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1-002.ヌンサ道に迷う

第零章はヌンサ村の中。

第一章はその外へ。

 久々の町への遠出。

 町を楽しんだヌンサみんなが気分よく歩いていた。


 しかしみんなは大切なことを忘れていたのです。


「道に迷ったってどういうことだよくそじじい」


 そう。帰り道を忘れて道に迷ってしまったのだ。

 

「だって人は人生という名の道に常に迷っているもんじゃろ」

「ドヤ顔でうまいこといったと思ってるんじゃねぇよ!」


 ほんとこの老害ろくなことしないな。ホッホッホとか余裕綽々で笑っているし。


「あ~もう。こんなんならサマンサさんと帰ればよかった」

「そうじゃそうじゃ。だれじゃ、サマンサを箒で先に帰らせたやつは」


 いっせいにすべてのヌンサが長老を指差した。


「しかたが無かったんじゃ。アイスが。アイスが食べたかったんじゃよ」


 両手両膝を突いてうな垂れる長老。サマンサさんは長老が買ったアイスを溶かさないために箒で空を飛んで先に帰っていった。


「まあすべて長老が悪いとは思ってませんよ」

「そうじゃそうじゃ。帰ったらアッシュにはアイス二段重ねをしてやるからな。ちゃんとコーンカップも買ってあるんじゃぞ。いいじゃろいいじゃろ」

「長老は反省してください」


 反省の色が見えない長老をしかりつける。確かに長老が買ったアイスのせいでヌンサの中でもまだまともなサマンサさんが帰ってしまった。でも大元の原因はほかにある。


「そもそも先頭を歩いてた人が道を間違えたのが原因ですからね。そういえば先頭を歩いてたのはだれでしたっけ?」


 いっせいにすべてのヌンサが長老を指差した。


「へへへへ」


 頬についた絆創膏に頭にかぶる広島東○カ○プの赤い野球帽。昭和時代の無邪気な子供のようにいたずらがばれちまったかと鼻の下を人差し指でこする長老。


「やっぱりてめえが原因じゃねえか」

「まて、まつんじゃアッシュ」

「辞世の句なら必要ない」

「帰ったらアイスをトリプルにしてやる」

「買収すんじゃねえぇ!」


 バチコーンッ

 長老を(はた)いたらいい音が鳴った。


「さすがツッコミ=合いの手と書いて合手(アッシュ)!」

「ツッコミの威力が半端ないぜ!」

「名は体をあらわすだな」

「おい、いま言ったやつ誰だ」


 苛立ちのままに言うといっせいにすべてのヌンサが長老を指差した。

 いや、今のは長老じゃないだろ。こいつら迷うことなく長老を売りやがった。


「おいおい。長老言える状態じゃないだろ」


 長老は俺の一発でピクピクと痙攣して横たわっている。


『・・・・・・・・』


 次の瞬間全員がすぐ隣のヌンサを指差した。弱いくせに生命力だけは半端ないヌンサは弱者としての行動が染み付いている。仲間を裏切るのにためらいが無い。しかもよく見れば全員指差すヌンサが違っていて二人に指差されたヌンサが一人もいない。まさか狙ってやっているのか?ある意味すげえよ。と感心していて気がついた。


「あれ?これって全員犯人ってことじゃね」

『しまったっ!』


 ヌンサ全員の顔が驚愕の色に染まった。

 そうだ。こいつらただのバカだった。疲れて怒る気力も失せてしまった。


「もういいから。とりあえず、来た道を戻ろう」

『サンセー』


 ここまで歩いて来た道は馬車が二台通れる幅で両側に木が並んでいた。戻るのもそう苦じゃないはずだ。町まで戻って猫目妖精のジュネさんに助けて貰おう。

 そう思って振り返った俺は硬直した。

 振り返った先には木木木木木・・・・・つまりは道はなく。森が広がっていたのだ。

 道はどこ行った???


「ふむ。どうやら幻迷の黒森(げんめいのくろもり)に来てしまったようじゃな」

「あ、長老復活したんですか?」


 いつの間にか復活した長老が隣にいた。


「で、幻迷の黒森ってなんですか?」

「突然現れる迷いの森のことじゃ。世界の位相がずれることでつながる森らしい。森の中は背の高い木々により常に空からの光がさえぎられておっての。そのせいで足元がおぼつかないくらいに暗いんじゃ。森の中があまりにも真っ暗なために黒森とよばれておる」

