19
「トレントだ」
目の前には果物の実った短く太い木がある。
言われなければ容易には気付かなかっただろう。
ほとんど気配が存在しない。
ダイスケさんは俺がやる、と言って前に出る。
すると木がみしみしと音を立て始めた。
「動くっす!」
巨木に顔のようなウロが開き、うめき声を上げて地面から離れ出す。
『うぉぉぉぉん』
その前に飛び出たダイスケさんの体が急に膨れ上がった。
身長5mほどだろうか、筋骨隆々とした巨人だ。
「おぉぉぉおおおお!」
ドコーン!
腰を落としたダイスケさんの正拳突きがトレントに突き刺さる。
ダイスケさんはそのままラッシュをかけ、トレントは倒れ込みそうなほどの衝撃を受けていた。
『おろろーーん』
ばきばきと枝や幹がきしみ、ダイスケさんはそのままラッシュをかけ続ける。
そんなダイスケさんの足下に、トレントが伸ばした根っこが槍の用に何本も飛び出してきた。
「フンッ!」
ダイスケさんはそれをバックステップで難なく避け、右のローキックで根っこをけり砕く。
そしてローキックを振り抜いた勢いで体を一回転させ、左の後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
『うぉん!』
ドシーンと音を立ててトレントが倒れる。
ダイスケさんはその隙を逃さず、トレントに覆い被さって連打をぶち込んだ。
めきめきと破砕音が響き、トレントの体はどんどん砕かれていく。
そしてしばらく連打が続くと、トレントはぴくりとも動かなくなった。
「やったみたいね」
「うっす」
ヒトに戻ったダイスケさんはトレントの上に立つと、ガサガサと枝葉の中を探った。
そして俺達を呼ぶと、赤い木の実を投げ渡してきた。
「それがトレントの実だ」
「これが錬金術の素材に使えるんすね」
「おう。お前達も持って行け」
「うっす」
メイがいただくわと言ってヒトの鞄に仕舞う。
このインベントリ代わり便利だよなぁ。
そして俺達は次の敵を探す。
「走ってるものの気配を感じるっす」
多分、ビッグボアだろう。
俺達は慎重に森の中を移動する。
すると茶色くでかい物体が遠くに居た。
「居たわ。雪辱をはらしましょう」
「うっす、俺が前に出るっす」
そして俺が前に出て、抜刀してビッグボアに対して大きな声を上げた。
「おーーい!」
すぐにビッグボアはこちらを発見し、蹴爪を蹴立てて突っ込んでくる。
まっすぐにこちらに向かってくる大イノシシ。
衝突の寸前。
今だ!
俺は闘牛士のようにイノシシを躱し、、前転してすれ違いざまに一撃を入れる。
『ブルルゥ!!』
「やぁぁぁ!!」
その前にメイが躍り出た。
何をする気だ。
そしてウンディーネになると、大イノシシの勢いを殺さず、飛び跳ねて顔にしがみついた付いた。
「ぐうぅっ!」
『ゴボボッ!!」
「キエェェエェッッ!」
水の中につっこみ、一瞬動きが止まったイノシシに対し、俺は渾身の力を込めて脛払いを見舞う。
ビッグボアの脚はずばっと切れて、イノシシのは動けなくなったぞ!
「キエェェェエエェェエッッッ!!!」
『ゴボボボッ!!』
そこに俺は容赦のない連撃を繰り出す。
後部を切り裂かれイノシシは苦悶の声を上げる。
だが俺の連撃は止まらない。
「キエェェェェエエエェェェエエェェッッッッ!!!!」
立木に打ち込む様に俺の連撃が続き、いのししの後部はずたずただ。
そしてその攻撃をずっと続ける内に、イノシシはようやく動かなくなった。
「ウンディーネって便利ね……流石水の精霊だわ」
「雪辱ははらしたっすね!」
「そうね」
俺は残心を終えて、剣を納めた。
そして俺はイノシシは前部の皮だけを剥ぐ。
するとダイスケさんがこんな事を言ってくれた。
「こいつの肉は旨いぞ」
そうか、イノシシだからおいしいに決まってる。
「そうね。イノシシだものね。ちょっと食べたいわ」
俺もその意見に賛成だ。
よって肉も一部はぎ取り、メイに持ってもらって疑似インベントリに仕舞ってもらった。
さぁ、探索を続けよう。
その後俺達はさっきと同じ手段で四匹のビッグボアを狩り、後は帰るだけとなった。
しかし気配が道をふさぐ。木の上に居るやつと大きな気配がする奴がいる。
「ジャイアントスパイダーとトロールだな」
そしてダイスケさんは俺がトロールを始末する、と言う。
「了解したっす」
「私たちはジャイアントスパイダーを狩るわ」
そして俺はヌエを試すため変身し、虎の足取りで獲物に近づく。
メイもウンディーネになり、溶けて草むらに隠れ、そろそろと近づいた。
「ッシャァ!」
そして俺が木々の中のジャイアントスパイダーに雷撃を放つ。
その横には巨大な二つの頭を持つ巨人が悠々と歩いている、
『ギィィィ!!』
雷を受けて1mほどの大蜘蛛がぼとりと落ちてきた。
チャンス!
