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1-009.旅路

 今朝表に出た俺は玄関に吊るされた長老発見した。同時に叫んだツッコミで周囲に人が集まってしまったせいで放置もできず。長老を助けることになってしまった。くさい。しかもなぜか長老は異臭を放っていて騎士たちは誰も手伝ってはくれなかった。俺は一人で臭いを我慢しながら長老を棒で突っついて服の引っかかりをはずした。


 どさりと長老が落ちると同時に運悪く玄関が開いた。

外に出てきたアリス。目の前には息絶え絶えでぼろぼろの長老。そして傍観していた騎士たちは長老を囲むようになっていた。なんていうタイミングの悪さだ。


「あ、あ・・・・・」


 声にならないうめき声が聞こえる。アリスの目には騎士たちが長老を拷問したようにしかみえないはずだ。屋根の上にいる俺にはアリスの姿は見えない。でも声だけで分かる。震え怯えるアリスの姿が目に浮かぶ。明らかに騎士たちは怯える姫の姿に、違うんです、誤解です、と言い訳を口にしながら徐々に包囲網を縮めるものだから、姫が後ずさる姿も目に浮かぶ。


「こ、こないで~~~~~!」


 姫の叫び声にショックを受けた騎士たちが地面に膝を突いてうな垂れた。中にはショックのあまり気絶して倒れたものまでいた。心の傷は深いらしく立ち上がるものが一人もいない。


「アリスは人気のある末姫だからね~。ロリコン騎士に孫や娘のように思ってる爺騎士や親父騎士と本気で忠誠を誓っているのも多いから拒絶されて一際ショックが大きいだろうね」


 後ろを振り返ると予想通りジュネさんが立っていた。颯爽と風にマントをなびかせる姿がかっこいい。ただ壁沿いに吹き上がる長老の臭いをさえぎるために口には布が巻かれて顔が泥棒みたいだった。


 その後降りた俺とジュネさんに事情を聞いたアリスがやっと恐慌状態から復活。復活と同時に長老の異臭をやっと知覚。うぷっ。ゲロゲロゲロゲと吐いた。

 多くの人の目の前で恥を晒したアリスはそのまま部屋に戻り布団に閉じこもってしまった。

 ジュネさんと侍女長の説得もあって出てきたころには昼を回っていた。


 そしてそのすべての原因となった異臭がきつい老害(長老)は多数決全票一致で下水道に捨てられることになったのだがこれが悪かった。復活後に戻ってきて出発準備中の馬車の前で駄々をこねてアリスにすがりつき、長老も王都まで付いてくることになった。はじめは俺と騎士たちで反対したのだが下水道に捨ててきたことを前面に出されてしまい。アリスには叱られるし、朝から散々な目にあった。


朝からいろいろあったけど。やっと出発か。

 出発を前に馬車にアリスと侍女長が乗り込む。彼女はアリス付きの侍女長でイサヨイ・ナーブルさんというらしい。見た目的に二十台に見えるがほかの種族との混血で実際はもっといっているらしい。本当の年齢はアリスも知らないらしい。


「アッシュ様も一緒にどうですか」


 馬車から顔を出したアリスに誘われて乗ろうとする。気分よく扉ふちを掴んむとその手をナーブルさんに叩かれた。気のせいだろうと思い。再び手をかける。叩かれた。気のせいじゃない。とてもショックだ。アリスも何で?といった視線をナーブルさんに向ける。


「アリスティ様残念ながらアッシュ様は乗せられません」

「なぜですか?」


 ナーブルさんは俺に鋭い視線を向けていう。


「馬車の中で生魚が隣に座って気分がいい人がいますか?」


 最もな意見だった。ぐうの音も出ない。俺だって車の座席隣に生魚が置かれていたら嫌だ。


「ならわしが」


 これまた乗り込もうとした長老をナーブルさんが叩き落とす。


「ふ、あのときの子猫ちゃんがずいぶんと気が強くなったもんだぜ」

「・・・もう。あのときの私ではないんですよ」


 顔を赤らめて言うナーブルさん。え?なにこれ?二人は知り合いなの?


