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兄は私と静さんの顔を交互に見比べ、不思議そうに首をかしげた。
「なに?もしかして、お前ら知り合い?」
私は涙を拭きながら、小さくうなずく。
「……うん」
兄は目を丸くした。
「マジかよ」
すると静さんが、兄に穏やかな口調で言った。
「少しだけ、二人きりにしていただけますか?」
「お、おう……」
兄は空気を読んだのか、それ以上何も聞かずその場を後にする。
静かな時間が流れる。
しばらく沈黙が続いたあと、静さんが口を開いた。
「久しぶりですね」
私はゆっくりとうなずく。
「……はい」
「まさか、ここで再会するとは思いませんでした」
静さんは少しだけ笑った。
その笑顔を見た瞬間、何年も胸の奥にしまっていた想いがあふれ出す。
「静さん」
「はい」
「私……静さんを追いかけて、警察官になりました」
静さんの表情が止まる。
「ホストクラブに行ったら、静さんはもう店を辞めてるって聞いて……」
「……」
「兄から『斎藤静』って名前を聞いたとき、もしかしたらって思ったんです」
私は静さんをまっすぐ見つめた。
「だから勉強しました。
警察学校も、訓練も、全部頑張りました。
もう一度、静さんに…、あなたに会いたかったから」
静さんは何も言わない。
ただ、静かに私の話を聞いてくれている。
想いを伝えるのは、今しかない。
そう思った。
「静さん」
私は大きく息を吸う。
「私……」
胸が苦しい。
足が震える。
それでも、この気持ちは伝えたかった。
「好きです」
静さんの瞳がわずかに揺れた。
「地下アイドルだった頃から、ずっと。
静さんに会えなくなっても、一度も忘れたことはありません。
だから――」
私は静さんの目を見つめ続けた。
「私と、お付き合いしてください!」
長い沈黙。
静さんはすぐには答えなかった。
ただ、困ったように小さく笑い、私を優しく見つめ返していた。
しばらくして、静さんは少し目を閉じ、小さく息をついた。
「まだ、誰にも言っていないことなんですが……」
その表情を見て、私の胸がざわつく。
「なんですか?」
嫌な予感がした。
「もしかして……もう彼女が……」
震える声で尋ねる。
静さんは静かに首を横へ振った。
「違います」
私は少しだけ安心する。
だけど、その安心は一瞬で消えた。
「私、男が好きなんですよ」
「……え?」
頭の中が真っ白になる。
言葉の意味は分かる。
でも、理解が追いつかない。
声が出なかった。
静さんは申し訳なさそうに微笑む。
「それに、本命がいます」
胸が締めつけられる。
「前から、ずっと好きなんです」
私は震える唇を必死に動かした。
「……誰、ですか?」
静さんは私に一歩近づく。
そして、誰にも聞こえないように耳元で小さく囁いた。
「あなたのお兄さん」
「……うそ」
私は首を横に振る。
「うそ……」
信じられない。
信じたくない。
そのときだった。
「話、終わったか?」
警察署の裏手にいた、兄が戻ってきた。
何も知らない兄は、いつもの調子で笑っている。
静さんは表情を変えずに兄の肩を軽く叩いた。
「ええ。今、終わりました」
「そっか」
兄は何も気づいていない。
静さんは私に一度だけ穏やかな視線を向けると、そのまま兄の横を通り過ぎて警察署内に入っていった。
私はその背中を見送ることしかできなかった。
何も言えない。
何も考えられない。
ただ、胸の奥だけが、静かに痛み続けていた。




