18
先輩の剣を回転砥石で研いだあと、続いて俺達はホームの二階に行った。
俺が革細工を作りたいと言ったからだ。
「ここにマンキーの皮があるっす。これを加工するっす」
他の人達はみんな見学に回っている。なんだかんだでつきあいのいい人達である。
で、マンキーの皮は短い毛が粗雑に生えた感じの革だが、そう薄くも無い。
考えている加工法には丁度良いだろう。
まずこの表面から毛を剥がす。
なんとその方法は『毛取り剤』。お手軽きわまれりである。
毛取り剤もたらいも据え付けでおいてある物を使い、水で薄めた薬剤でじゃぶりと洗うと、あっという間に毛が抜けてすべすべの皮が出来た。
ついで鞣し液に漬けて皮を革にすると、備え付けの小さな竈に火を入れ、その遠火で革を乾燥させつつ、持っていた膠を煮始める。
「相変わらずくっさいわねー。で、何作るの?」
「手甲っす。やっぱり、剣を振るんならそういう物があると落ち着くんで」
一方関係ないが、ダイスケさんの方は、こんなに簡単に鞣せたのか……とちょっと寂しげな顔をしていた。
「鞣し革で手甲って事は柔らかい手袋みたいなもの?」
とミミさんが横から聞いてくる。
いやいや、甲の部分はちゃんと堅くする。
「それがこの膠の使い道っすよ」
そういって俺は鞣し革を裁断し、複数作った甲部分の部品を膠に放り込んで少し煮込み、取り出して槌で叩き合わせ始めた。
「練り革か。考えたな」
先輩はそう言うが、これも先輩が山ほどいろんな知識を教えてくれたから覚えている事なのである。
しばらく作業をして革が叩き固められると、ポンチで縫い穴を開けて革ひもでつづり合わせて行く。
最後にコバに蝋を塗り、これで手甲の完成である。
「できたっす」
「「おおー」」
できあがった手甲をはめてみると、始めて作った割にはしっくりと来た。
「これこれ、こういう感じのが欲しかったんすよねー」
「ふぅん、私も作ろうかしら?」
まぁ剣も振らないから意味無いけど、とメイが言うので俺は腹案をメイに告げた。
「そんなこと無いっすよ。手甲というか手袋があれば、自在に逆立ちが出来てカポエラみたいな動きが出来るんじゃないすか?」
「あーっ、なるほど……じゃあ、欲しいかな。出来るだけ軽いのが」
「うっす!」
そして俺は軽い革、と言うことでサンドバイパーの革を使い、メイのグローブを作ったのだが……
「なんかエロくね?」
とはミミさんの言。
……うん、ちょっと。
肘まで補強する事を考え、二の腕まで覆うロンググローブにしたのだが。
言われたメイは小悪魔なポーズ?を取っている。ノリがいい。
「しかしなんというか……マニアックだなぁ」
ぼそっと呟いたのは先輩である。
ちょっと、それはないっすよ。思ってても。
その向こうではダイスケさんが自分の胴着を鞣し、鱗のペンダントを作っていた。
この人は別世界だなぁ……
で、俺達は冒険者ギルドの前に居た。
見た感じ、西部劇の酒場みたいなドアが付いた、昔の役所っぽい建物。
中では事務のおっちゃんって感じの人たちがカウンターに座って居た。
「いらっしゃいませ……素人は居ないようですね」
出し抜けにそういわれ、俺は先輩を見やって訝る。
「ここのNPCはシステム側の存在だ。こっちのステータスは筒抜けだよ。で、味も素っ気も無いから長話は無駄だぞ」
「へー……」
そして先輩は前に進み出て、出し抜けに言い放つ。
「300Gをミミに引き渡したいんだが」
「はいケンさま。プレイヤー・ミミさまですね……この方でよろしかったでしょうか」
ぶん、と空中にミミさんの顔が浮かぶ。
先輩がおう、と言うと、おっちゃんは表情一つ変えずに返す。
「ケンさまのギルド口座から300G、ミミさまのギルド口座に払い込みました」
味も素っ気もなく話は終わった。
次いでミミさんが進み出て、おっちゃんに話しかける。
「50Gをダイスケに、50Gをライトに払い込みたいんだけど」
そしてミミさん空中の窓を操作して払い込みを終える。
これでお金が入ってるのは解っていても、ちょっと不思議な気持ちだ。
……っていうかあれ?
