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1-005.そして、だれもいなくなった。

そして、だれもいなくなった。は結構前から考えていた話になります。

仕事中に思いついて噴出して恥ずかしい思いをしました。

仕事中に余計なこと考えるのはいけないという教訓なのかもしれません。

『うおおおおおおおお――――』


 けたたましい声を上げながらヌンサ二人で街道を走っていた。

 側面をぴったりと張り合わせて押し合って争うように走る二匹。力の拮抗が崩れては戻るのを繰り返すものだから右へ左へふらふらと足跡は波打つ軌跡を描いていた。


「わしが!わしがガ○ダムなんじゃ~!」

「な、なんくるなぃさ~!」


 ときたまナゾの言葉を叫ぶ長老に俺も思いつくまま前世の言葉を叫び返す。


 はっきり言って何これ?

 白い猫か犬か分からない魔法少女マスコット生物の言葉を借りるなら、わけがわからないよ、の一言に尽きる奇妙な状況。青い猫型ロボットも珍妙奇天烈摩訶不思議(ちんみょうきてれつまかふしぎ)と歌ってしまうくらいだ。こんな奇想天外(きそうてんがい)行動は四捨五入で割り切って分かりやすいものにできたらいいな♪流れ星にお願いの希望的天体観測までしてしまうね。

 そもそも追いかけてきた長老が、街まで競走じゃ!てフライングダッシュしたのが悪いんだ。俺まで意地になって、長老には絶対負けねえ、て走り出しちまった。

 いまじゃ意地とプライドだけで奇妙行動やってでも走っている。

 無ければとっくに瓦解していたね。崩れ去ってたね。虎じゃないけどバターになってたね。タネ~ダネ~フシギダネ~。


 やばいだいぶハイになってる・・・・・

 酸素も足りない。


「いまこそ必殺のエラ呼吸」

「だから空気中じゃできねえぇってツッコミさせんなって人おおおおおおおお」


 道の先に人影。長老のせいで気づくのに遅れた。くそお。魚は急に止まれないんだよ。マグロやサメなら窒息だ。



「いかん!わしはまた罪を犯すというのか・・・・・いいやあの時とは違う!トランザム!」


 長老が青く輝く粒子をまとう。


「走れ。メロスのように」


 長老が加速した!?青い粒子が尾を引いて軌跡を描く。それはまるで流星。長老は青き流星になった。あまりの速さに残像まで見える。

 押し合いをしていた長老が消えたことで力の矛先を失った俺は体勢を崩す。ズザザザザ~と見事なヘッドスライディングをして止まることに成功した。


「いててて・・・・・」


 痛みを堪えながら素直煙の中起き上がる。

そういえば長老はどうなった?

 見ればぶつかる1メートル前で長老が右にシフトした。

よかった。まにあったらしい・・・・・ん?

 シフトして確かに長老は避けた。だがその軌跡をなぞる残像はまっすぐ走っていき―――見事に道ばたの人に突撃。。


 ぶつかった人を突き飛ばして霧散した。


「えええええええええええええええええ!」


 後ろに大きく突き飛ばされた人は背中に背負った荷物のおかげで地面とこすれることは無かった。ただ荷物を背にして天を仰いだたまま、水きり石のように二回地面をバウンド。かなりの衝撃を体に受けながら地面に横たわることになった。


「ふ。まさかS.C.P.Eが実証される日が来るとは思わなかったわい」

「S.C.P.E?」

「Scale Peel-off Effectつまりは鱗剥離効果の略称じゃ。トランザムは一時的に最大出力を開放する技じゃ。それはもうとてつもない熱エネルギーを発生させる。熱を放出せんとわしがオーバーヒートして爆発してしまうほどにの。しかしわしはそんな諸刃の剣を利用するすべを考え出した。熱を表面の鱗で拡散し放熱するんじゃ。じゃからわしはいまも無事なわけじゃ。まあ、最大出力後じゃからだいぶ出力低下してすごくだるくなる欠点があるがの」

「それが残像と人がぶつかったのと何の関係があるんですか」

「放熱の際あまりの熱エネルギーに鱗は剥離して粒子となってしまうんじゃ」

「つまり長老の残像はその質量を持った粒子でできているから」

「うむ。きっとあれは質量をもった残像だったのじゃろう」


 長老の誇らしげな顔に俺は拳を突き刺す。


「お前が避けた意味がねえじゃねえか!」


 ゴッという鈍い音共に長老が中を舞った。拳が痛まないようにいつのまにか手にはメリケンサックが握られていた。おそらくヤマダさんの仕業だろう。いい仕事をする。手を開くと横から手が出てきて回収された。