「お二人は知り合いなんですか?」

「いえ違い「わしの娘じゃ」」


 一瞬だ空気が張りつめ、ピシリと空間にヒビが入る音が聞こえた気がした。


「嘘じゃ」


 張り詰めた空気が緩んだ。


「言いことと悪いことがあるだろうが!」


 俺は迷わず長老をぶん殴った。

そうだよな。嘘だよな。話題の当人であるナーブルさんも長老の言葉が予想外だったらしくさっき停止していた。俺のツッコミで硬直が解けたくらいだ。

 のびている長老を余所にナーブルさんがため息をつきつつも口を開く。


「その。なんといいますか。長老とは子供のときから面識がありまして・・・・・・」


 ああなるほど。その言葉で俺は理解する。これは所謂あれだ。盆と正月に実家に帰ったら親戚のおじさんおばさんに小さいころのことをからかわれる様なものなんだ。小さいころって何も知らない分いろんな黒歴史を親類には見られちゃうからな。長老に小さいころを知られている=弱みを握られているということなのだろう。


「私も小さいころは無知といいますか。無邪気といいますか。何も知らないものですから」

「『ヌンサさんのお鬚大好き』といってくれたナーブルはもういないんじゃな」

「だからあれは私が小さかったころの話で――」


 復活した長老に抗議する姿は親戚のおじさんおばさんに食って掛かる子供のようだった。どうやら子供のころに長老になついていた時期があったらしい。なるほど。黒歴史だ。


「ナーブルのあんな姿初めて見ました」


 うれしそうに笑うアリス。身近な人の知らない一面を知れるのはうれしいものだからな。普段釣り目で上がっている目じりが下がった顔がかわいかった。


 ごほん。咳でナーブルが一区切りを入れる。


「ともかく。長老も馬車には乗せられません」

「鬚を触らせてやるといっても駄目かの」

「え?・・・・・ごほん・・・駄目なものは駄目です」



 あれ?いまナーブルさん鬚に反応しなかった?鬚フェチなのだろうか?まあ、人の趣味をとやかくいうものじゃない。見なかったことにしよう。長老がこれ見よがしに慮手で握った鬚を持ち上げて挑発している。右へ左へ。ナーブルさんもつられて左右に揺れる。しかし何とか誘惑に勝ってそっぽを向く。


「ふむ。成長したの。まあ、わしの鬚ならこんなもんじゃろ。じゃが。これならどうかの?」


 長老が目の上の眉毛をこする。途端に眉毛の色が青くなった。


「そ、その伝説の青い鬚はめそ・・・・・げふんげふん!」

「そうこれはめ・・・げふんげふん!いや、なんでもないんじゃ。忘れてくれ・・・・・」

「そう・・・そうですね。ともかく長老は馬車に乗せられません」

「う、うむ。わかった」


 バ、バカな!あの長老があっさり引いただと!わざとらしい咳といい。会話に会ったワードが気になる。


「めそ・・・か」


 突如長老とナーブルさんが慌てた顔で俺に振り向き、長老に両肩をがっしりと掴まれた。


「どこで知った。いや、アッシュ。お主は知っているのか?」

「そうです。アッシュ様は知っているんですか?」

「え?いや知りませんけど?」

「ならもう二度と口にしてはいかん」


 長老の言葉に風切り音が聞こえるほど上下にナーブルさんが首を振る。どうやらかなりやばいものらしい。分かりました、と返事をすると開放された。とりあえず馬車の件もついたし、二人の間で折り合いがついたのならそれでいいかな?めそについては忘れることにしよう。


 ナーブルさんも馬車に乗り込み準備完了。俺は道中のアリスの話し相手として馬車の横を歩く許可を貰った。馬車に並んで歩く。馬の速度はゆっくりとはいえ、中々早歩きが必要だ。護衛騎士は二十人。内六人が騎兵で一人が御者。残りが俺と同じ歩きになる。

テンペストの街門を潜ったところでアリスが馬車の窓を開けて身を乗り出す。遠ざかる待ち門へと向かって手を振った。俺も振り返る。街を囲む街壁の上にマントをたなびかせる小柄な人影。ジュネさんだ。俺も手を振ると脱いだノーブルハットを使いこちらにも分かるように手を振り替えしてくれた。


「ようやく町をでましたね」

「そうですね。街を出て始めて出発した気になります」

「出発進行ナスのおしんこ~ですね」


 姫の発した言葉にギョッと驚く。それはた前世のアニメの言葉だ。あのアニメのキャラもこの世界にきていたのかな?そんなわけないか。きっと前世と同じ世界の人が着ていったのかもしれない。


「どこでそんな言葉を覚えたんですか?」

「え~と。転移者の勇者の伝記に書いてあった言葉です。何でも聖戦へ向かう際に発した言葉だそうです。しかもその勇者の話はすごく子供に人気があるんです。何でだと思います?」

「勇者が五歳児で年齢が近い子供だからとか?」


 冗談で言うと当たりだったらしい。驚いたアリスの顔がかわいい。


「ご存知だったんですか?」


 マジカ!まさかの本人かよ。


「読んだことは無いです。なんとなく思いつきで言っただけなんですが。当たっていたとは驚きですね。はははは・・・」


 笑って誤魔化す。前世のアニメや漫画、小説の物語。これらはもしかしたら異世界という形で実際にあるのかもしれない。そしてこの世界にぐうぜん転移もしくは転生しているキャラがいるのかもしれない。よくよく考えればサマンサさんもそうだった。ジュネさんなんてヨーロッパの童話から自分で長靴を履いた猫なんていっていたし。もしかしたらいつか日本昔話の桃太郎や金太郎なんかと会うようなこともあるかも。と苦笑した。


