」
「なるほど」
「そして君の気持ちも分かっているつもりだ。王都までの道程で修行ができるように修行用の道具を用意してきた」
「え?いや修行とかいらないです」
「修行用の道具を用意してきた!」
言いなおした!これはあれだ。俺の意思とか関係ないんだ。たぶん王都に着くまでのジュネさんの暇つぶしに付き合えってことなのだろう。
「わ・・・・・わかりました」
うんうんと満足そうにジュネさんが頷く。
「ちなみになにを用意したんですか?」
「十キログラムの亀の甲羅だ。猫と描いた石も用意したが道を外れてはどうしようもない。今回これは保留だ」
どこから出したのか分からないがいつの間にかジュネさんの右手に背負いひも付きの碧の亀の甲羅があった。左手には猫と描いた手に収まるサイズの石もある。
「そ、それジュネさん分かってやってますよね。願いをかなえてくれる竜を呼び出す七つ玉を集める漫画のパクリですよね」
「うるさい。やってみたかったんだよ。大体私の世代は女性のオタクは肩身が狭くて大変だったんだ。年取ってからBLに目覚める羽目になったし。もっと若いころに出会いたかった」
「ジュネさん前世でオタクだったんですか・・・・・」
ここにきてジュネさんが壊れてきた。何かあったのだろうか?俺の世代はまだ女性のお宅には寛容だったからな。ジュネさんは昭和年代のオタクということだろうか?
「ちなみに周りに拡散したら殺すからな」
「い、いいませんよ」
やばい。この目は本気だ。
「しかし回りに腐女子候補(同士)を見つけた場合に伝えなかったときも殺す」
「どうしろって言うんですか!」
理不尽。ジュネさん理不尽すぎるよ。
「大丈夫。鍛えてやるのは本当さ。街や村でも鍛えられるように手に収まるサイズの口をした瓶も用意した。酒はなくとも酔拳はできる」
「ジュネさんは俺を一体どこに向かわせたいんですか!」
「かわいいお姫様を命がけで守るとかなんだよそれ。かわいいアリスが泣き喚いて心配するわ。ムカつくんだよ!」
「ここにきて本音出てきた!」
「アッシュのこと聞くと顔真っ赤にして脈有なのがさらにムカつくんだよ」
「え?そうなの?」
「お前も顔真っ赤にしてるんじゃねえ!こちとら前世も今世も独り身じゃあ!」
「完全にジュネさんの私情入ってるじゃないですか!」
「うるせえ!だらしなく口の端ゆがめて説得力ねえんだよ。嬉し恥ずかしとか思春期か。君。三十代童○で死んで転生したくせに何中学生みたいな反応してんだよ!このロリコンが!」
うそ、とジュネさんの指摘に思わず口を塞ぐ。手で触ると確かに口が笑っていた。ち、違う。俺はロリコンじゃないんだ。
「ジュネ。いい加減落ち着きなさい」
やった。収拾つかなくて困っているところにサマンサさんの助け舟が来る。
「アッシュの恋を応援するっていったじゃないの」
「ひっく。だって。ひっく。私今でも独り身・・・・・」
ジュネさんが泣き出した。なんだこのカオスな状況は!?
「あ~私はダーリンがいるけれど。ジュネは相手がいないものね。いい機会だから王都に行ったらいい男探しましょ」
「うん。探す・・・・・」
とりあえず落ち着いてくれたようだ。助かった。
「ああ。商隊とだいぶ離れてしまったわ。アッシュ。急いで追いつくわよ」
サマンサさんはジュネさんを抱っこして箒で飛んで行ってしまった。
手にはジュネさん特性の十キログラムの亀の甲羅がある。え?結局これ背負って走るの?
は~。これ。ジュネさんの私物だししかたがないか。俺は十キログラムもある重たい亀の甲羅を背負って走り始めた。
次回はあの人気キャラサマンサさん視点の話です。