「口座作ってないっすよね?」
「口座は全てのプレイヤーさまのキャラクター情報と結びついております」
と、思ったら事務のおっちゃんが説明をくれた。
「つまりもう今からでも引き出せるんすか?」
「はい。預金額は50Gです。引き出しますか?」
「今は良いっす。ところで質問なんっすけど」
「運営に支障のある質問には答えられません」
「死体になったモンスターは放っておくとどうなるんすか?ずっと残るなら死体だらけになると思うんすけど」
「死亡したモンスターは、死後、1時間以上プレイヤーさまの意識に昇らない場合状態が続いた場合、消滅します」
「……それって、覚えておけば消えないって事っすか?」
「そうです。忘れ去られることで消滅します」
「そうだったんすか……なにげに高度な処理してるんすね……」
「地味に知らなかった話ね」
メイも横で聞いてそんなことを言う。
そしてメイは一歩前に進み出ておっちゃんに尋ねた。
「クエストってあるんですよね?」
「はいメイさま。条件をご入力ください」
「ビッグボア関連で」
ビッグボアと言えば、森で俺達を踏みつぶしたあの大イノシシだ。
「承知しました……ビッグボア5頭報酬2000Gの討伐依頼がございます」
「やっぱりレアモンスターじゃないんだ……パーティーで行けるのよね?」
「こちらでご申請ください」
「じゃあ……」
と、行ってメイは後ろを振り返る。
先輩とミミさんは一緒に行かないというジェスチャーをする。
ダイスケさんは……別のカウンターで何事かを話していた。
「ライトと私で」
「……承諾の意思、検知。承知しました」
そしてメイは踵を返し、俺に向かって微笑んだ。
「さ、やってやりましょ?」
その笑顔は蠱惑的だった。
ギルドを出た俺は2人と分かれて北へ向かう。
……2人?
と、振り返ると、北へ行く俺達の後ろに、ダイスケさんが居た。
「俺も北の森へ行く」
とだけ言って、後ろをのしのし歩いていた。
「何か用があるんすか?」
俺が聞くと、ダイスケさんは首を縦に振る。
この人喋らないから会話しにくいんだよなぁ……
「どういう用事っすかね。内容によっては協力するっすよ」
「トロールの脂肪、トレントの実を取ってきて錬金術師に渡すクエストを受けた」
採取系クエストか。そういえばダイスケさんは肩掛け鞄を装備している。
ギルドではアイテムも預かってくれるんだろうか?