「しかしいろんな勇者がいるんですね」

「はい。勇者は特に転生者や転移者が多いです。もしかしたらアッシュ様も勇者なのかもしれませんね」

「俺はただのヌンサですよ」


 笑って流す。勇者なんて大変そうなもの願い下げだ。なるのなら。そうだな。前世の俺が訴える。賢者がいいと。誰かを導き育て、未来への礎の一旦を担う。そんな人でいたい。ヌンサの俺も賛同する。結局生まれ変わっても俺は俺なのだろうね。


「そういえば勇者だとどんなのがいるんですかね」

「そうですね~。ほかに印象的なかただと。ピンク色の・・・その・・・・・汚物を木の枝にさして戦った女性勇者がいたりしますね。いろんな争いを引っ掻き回しては最期には戦争なんて馬鹿馬鹿しいと笑い話に変えていったそうです。ただなんでもこの星を何度か割ってしまい。最期には強制送還されたそうです。他には・・・・・」

「俺が悪かったです。それ以上は言わなくていいです」


 これ以上話してはいけないと前世の記憶が警報を鳴らしている。きっとこのままだとNGワード的なものが出るのかもしれない。青色の雪だるまに似たロボットとか。黒と白の赤い蝶ネクタイを結んだネズミとか。前世の記憶が確かなら著作権という理に引っかかりるらしい。しかも森羅万象の執行者または断罪者とかいう赤い両手に剣を持った弓兵や吸血鬼の真祖に命を狙われるらしい。くわばらくわばら。

 しかし話題が途切れてしまったな。次は何を話そうか?そうだ。いい機会だし。この世界の事を聞いてみよう。例えばリエント王国のことや近隣諸国のことを。


「この国は平穏ですね。まあヌンサの村とテンペストの街しかまだ見たことないですけど」

「そうですね。リエント王国周辺は北に海。西に樹魔地(ジュマージ)。東はプルーセン王国。南には広大な砂漠のアラビアンナイト連邦国となっています」

「隣接国は二カ国ということですか?」

「はいそうです」

「どんな国なんですか?」

「プルーセンは別名傭兵王国と呼ばれています」

「傭兵ですか?」


 この世界でも戦争が。どうしても前世の記憶から傭兵と戦争が結びついてしまう。


「この国が平和でも他国がそうだとは限りません。種族や宗教観、様々な理由で争いは起きますから。人族に関しては同じ人の人種だけでも争いがあるくらいですしね」


 前の世界は人間の人種しかいなかったけど。争いが多かった。目、髪、肌の色だけの違いだけでも争いが起きた。この世界は人種に扱われる人類だけで人と獣人、魔人の三人種。他にヌンサや森人の亜人種がいて各種の固体数は少ないが種族の数が多い。半漁人でもヌンサ以外にセイレーン、ローレライ、ダゴン、ギルマンと細かくいるらしい。会ったことないけど。前世の世界よりも争いは多いのかもしれない。


「プルーセンは傭兵を派遣する国なんです。国民すべてが傭兵で中でも上位に位置する円卓の傭兵は英雄、勇者クラスの力を持つといわれています」

「円卓とはなんですか?」

「それはプルーセン王国の成り立ちに関わる話なのですが、かつてこことプルーセンが樹魔地だったとき、災害級の魔物が現れて三ヵ国が滅亡しました。それをプルーセン王の祖先が仲間を集め倒して建国されたのがプルーセン王国になります。そのときの仲間集めに使われたのが円卓だといわれています。円卓には強者のみが座ることができ、資格がないと椅子から弾き飛ばされるそうです」


 まるで前世の世界で読んだアーサー王物語の円卓の騎士のようだ。


「まさかプルーセン国王は聖剣を持っていたりしませんよね」

「よくご存知ですね。国王は代々イクスカリバーという白金の聖剣の所有者がなります」


 騎士が傭兵に代わっただけでそのままじゃないか・・・・・。三流のパチモノをつかまされた気分になる。それに騎士道のある騎士と傭兵じゃ天と地の差がある。


「傭兵は荒れくれ者のイメージですけど。危険は無いんですか?」


 俺の疑問にアリスが左右に首を振って全否定する。


「プルーセンは建国王の方針のもと弱者を助けるために戦う国です。圧制のしかれている国に対しては例えいくらお金を積まれようともレジスタンス側につきます。国の騎士には賄賂に負けるものもいることから、プルーセンの傭兵は騎士よりも騎士らしい、と吟遊詩人に歌われるほどです。しかしそのおかげで国は常に質素な生活をせざるを得ないようです。いくら他国を助けようとも他国は他国。利なくして助けはありません。傭兵として褒賞も貰っていますし、彼らが去るときはいつも騒乱のあとで、余力のない国からはそれ以上は求められない。彼ら自身もプルーセンの矜持があるため他国に助けを求めない頑固なところがあり困っています」