俺がその後も容赦なく電撃を浴びせると、大蜘蛛はなんと麻痺した様に動かない。
その間にもダイスケさんは巨人に変身し、ほぼ同スケールの巨人に驚くほどの素早さでハイキックをお見舞いする。
その一撃が脳震盪を起こしたのか、巨人は膝から崩れ落ちた。
そこにダイスケさんは容赦ない連撃浴びせた。
意外と脆いらしく、次々とトロールの肉片が飛びトロールは倒れる。
マウントを取ったダイスケさんは、顔面をまた容赦なくパウンドした。
そしていつしかトロールは動かなくなり、彼の勝利が確定した。
やはりダイスケさんはすっごい強い。
一方俺達が相手していた蜘蛛はと言うと……
あっさり麻痺して動かなくなり、煙を噴くまで雷撃を浴びせたらたやすく死んでしまった。
相性が良かったのかヌエが強いのか、あっけないものだった。
「なんか簡単におわっちゃったっすね」
「良いんじゃない?楽な方が良いわよ」
そうして俺はジャイアントスパイダーの甲殻を手に入れ、ダイスケさんはトロールの脂肪を手に入れた。
そしてあとは帰るだけだ。
と、思ったところでまた気配があった。
今度は小さい。
「何か居るっす」
「そうなの?じゃあ迂回して進む?」
「いや、敵ならレベリングに倒しても良いんじゃないっすか?」
「うむ」
そうして俺達はその気配に近づいて行く。
そしてその姿を見た俺達は思わず立ち上がった。
「あのドラゴンっす!」
「ほんとだわ。こんな所に居て大丈夫なのかしら」
それは、湖で怪我をしていた赤いドラゴンだった。
ドラゴンは俺達を見つけると、みゅう、と鳴いた。
そして俺達に近寄ってくる。
ダイスケさんは敵か?と聞くので俺は味方っすと答えた。
「みゅうみゅう!」
ドラゴンは鳴きながら近くに寄って来て、俺の脚にすりついた。
「かわいいもんすね」
「そうね。でもこんな所にいたら危ないわ。また怪我しちゃう」
「そっすねー」
俺はドラゴンを撫でる。
そしたら鱗が一枚はがれた。
「あっ」
「うわっ大丈夫っすか!?」
「みゅう」
ドラゴンは平気そうに鳴く。
その鱗はガラス質に透ける真っ赤な物だった。
「大丈夫そうっすね」
「じゃあその鱗もらっちゃいましょ」
「そっすねー。きれいなもんす」
そしてしばらくドラゴンを撫でていると、くぅーと音が聞こえた。
「あれ?おなか空いてるっすか?
「じゃあ何か食べるものは……丁度良いわ、ビッグボアの肉があったわね」
「あー、丁度良い生肉っすね」
そしてメイはヒトになり、肉の一部を切ってドラゴンの前に差し出す。
「ほら、食べる?」
「みゅう!」
ドラゴンはためらいなく肉に齧りつき、あっという間に食べてしまった。
「もうちょっとあげましょ」
「みゅうみゅう!」
メイはもっと肉を切り出し、ドラゴンの前に差し出す。
するとドラゴンは肉を気に入ったようで、どんどん食べていった。
「お肉がなくなっちゃうわね」
「仕方ないっすよ。おなか一杯になるまであげちゃうっす」
「うむ」
ダイスケさんも優しい目でドラゴンを見ている。
そしてドラゴンはなんと肉を食べ尽くしてしまった。
どこにこんなに入るのだろう?
「みゅうみゅう!」
と、思った瞬間、ドラゴンの体が光りだした!
「「「!?」」」
そうしてドラゴンのシルエットはどんどん大きくなり、ついには7m程にまで大きくなる。
そして光が収まったとき、そこには赤い鱗をした立派なドラゴンが鎮座していた。
「……でっかくなっちゃった……」
「なんかすごいことに……」
「うむ……」
次いでドラゴンは優しいうなり声を上げて、首を下に下げてくる。
『クルルル……』
「どういう事かしら」
「乗れと言ってるのではないか」
「送ってくれるんすかね?」
そして俺達がドラゴンの背中に乗ろうとすると、ドラゴンは嫌なそぶりを見せずに俺達を乗せてくれた。
全員が乗ると、ドラゴンは羽ばたき始める。
そしてついには浮かび始めると、急激な加速を始めて木立の間を抜け、森の上空に飛び出した!
「うわっぷ、木が!」
「我慢しなさい!」
次いで龍はばさばさと羽ばたいて前に進む。
かなりのスピードだった。
そうしてあっという間に森を抜けると、はじまりの町の北門につき、ドラゴンは森の入り口に降り立つ。
そして俺達に降りろと促し、俺達が降りるとキュウ、と鳴いてまた飛び立っていった。
「貴重な体験をしたっすね……」
「そうねー」
「うむ」
そして俺達は町に戻ったのだった。
手違いで18話の中に19話が入ってしまっていました……




