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ピーピーピーピーピー


俺の意識は警報音の中で目覚める。

軽い頭痛。

何事だ。

視界には自室の天井が目に入り、次いで竹刀や机が目に付いた。


「VRギアのセーフティーが働いた……?」


もしそうなら由々しき事態だ。ヘタするとギアが不良品という事になる。

一体どんな原因で……?

表示部に出ていたエラー内容はこうだった。


『小脳代理演算エラー』


その言葉を分厚い説明書を引いて調べた結果は……

ざっくりいうと『使用者の脳の速度にVRギアの処理速度が追いついていません』

という物だった。

追いついてないってどういう事だ……


ピピピピピピピ!


と、次の瞬間、俺の携帯端末が着信音を鳴らす。

剣先輩からだった。


「もしもしーっす」


「おう、生きてるか」


向こう側の声には幾分の安堵が聞いてとれた。


「生きてるっすよ」


「そらよかった、あのメイちゃんて子なんか泣いちゃってたしな」


「マジすか!?」


「おうよ、今日は上がるつってたから明日また入ったら謝っとけ」


「うっす」


「しかしなにが起きたんだ?突然消えたからにゃGMに持って行かれたか、でなきゃVRギアのセーフティーだと思うんだが」


「セーフティーの方っす。なんか、『小脳代理演算エラー』って出たんす」


「なんだそりゃ」


「『使用者の脳の速度にVRギアの処理速度が追いついていません』って事らしいっす」


説明書によると、あまりに脳の処理速度、特に反射神経が早い・高負荷な人なんかが使用する場合、プログラムの方の処理が追いつかなくなってハングアップする、とある。

こうなってしまってはリセットが必要なのだとか。


「ふむぅ。お前あのときなんかあったか」


「あー。ものすごく鮮明に蛇の全身を覚えてるっす。っていうか骨格まで解るような……あれ?」


「あー……なんか混乱が起きてるようだな。まあ多分そのせいだろう。ドラゴニュートの件は後でGMにでも連絡するとして、今はもう寝ちまえ」


「うっす」


そして電話は切れた。

今日のご飯はチャーハンだった。





今日でVRMMOは4日目だというのに、ずいぶんと濃い毎日を送っている気がする。

先輩に誘われ、モンスピを始めて。

メイと出会い、狼に囲まれ、野原でウサギ肉パーティーをしたり。

テブテジュを作ったり、ビッグボアに潰されたり、湖でドラゴンの子供?を助けたり。

ミミさんの所ではヒト・ソウルを手に入れる悶着があったり、鉱石掘りに行ったら龍と戦うことになったり。

そして今、メイから送られるPvP表示にNOを連打して平謝りしていたり。

やぁ、濃い毎日だぁ」


「何が濃い毎日よ!人をあんだけ心配させといて!」


『PvP OK?』


NOで。


「で、結局なんだったのよ」


俺は昨日先輩に話したエラーについてをメイに話し、これからGMコールして見るつもりだと言った。


「ふーん、そっか、GM案件か……」


メイの口元が小悪魔的につり上がるのが見えた。


「なんか心なしか嬉しそうっすね」


「そりゃまあね。GMが出てこなきゃならないような裏技なんて、興味が出ないゲーマーは居ないわよ」


「裏技って言うか……」


とりあえず俺はGMをコールしようとして……項目が無いのに気が付いた。


「え?あれ?GMコールってボタンがあるんすよね?」


「え?普通はあるはずだけど……無いわね」


じゃあどうやって呼べばいいのだ。まさか直接か。


「試しにやってみるか……おーいGMさーん」


「そんなので来るわけが……」


「はーい」


なんか返事が来た。


「嘘!?」


そして俺の体がキラキラエフェクトに包まれ、すーっと消えていく。

横でメイが信じられないという顔をしているが、これが現実だから仕方ない。

で、一瞬視界が暗転した後、俺の前には事務机に座る人物が居た。

周りは殺風景なオフィスという感じだ。


「どうも、GMのカミタニです。ライト君ですね?」


「あっ、はい」


カミタニと名乗るその女性は、落ち着いた茶色の髪をセミロングにして、スーツを着ていた。

美人だけどメイほどじゃないかな……なんて思ってしまう。


「今日ここに来てもらった理由は把握しているようですけど、問題ありませんか?」


「え?コールした理由解ってるんすか?」


じゃあなんで最初からここにログインしなかったのだろう。


「ええ、ハードセーフティーならともかくプログラムセーフティーで落ちる事案なんて絶対に対処しなくてはいけませんから」


「へぇ」


「ちなみに最初からここに呼ばなかった理由は、あのメイさんというプレイヤーに事情を説明する時間が欲しいだろうと判断したからです」


あ、いい人だ。


「それはありがとうっす。ところで、自分は何をすればいいっすか?」


「とりあえず、VRギアのログの提出と、脳負荷量スキャンを行わせてもらいたいんです。両方とも個人情報も含みますし、後者は多少気持ちが悪くなりますが。是非とも承諾して欲しいんです」