「森の奥にはそんなのがあるんすね。他に出てくるモンスター知ってるっすか?」
「ジャイアントスパイダー。ビッグボア。フォレストタイガーだ」
「種類豊富なんすね」
「うむ」
「じゃあ行くっす!」
そして俺達は北門を出て、森に入る。
「そういえば、槍作って無かったっすねー」
前も槍の柄に使ったりした森の細木を見て、俺はそんなことを思い出す。
「棒だけでも取っていったらどうだ」
「そうね、間合いをとれる武器があると有利かもしれないし」
「そっすね。じゃあちょっとまってください」
俺は剣を抜いた。
「チェリャァッ!」
ズバッ、と音がして、木が切り倒される。
メイはその情景を見て感嘆の声を上げている。
やっぱり剣があると違うなぁ。
そしてやはり剣で枝葉を落とし先をとがらせ、木槍を作ると、俺はゾンビに変身して装備した。
「おまたせっす」
そして俺は森の中を素早く駆けるため、オルトロスに変身した。
「そういえばダイスケさんは、何か移動しやすい変身持ってるっすか?」
「……」
ダイスケさんが無言で黒いライオンに変身した。
ライオン!そういうのもいるのか。
そしてダイスケさんは無言で走り出す。
俺達はそれを追いかけるように森の中を疾走した。
時々敵を倒し、しばらく走っていると、巨木だらけの領域に入ってくる。
さらに走ると森の木はさらに巨大さを増して、下草が密度を増していた。
「!」
「気付いたか」
「気配があったの?」
藪の中に一匹、巧妙に隠蔽された気配がある。
既にこっちをねらっている……
「俺が囮になる」
ダイスケさんがそういって前にでる。
「うっす」
「解ったわ」
そしてダイスケさんは藪に近づいてからうなり声を上げた。
「グルルルルルゥ」
『ガァァッッ!』
そこに間髪入れず大きな虎が襲いかかる。
しかしダイスケさんは冷静に、瞬時に人に変身すると、飛びかかる虎の両手をむんずと掴んで巴投げを放った!
ドシン、と大きな音を立てて虎が背中から地面に落とされる。
「今だ!」
「やぁっ!」
メイはボレーシュートの様に蹴りを入れて、体勢を立て直すのを防いだ。
距離が離れていた俺は、ゾンビに変身して腹に木槍を突き込む。
するとそう防御力は高くないのだろう、槍はぶすりと虎に刺さり、虎は苦悶の声を上げた。
『ガァァァァ!!』
次いでメイはウンディーネに変身し、虎の顔に覆い被さった。
もがく虎は水から離れられずにもがいている。
チャンスだ!
俺はヒトに変身し、抜刀しながら駆け寄った。
「チェヤァァァッ!!」
えぐり込む様な突きを無防備な胸部に突き込む。
すると心臓に届いたのか、抜いた瞬間におびただしい血が溢れ出した。
しばらくメイが虎をホールドしていると、動きが弱っていき、しばらくして虎は絶命した。
「勝ったっすね」
俺は残心を納めて剣を納める。
すると虎から光球が出て、俺の体に吸い込まれた。
「フォレストタイガー・ソウルっすね」
「うむ」
「何かの変身に使える?」
「ちょっと待つっす」
そして俺はステータスを開き、フォレストタイガー・ソウルに向かい、感覚をとぎすました。
「……あっ!」
じわっとレシピが浮かんだ。
フォレストタイガー+サンドバイパー+マンキー=ヌエ
「ヌエって変身があるっす!すぐ作るっす」
そして俺の前で光球が合成され、俺の中に吸い込まれた。
「ヌエっていうと平安時代に出た妖怪ね。確か猿の顔、虎の手足、蛇の尻尾を持つはずよ。確か雷や疫病を操るんだっけ?」
「あー、丁度そういうソウルの合成で出来たっす」
「まさにキメラね。どんな能力が使えるのかしら」
「とりあえずなってみるっす!」
すると俺の視点が少し低くなる。手元を見ると虎の手足だった。腹にも縞々がある。
尻尾を見ればやはり蛇で、こうなると顔は猿なのだろう。
じゃあ今度は能力だ。精神を集中して……
バリバリッ!
手と手の間に雷が走る。
「どうやら雷を操る能力の様ね」
「そっすね。これで戦力アップっす!」
「うむ」
ヌエのステータスはこんな感じだった。
ライト ヌエ・スピリット
強さ:人倫を少し超えた。
身体:機動力が高い。
精神:ちょっと脆いめ。
魔法:得意
所持スピリット
ヒト・スピリット
ゾンビ・スピリット
ジャッカロープ・スピリット
レッサーオルトロス・スピリット
ヌエ・スピリット
所持ソウル
ソコラビット・ソウル×2
フォレストビー・ソウル
ヒト・ソウル
そして虎の皮を剥いだ俺達は、さらなる探索を続けるのだった。