「さすが長老。常識以外のことに関しては物知り」

「無駄に長生きだけはしてないな老害」

「ヌンサの恥部」

「お主らがわしのことをどう思っておるのかよく分かったわ。しまいにはわし泣くぞ」

「みんな。それぐらいにしておくんだ」

「アッシュ・・・・・」

「長老の涙なんて見たくないだろ」

『ごめん、アッシュ。俺が悪かったよ』


 全員がいっせいに謝った。長老の人望の無さが伺える。


「それで長老。どうすれば元の道に戻れますかね?」

「アッシュ。お主が一番酷くね?」

「そんなことはどうでもいいでしょ!」

「あれ?わしここで怒られるの?なんで!」

「ほら、長老だけが頼りなんですから。無駄知識披露して下さいよ」

「せめてその本音をもう少しオブラートに包んでくれんか?まあいいわい。位相のずれは時間とともにそのうち世界によって修正される」

「つまり待ってればそのうち元来た道に戻るということですか?」

「そういうことじゃ」

「どれくらいかかります?」

「世界の綻びでもあるからの。放っておいていいものじゃない。世界もすぐ直すじゃろうて。そう長くはかからんじゃろ」


 しかたがない。待つしかないか。夜までに町に戻れればいいけれど。


「アッシュ~。どうすんだ?」


 わらわらとヌンサたちが集まって来た。


「一旦街に戻る」

「じゃあすぐ戻ろうぜ」

「それがそうもいかないんだ」

「なんで?」

「来た道が位相のずれでいまはなくなってしまっていて来た道を戻れないんだよ。だから道が元に戻るまで待たなきゃいけないんだ」


 事情を説明するもみんなの頭に『?』マークが浮かんでいるのが見える。なぜ『?』マークが可視化されているのかナゾ過ぎる。それはしばらく浮かんでいたがやがて『!』マークに変わると消えた。


「ふ~ん。よくわかんないけど。しばらくここにいなきゃいけないってことか」

「そういうこと」


 なんとか他のヌンサたちも理解はしてくれたようだ。

 ・・・・・。さて。暇だな。幻迷の黒森を見る。危険な森だけに入つもりはないが気にはなる。道自体もどんな風に戻るのだろうか?


『じゃんけんぽ~ん』


 後ろでジャンケンをする声が聞こえた。あっちはみんなで遊ぶようだ。


「お前ら。全員そろって後出しってどういうことじゃ!」


長老の叫びが背後から聞こえる。まったく。長老はうるさいな、と振り返る。


「長老が鬼な~」

『逃げろ~』


 ヌンサたちが散り散りに走り出して俺の横を通り過ぎていく。


「い~ち、に~い・・・・・」


 数字を数え始めた長老。背筋に悪寒が走る。なにが起きているのか気がついた俺は叫んだ。


「待てお前ら!」


 慌てて振り返るがもう遅い。


「そっちへ行くんじゃない!」


 待っている間暇だったヌンサたち。彼らは時間つぶしのために鬼ごっこを始めて幻迷の黒森へと入っていった。言葉って難しい。自分の説明不足に俺は頭を抱え込んだ。確かに俺は待つ必要があるとは言った。しかしここでじっと待たなければいけないとは言わなかった。まさかこんなことになるなんてだれが予想しただろうか?


「っていうか。長老止めろよっ!」


 唯一事情の分かる長老を怒鳴りつける。


「はあ?何を怒っとるんじゃ?わしゃあ。早く十数えんといかんのじゃよ。じゃませんでくれんかの」


 だめだ。こいつ分かってねえ。

 額を手の平で押さえながら言ってやる。


「あ~。鬼ごっこを始めたらみんな逃げるよな」

「そうじゃの」

「障害物なんかあると逃げやすいよな」

「そうじゃな。木や岩。建物なんかがあるといいのお」

「で、そこによさそうな森があるわけだ」

「おお確かに!」

「・・・・・・・」


 俺の無言の視線にやがて長老が、あっ、とあんぐりと口を開けた。どうやら気づいたらしい。


「だだだとぅだだかがらららだがら、どどどぼうしたたたたたといぶぶうんじゃ」


 動揺しすぎだろ。小刻みに震えすぎて長老がぼやけて見える。振動した手を動かすと空気と干渉してブオンッブオンッと音が鳴る。あまりの動揺っぷりに逆にかわいそうになってきた。


「しかたないですね。追いかけてみんなを連れ戻しましょう」

「え?」


 やれやれ殴られるとでも思っていたのか。長老が俺の言葉に拍子抜けした顔をする。


「ほら。早くいかないと奥にいってしまいますよ」


 先に森の中に入る。


「またんか。置いていくんじゃない」


 長老が追いかけてくるのを一度確認したら、どんどん奥へと足を踏みいれる。日が登っている時間帯だったのがよかった。森の中は確かに薄暗いが足元がまったく見えないほどじゃなかった。でも夜になれば星の光は届かないに違いない。本当に真っ暗になるだろう。