 って、こんなことしてる場合じゃない。

 ぶつかった人の救護に向かう。


「大丈夫ですか?」

「はい。生きてます」

「いやいやそりゃあ生きてなければ困りますよ」


 ずれた返答に思わずツッコミを入れる。慣れとは怖いな。


「確かにそうですね。ところで起してもらってもいいですか?」

「あ、はい。気づかずにすみません」


 肩や腹に掛けてあった荷物紐を解く。差し出された手を握って身軽になった体を引っ張り起すのを手伝った。立ち上がると今度は横になって荷物を起そうとしたので手伝う。


「大きな荷物ですけど。商人の方ですか?」

「はいそうです。ここから二つ先の国から着ました」

「商売のために遠方からはるばるですか。すごいですね」

「これも仕事ですから」

「そうじゃそうじゃ。商売は足で稼いで何ぼじゃ」

「長老。復活したんなら謝罪ぐらいしたらどうなんですか?」


 まったく。これだから長老は


「うむ。確かにそうじゃな。突き飛ばすようなことをしてすまなかった」

「いえいえ。お互い大事が無くてなによりでした」


さすが人付き合いを生業とする商人だけはある。長老と違って人ができている。


「お主いま何気にわしのこと非難しなかったか?」

「頭にうじむしわいてるんじゃないですか?(気のせいですよ)」

「本音と建前逆転しとらんか?」


 しまった。うっかり本音が言葉に出てしまった。


「荷物大丈夫でしたか?」

「無視するとかお主のほうが酷すぎんか・・・・・」


 商人さんは起した荷物をあけて中の荷物が大丈夫かチェックしていた。荷物にかぶせ手ある保護布をとる。下にたくさん引き出しのついた小箪笥。上に天辺に蓋が付いた箱。前世の時代劇で見た行商人の使う背負い箱というやつが出てきた。小箪笥に小物を入れ、大き目のものは上の箱部分に入れてあるのだろう。


「大事が無くてよかったわい。打ち所が悪ければ人は死んでしまうからの」

「ヌンサは丈夫というよりは生命力が強いだけですがね」

「・・・・・・しかし本当に大丈夫かの~。心配になってきたわい。そうじゃ問題がないなら自分の名前くら言いえるじゃろうて。縁や所縁とは不思議なものじゃ。この先また会う可能性もあるかもしれん。名前を聞かせてもらってもかまわんかの?」


 長老にしては名案を思いついたものだ。俺もまだ心配なところもあるし。確かにまた会うこともあるかも知れない。名前を知っておいて損はない。


「俺も名前聞きたいですね。よろしければ教えてもらえませんか?ちなみにこっちは長老で俺はアッシュと言います」


 商人さんはこちらが名前を言うと快く頷いて口を開く。


「私はダレです」


 ピキッ。空気の割れる音がした。


「私は誰です?・・・じゃと。お主、自分が誰か分からんじゃないか!」


 慌てた長老が心配して思わず叫ぶ。商人さんは笑顔を崩すさない。自分が誰か分かっていないのに特に慌ててもいないようだ。こんなときでも慌てずに笑顔とは商人の鑑のような人だ。一時的な記憶喪失。もしくは記憶の混乱でも起きているのだろうか?


「いいえ、わかっています。私はダレです」

「わかっとらんじゃないか!」


 不問なやり取りに俺も口を開く。


「本当に誰なんでしょうね?」

「はい。私はダレです」


 私は誰です?て、むしろ聞き返されてしまった。困ったな。


「いや聞かれても答えられないですよ。知り合いじゃないんですから」

「ええ。ですから自己紹介を」

「でも自分が誰かわからないんじゃろ?」

「いいえ、ダレだとわかっています」

「え?じゃあ誰なの?」

「私はダレです」

「だ~か~らわかってないじゃないか!」


 さすがにこれは長老も怒るのは無理ないな。


「本当に誰なのかな~?」

「ダレってわかってるじゃないですか」


 なんでだ?今度は俺の言葉に食いつかれた。もしかして長老の知り合いだたっとか?さすがに生まれて一ヵ月ちょっとの俺はないだろうし。


「む。もしかして知り合いだったか?」


 長老も同じ考えに行き着いたらしい。


「誰か思い出せないなら長老が悪いですね」


 う~む。唸り声を上げてまで長老が必死に思い出そうとするが。


「すまない。わしにはおぬしが誰某(だれそれ)か思い出せん」


 思い出せなかったらしい。


「ダレソレではありません」


 誰某ではない。ということはやっぱり長老の知り合いらしい。


「そうか。知り合いじゃったか」

「でも記憶喪失で誰か分からないんですよね?困りましたね」

「私は記憶喪失じゃありません。自分がダレとわかっています」


 商人さんは記憶喪失じゃないとはいっているけれど。どうなんだろうか?