「了解っす。承諾するっす」


「軽いですね」


「恥ずかしい事には使ってないっすから」


「その信頼、重く受け止めさせていただきます」


その言葉と同時に目の前に『2件を了承しますか?』というウインドウが表示される。

YESを押すと光の輪の様な物が俺の頭の周りを覆った。


「所詮エフェクトですので、気楽にしてください」


「はーい」


しばらくは光の輪のきらめきを見てぼーっとしていた。

……が、だんだん頭の奥でなにか……熱の様な物が瞬いている。

その瞬きすぐに確信を呼んだ。

サーペント・ドラゴニュートに変身したときに感じた熱と同じだ。

だが、それはあの時のような異様な高揚感を伴っておらず、むしろ追いついていくためには自力で高揚を呼ばなければならないような、そんな物だった。


「あの……この熱って言うんすかね……加速感?って、追いついてっていいんすか?」


「え?追いつく?……出来るならやってみて」


「うっす!」


そして俺は精神を集中せんと、自分の中でスイッチを入れる行動を行っていく。

息を整え、鼓動を聞き、そして開いた瞼の裏に命を賭ける対手を描き出す。

今は……やっぱり先輩だろう。

しかも、イフリートになったあの先輩を、だ。

全身が炎に包まれ、爆炎を振り回す炎人を。

……瞬間俺の視界が光に包まれる。

色も臭いもない、いや、相手しかいない世界の中、その動きを寸毫とも逃さないように、血は不可能を可能にせんと駆けめぐる!


ピーーーーッ!


