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7

___翌日のライブ。

客席を見て、私は思わず目を疑った。


「……十人?」


数え間違いじゃない。

本当に、お客さんが十人いる。

いつも最前列にいる二人に加えて、見慣れない顔が八人。

その光景だけで胸がいっぱいになった。


「明音!」


メンバーの一人が駆け寄ってくる。


「十人だよ! 本当に十人いる!」


「うん……!」


私は何度もうなずいた。

ライブが始まる。

今日もお客さんは楽しそうに写真を撮ってくれる。


ライブが終わる頃には、何人もの人がスマートフォンを見ながら「この写真いいね」「それ送って」と話していた。


その日を境に、劇場の景色は少しずつ変わり始める。


十人。


十五人。


二十人。


三十人。


SNSには毎日のように私たちの写真が投稿され、「この子かわいい」「ライブに行ってみたい」というコメントが増えていった。


私とメンバーの皆は、ライブ映えするように笑顔を研究した。

ファン一人ひとりの顔と名前を覚えた。

来てくれた人が『また来たい』と思えるライブを、みんなで何度も話し合った。


少しずつ。

本当に少しずつだけど。

客席は確実に埋まっていった。


そして___数か月後。


開演五分前。

私はステージ袖から客席を覗き、息をのんだ。

満席だった。


一番後ろの席まで、人、人、人。

立ち見まで出ている。


「……夢みたい」


思わず涙がこぼれそうになる。

半年前まで、客席にはたった二人しかいなかった。

あの頃は、グループの方がお客さんより多かった。


それが今では、空いている席を探す方が難しい。


照明が落ちる。

会場中にサイリウムの光が揺れた。

大歓声が響く。


「明音ー!」


「待ってたよー!」


「大好きー!」


その声を聞いた瞬間、私は泣いてしまった。

諦めなくてよかった。

あの日、静さんに出会えて、本当によかった。

私は大きく息を吸い込み、ステージへ飛び出した。


ライブが終わったあと。

メンバーと別れた私は、一人で繁華街へ向かっていた。


目的地は決まっている。

静さんが働いていたホストクラブ。

私はこの数か月間、ライブ終りに何度も街を歩いた。


学校帰りも、休日も。

もしかしたら、どこかで静さんに会えるかもしれない。

そんな小さな期待を抱きながら、この街で彼を探し続けてきた。


でも、一度も会えなかった。

店の前に立ち止まり、ネオンを見上げる。


あの日と変わらない景色。

胸が少しだけ高鳴る。


「……静さん」


小さく名前をつぶやいた、そのときだった。


「君、うちの店になんか用?」


突然、後ろから声をかけられる。

振り返ると、黒髪に眼鏡をかけたスーツ姿の男性が立っていた。

私はその顔を見て思い出す。


「あ……!」


「おっ、君!」


男性も私に気づいたようだった。


「店に入ってすぐ帰っちゃった子だよね?」


「あ……はい」


少し恥ずかしくなりながら頭を下げる。


「その……静さんは、いますか?」


私が尋ねると、男性の表情が少し曇った。


「あいつなら、もうとっくに辞めてるよ」


「……え?」


頭の中が真っ白になる。


「辞めた……?」


「うん。君が店に来た日の、次の日だったかな」


「次の日……」


そんな…。

街中に彼がいなかった理由を知り、私はショックを受ける。


「…店を辞めた理由はなんですか?」


ホストは肩をすくめた。


「さあな。理由は誰にもわからない」


少し寂しそうに笑う。


「連絡しようにも音信不通。今どこでなにをしてるんだか…」


私は言葉を失った。

静さんが……いない。

もう、この店には来ない。

会えると思っていた場所が、一瞬でなくなってしまった。


「……そうなんですね」


それだけ言うのが精一杯だった。

私は深く頭を下げ、その場を後にする。


夜風が頬を撫でる。

賑やかな繁華街を歩いているのに、私の耳には何も聞こえなかった。


静さん。

あなたは、どこへ行ってしまったんですか。

答えてくれる人は、もう誰もいなかった。



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