「知り合いだって長老のこと分かっているようですし。もしかしたら記憶喪失というよりは記憶の混濁なのかもしれませんね。強烈なインパクトを与えると記憶が整理されるかもしれません」

「なるほどの~」


 長老が突如額に手をあてて仰け反りながら商人さんを指差す。そして起き上がりながら両手を前へ突き出した。


「ヘイ!YO~フレ~ンド。お前が俺を忘れたのは、時という名の魔法が、お前に魔法をかけたから。ならその空白を濃密な時で埋めてやるYO~!」


 チッチッチッチ。ナゾのリズムをヴォイスパーカッションで刻む。なんだこれ?ラップ?


「人付き合いと言ったらBATH~HURO~。ハダカの付き合い。BATHでBathday~新しい思い出の誕生。HEY!フロ~。ヘイ!風呂~。高温適温油風呂。ヘイ!フロ~。HEY!風呂~。高温適温油風呂。からりと揚がって・・・FISH FLY! FISH FISH FISH!」


 ぴたっと動きを止めて手足も内に納めて縮こまる。


「ン~~~~~~フィッシュ&チ~ップス!」


 大の字に飛び上がる長老。両手にはフィッシュフライとフライドポテトの乗った皿が。


「おいしいでありますおいしいであります」


 片方のさらに顔を突っ込みもしゃもしゃとそれを食べる。きたない。

 食べ終わったころ。顔を上げた顔は付け合せのタルタルソースとマヨネーズ、ケチャップにまみれていた。


「・・・・・・・」


 すっと無言でもう片方の手にあったフィッシュ&チップスの皿を差し出す。


『・・・・・・・・』


 誰も反応が無い。沈黙だけが流れる。


『・・・・・・・・・・・・』


 すっと長老が皿を下げて俺に振り替える。


「駄目じゃった・・・・・」

「駄目って何が!?わけわかんねえよ。つうか怖わかったよ!あの人笑顔で固まってるじゃねえか!何だよそのソースまみれの顔は!血まみれみたいで怖いよ!」

「塩にすればよかったの~」


 ほっほっほっ。和やかに笑う。フィッシュ&チップスをヤマダさんに回収してもらいタオルで顔を拭いた。


「やれやれ。わしの非は認める。詫びもする。だからお主が誰なのか教えてくれんか?」

「はい。ですから私はダレです!」

「だから誰なんじゃ~~!」


 ついに長老の堪忍袋の尾が切れた。


「もういい。おぬしのことなど知らん。わしはもう行く」


 猫目妖精(ケットシー)のジュネさんがいるテンペストの町へと向かって歩き始める。長老を呼ぶが振り返ることはなかった。追いかけなきゃ。でも本当に記憶が混濁しているのなら商人さんをおいていくわけにも行かない。


「この道を歩いていたようですが目的地はあるんですか?」

「実は行商ついでに人探しをしていまして」

「どんな人ですか?」

「特徴的な形のお菓子を人に進めて歩く人ですね。お心当たりありますか?」

「う~ん。ちょっと思い当たりませんね」

「そうですか。ではご存知でしたら道を教えていただけませんか?次はカラバの町へ行きたいのですが」

「それならわかります。この道の先にある分かれ道を右に行けば着きますよ」

「分かりました。ありがとうございます」


 お辞儀とともにお礼を言われたところでふと気が着いた。


「もしかしてあなたのお名前はダレというのですか?」

「そうですよ?」


 あ~そういうことだったか。元から記憶の混濁なんて起きてなかったんだ。安心した。と、そんなことしている場合じゃない。問題が無いってわかったんだし、長老を追いかけなきゃ。


「長老追いかけなきゃいけないので俺はこれで失礼します」


不思議そうな顔をしているダレさんに一言断りを入れて俺は長老を追いかけていった。



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 遠ざかっていくヌンサの後ろ姿を眺めながらダレは探し人の友人を思い出す。

 探し人は彼らと同種族のヌンサだった。

 彼らに言伝を頼むことも考えた。しかし商人である自分は情報の重要性を知っているだけに直接伝えることを選んだ。

 早く彼を探さなければ。


 ダレはその場から歩き出す。


 そして、だれもいなくなった。

言葉って意思疎通って難しいというお話でした。

次回、テンペストの街に着きます。

さてさてアッシュはお姫様に会えるのでしょうか?

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