 思っていたよりもまともな国だった。というか最期はアリスの愚痴に聞こえた。なにかあったのかもしれない。話題を変えよう。


「ありがとうございます。プルーセンのことは分かりました。次はアラビアンナイト連邦国のことを教えてもらってもいいですか?」

「南の国は国土の九割が砂漠に覆われた国です。人々の集まるオアシスごとに形成される都市国家が集まってできた国です。連邦国代表と各都市国家の代表によって統治されています」

「九割が砂漠ですか。自給自足はだいじょうぶなんですか?」

「過去にニャポン国から来た勇者与作により牛蒡、西瓜、サボテンダーなどの砂漠で育つ植物が広められ、自給自足は問題ないです。植物以外にも、サソリって海老みたいでおいしいよね、のもと食用サソリの養殖が盛んです。中でもV字がたの頭部をした忍術を使い養殖もできないフォッフォッフォッフォと泣き声を上げるサソリは捕獲が難しいため珍味として有名です」


 珍味のサソリの説明に前世の記憶が、それバ○タン星人やん!あれ?でもあれはサソリじゃなくて(せみ)だったはず・・・・・、とツッコミと困惑の声を上げたがこれ以上は思い出さないほうがいいみたいだ。


「その国も攻めてくることは無いんですよね」

「はい。連邦は自治権を持ち各都市国家同士での政治的な駆け引きもあります」

「うかつに手を出すと内輪もめがあるわけですね」

「はい。それにリエント王国は樹魔地との緩衝材ですからね。なくなるとあちらとしても困ることになります」

「さっきも言っていましたが樹魔地(ジュマージ)でなんですか?」

「神と魔の住む場所といわれている場所です。強い魔物が多く生存競争激しい場所だそうで一度入ったら生きては帰れないといわれています。といっても結界が張られていて資格が無いものは出入りすることもできないのですがね。困ったことに魔物がこっちに来てしまうので討伐が必要なんです。強いから被害も大きいです。過去には災害級の魔物も出てきて滅亡した国もあります。魔物退治の手間などからも樹魔地に隣接していない国は隣接国を緩衝材として使用するために手を出すことはありません」

「でも強い魔物が国に来てしまうんですよね。大変じゃないですか!」


 アリスがくすくすと笑った。何かおかしなことを言っただろうか?


「うちはそうでもないんですよ。アッシュ様は知らないようですが。ヌンサとエルフの住処は樹魔地の隣にあります。二種族が樹魔地の管理をしていただいているおかげで我が国は平和なのです」

「でもヌンサって弱いですよ?」

「はい。でもヌンサ郷のように一部強いヌンサさんもいます。なによりもともとヌンサは樹魔地に住んでいた種族です。樹魔地は開拓に成功すると神々に認められた証として開拓地の結界が無くなります。私たちの祖先はヌンサさんたちに助けられたとき、ヌンサさんたちと一緒に樹魔地を開拓しました。リエント王国は元樹魔地なんですよ」


 なんか。この国でヌンサが優遇されている理由が分かったような気がした。酷い言い方かもしれないけど何気にこの国にヌンサは必要なんだ。


「ちなみにエルフはその後移住の見返りとして樹魔地付近の管理を引き受けています」


 生まれてまだ一ヶ月ちょっとの俺はたくさんのことを知らない。なまじ前世の知識があるものだから前世との違いに目から鱗が落ちてばかりだった。もっといろんなことを聞きたい。もっとアリスと話したかった。次は何を聞こうか?そう思ったとき。


 ピーーーーーーーーーー


 甲高い笛の音が辺りになり響いた。ナーブルさんが急いでアリスを馬車の中に引き込んで窓を閉める。


「敵襲!右舷敵襲ーーーーーっ!」


 平和だと思った世界に襲撃を知らせる声が聞こえた。


 これでアリスもゲロを吐いたヒロイン。略してゲロインだ。ρ(・ω・´)

 立派なゲロインに育つんだぞ。大丈夫。人は生まれながらにして吐く生き物だ。吐いたことを恥ずかしがる必要はない。


 次回『襲撃』アッシュが男を見せますo(・ω・´o)


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