そして光の輪が消えた。

勝負は……瞬殺だった。

どっちがって?もちろん俺がされた方に決まってる。

解っていたって無理な物は無理なのだ。


と、気が付くとカミタニさんが呆然とした顔をしていた。


「どうしたんすか?スキャンおわったんすよね?」


「お、終わりましたが……」


カミタニさんは少し言い淀んでから言葉を続ける。


「ライト君、あなたの脳は……有り体に言ってしまえば異常です。物理チートです」


「え!?なんか異常があったんすか!?」


さすがに脳腫瘍とかは勘弁して欲しい。


「病変という意味では反応はありませんでした。ですが問題はそこではありません」


「病気じゃないんすか」


それはよかった、けどどう異常なのだろう。


「あなたはクロック数という物をご存じですか?CPUが秒間当たりにいくつ計算を行えるか、という計算速度の数の事です」


今時、PCの事だ、名前くらいは聞いたことがある。

俺はうん、と首を振った。


「これが並列処理である人間の脳に直接存在する訳ではありませんが……あなたはそのクロック数の限界が異常に高いのです」


「えー……つまり?」


「あなたの脳の回転は異常なほどに早い。そう思っていただければ結構です」


「えぇー、でも自分そんなに頭良くないっすよ」


「あくまでも回転速度の問題ですので、短時間で何かをしろ、という行動についての頭の良さです。たとえば、一瞬の様な短い時間で計算を説け、だとか」


「出来ないっすよそんなの」


出来たら普通科高校通ってないし。


「えぇ、常に早い訳ではないからそうだと思います。ここからがもう一つの異常です。あなたは自分のクロック数を自分で支配できている」


「あぁ、それは解るっすよ。集中すると周りがゆっくりになるアレっすね」


「そっちの方は自覚があるんですね……ともかく、その二つの異常……いえ、特異性を、あなたの脳は持っています」


「えー……でも、集中して感覚時間を伸ばすーって感じのは、先輩もダイスケさんも多分出来るっすよ」


「……ゴホン。そういった特殊な技能を持つ人たちが一定数居るのは良いとします」


「まぁ、特殊技能ではあるっすね。俺、変身も早いみたいだし、ゾンビ緊急回避できるし」


誰でも身につけられるんじゃ?と思うけど。


「でも、あなたはその、あえて例えるならアクセルを踏む能力に加えて、可能な限界速度が群を抜いて高いのです」


「あ、そう言われるとちょっと変扱いされる理由はわかるっすね。ぶっちゃけ事故ったとかそんな感じっすか」


「……そうなのよね……」


「あ、ガシャーンすか」


そういやカミタニさん口調が砕けてきたなぁ。


「その例えで言えば、そうなるわ。あなたは、VRゲームの時間加速の原理について知っていいる?」


「ぜーんぜん知らないっす。あ、量子が何とか言ってたっすかね」


「量子パケット通信の事かしら」


「ああそれっす、関係あるんすか?」


「あるといえばあるわね。まず、VRゲームという物はサーバーである量子コンピューター内部に作り出された仮想世界を、VRギアを通じて人間の脳に見せている。ここまでは解りますね?」


「うっす。そのために体と脳を切り離すのが、小脳代理演算、だったっけ」


あのエラーになったやつだ。


「そう、本当に回転が速いわね。正確にはそのエラーだけではないんだけれど……解っていて混乱する訳でもなさそうだから、一つずつ説明しましょうか。」


そうなんだ。他にもエラーがあるのかなぁ。


「小脳代理演算というのは、文字通り、人間の小脳機能を機械が代替するものです。例えば、ゲームにログインする前に何か怪我をしていても、ログインすれば痛みは無いでしょう?」


「そういや空腹感とかも無いっすね」


「モニタリングはしているから異常が出れば警告を送りますけどね。小脳代理演算は、そうして仮想世界と現実世界の間で、人間の意識を切り離すために存在しているの」


「ふむ」


「そしてそうやって切り離された意識が過ごす時間ってどうなると思う?」


「そりゃ、現実と同じ動きをするなら、現実と同じ時間を過ごすっす」


「その通り、じゃあそれを、どうやったら速くできると思う?」


「えーーっ……何とかしてスピードを上げるとか……先回りするとか?」


「正解。先回りよ。量子コンピューターはその演算能力を利用して、人間の脳が考える事を先回りして見せているの」


「先回りして見せる……?」


「脳の早さは計算の速さ、そこは解るわね?」


「うっす」


「じゃあ、例えば1+1の答えは2。この計算をするのに人間の脳は一秒掛かるとする」


「ふむ、1秒っすか」


「でも、量子コンピューターは例えば0,1秒で計算ができる。なら人間が最初に1+1の式を見た瞬間、計算の答えを出すところに2と書き込んであげれば?」


「先回りして答えが出てる。だから時間が早くなったように感じるってことっすね」


「そう。そしてあなたのやったことは……そのコンピューターを追い越した、って所かしら」


「先に2って出しちゃったんすね」


「そうよ。するとコンピューターはもう次の計算が解らなくなる。追いつけないんだからカンニングも出来ない。そしてエラーが出る。追突事故と例えればいいかしらね」


「スピードの出し過ぎっすかー……量子コンピューターって俺に追いつかれるくらいなんすか?」


「いいえ、本来の速度はそんな物じゃないわ。でも、ゲームに使っている力は大したことはない。時間加速も数倍だから、数倍早くなられれば追いつかれてしまうのよ」


「でも自分、出来るのはともかく、そんなに早くなろうとしたっすかねー」


「そこがまた新しい問題なの」


カミタニさんははぁ、とため息をついた。


「ドラゴニュート系のスピリットはね、使用者に短時間だけ絶大な力を与えるってコンセプトで、使用者の脳を興奮させて時間が止まった様に感じさせる機能があるの」


「はぁ、さっきの例えでいうと、無理矢理スピードを出させる感じっすか?」


「そうね。それも本来はエラーも出ない、モニタリングされて体への悪影響も出ないレベルで行う物だったのだけれど……」


「自分は出る速度が青天井だった、と」


「そうなのよねぇ……」


カミタニさんはふにゃり、と机に突っ伏してしまった。


「今後、出来ればドラゴニュート系のスピリットは使わない事をお願いします。他の人のためにも仕様そのものの変更は出来ないの……その代わり、GM権限で便宜を図るから、欲しい物があったら言ってみて?」


ただし、むちゃくちゃな物は駄目よ?と付け加えられ、俺はあるものを望んだ。


説明回になっちゃった。

ライトの能力は作中で言ってるようなもの+作中のしゃべりの中でもあるように、返答を即座に思いつく能力でもあります。

一瞬で熟考出来るから一人称描写が細かかったりするわけです。


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