 まったくみんなどこにいったのやら。


「暗いのお~。年寄りの目には答えるわい」

「まったく。都合のいいときだけ年寄りを傘に着て・・・ってまぶしい!」


 振り返ると急な光に視界をさえぎられた。目頭に手の傘をかけて覗く。俺の声に反応したのか徐々に光は弱まっていき、光を放つ球とヌンサのシルエットが見えてくる。


「こんなこともあろうかと呼んでおいた。提灯鮟鱇(ちょうちんあんこう)のヒラメ君じゃ」

「提灯鮟鱇なのにヒラメ!」

「こやつは閃くと頭の提灯が光る癖があるんじゃよ」

「なるほど。閃きから名をとってヒラメ君ですか」


 まだ会ったことないヌンサだ。向き合い挨拶する。


「はじめましてアッシュです」


 挨拶をするもヒラメ君は、うーうー、と唸ってばかりで反応が無い。調子が悪そうだ。


「大丈夫ですか?」

「内臓が。内臓が飛び出そう」


 ビクッ。恐ろしい衝撃発言に俺は硬直してしまった。


「ヒラメはの。普段村のヌンサの滝壺の底にいるんじゃが、外に出ると水圧から開放されるせいで内臓が飛び出しそうになるんじゃよ」

「なるほど。会ったことないのは滝壺の底に住んでるからで唸ってるのは内臓が飛び出しそうになってるから・・・って、そんな人呼んじゃ駄目だろ!」

「まあ、そのうち気圧に慣れれば引っ込むから大丈夫じゃ。それまでは吐き気を必死に抑える酔っ払いのように唸り続けるがの。それにやつもヌンサじゃ。そう死なん」


 長老鬼だな。必死に内臓が出てくる吐き気に耐えるヒラメ君が不憫でならなかった。


「出て行け」

「ん?」


 何か聞こえたような?


「出て行け」


 また聞こえた。気のせいじゃない。

 ドスンッ。ドスンッ。重苦しい足音のほうを見ると巨大な黒い影が現れる。形はでっかい猪だった。でもヒラメ君の光が届くところまで着た姿を見てぞっとした。猪の体中がうねうねと動く蛇のような無数の黒い触手で覆われていた。

 前世の記憶が俺に伝えて来る。あれは宮崎○のもの○け姫にいたやばいやつだと。


「わしあれ知ってる。タタリ神じゃ。いかん!逃げんと侵食されるぞ」


 長老の叫び声と共に俺たちは走り出した。

 あ、ヒラメ君は大丈夫だろうか?


「森から出て行けええ」


 ドスンッ。ドスンッ。ヒラメ君を無視してタタリ神は俺たちを追いかけてきた。ほっとしながらも必死に走る。さすが猪の形をしているだけあってタタリ神は速い。このままじゃ追いつかれるかもしれない。と思ったときだった。急に本能の赴くままに一回ジャンプする。並走していた長老の姿が消えた。すぐさま追いついてきた長老に俺は問いかける。


「長老いま俺に足引っ掛けようとしたでしょ」

「ヒューヒュー」

「誤魔化すんじゃねぇ。つうか口笛吹けてねえし」


 む、と長老が走りながら適当な草を千切って口に挟む。ピーピー。草笛を吹いた。


「いや、吹けたとしても誤魔化されないから」

「向こうを見るんじゃ。森が拓けとる。助かった。森の外に出られるぞ」


 誤魔化されないぞと思いつつも実際に森を出たらとほっと気が緩んだ。そして目に入ってくる見知った景色に安堵する。森を抜けた先はヌンサの村だった。


「助かった・・・・・「出て行け!」付いて来てた!お前森の中限定じゃないのかよ!」


 タタリ神が森から出てまで追って来ていた。明るい場所で見ると表皮にうごめく蛇のような黒い触手に改めてぞっとした。あんな化け物をどうやって倒せというのだろうか?


 ドゴーン。


 心配する俺を他所に光と共に雷がタタリ神に落ちた。


「まったく騒がしいわね」

「サマンサさん」

「大丈夫だった?アッシュ」

「助かりました。でもあれで倒せたんでしょうか?」

「雷は神の一撃に匹敵するもの。魔を払うわ」


 すっとサマンサさんの指差した方向を見る。雷でタタリ神は黒焦げになっていた。いまもプスプスと音をたてて燃えていて煙が立っている。


「みんな~ご飯よ~」


 ドドドド、という地響きと共に森の中から散り散りになっていたヌンサたちが現れる。


『わ~い。ご飯~』


 え?それ食べるの?


「猪のタタリ神の触手は塩分大目だから焦げた触手を取れば塩釜焼きみたいでおいしいのよ」


 焦げた表皮を剥がすと中から蒸された豚肉が出てきた。サマンサさんの言うとおり思いのほか塩蒸し豚でおいしかった。森からみんな戻ってきたし。位相のずれも直り、黒森もいつの間にか消えていた。とりあえず今回の危機は去ったらしい。


「ねえ。誰か提灯鮟鱇のヒラメ君しらない?村にいないみたいなんだけど」


 サマンサさんの言葉に、ピキッ、と俺の中で何かが割れる幻聴が聞こえた気がした。


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