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___翌日のライブ。
客席を見て、私は思わず目を疑った。
「……十人?」
数え間違いじゃない。
本当に、お客さんが十人いる。
いつも最前列にいる二人に加えて、見慣れない顔が八人。
その光景だけで胸がいっぱいになった。
「明音!」
メンバーの一人が駆け寄ってくる。
「十人だよ! 本当に十人いる!」
「うん……!」
私は何度もうなずいた。
ライブが始まる。
今日もお客さんは楽しそうに写真を撮ってくれる。
ライブが終わる頃には、何人もの人がスマートフォンを見ながら「この写真いいね」「それ送って」と話していた。
その日を境に、劇場の景色は少しずつ変わり始める。
十人。
十五人。
二十人。
三十人。
SNSには毎日のように私たちの写真が投稿され、「この子かわいい」「ライブに行ってみたい」というコメントが増えていった。
私とメンバーの皆は、ライブ映えするように笑顔を研究した。
ファン一人ひとりの顔と名前を覚えた。
来てくれた人が『また来たい』と思えるライブを、みんなで何度も話し合った。
少しずつ。
本当に少しずつだけど。
客席は確実に埋まっていった。
そして___数か月後。
開演五分前。
私はステージ袖から客席を覗き、息をのんだ。
満席だった。
一番後ろの席まで、人、人、人。
立ち見まで出ている。
「……夢みたい」
思わず涙がこぼれそうになる。
半年前まで、客席にはたった二人しかいなかった。
あの頃は、グループの方がお客さんより多かった。
それが今では、空いている席を探す方が難しい。
照明が落ちる。
会場中にサイリウムの光が揺れた。
大歓声が響く。
「明音ー!」
「待ってたよー!」
「大好きー!」
その声を聞いた瞬間、私は泣いてしまった。
諦めなくてよかった。
あの日、静さんに出会えて、本当によかった。
私は大きく息を吸い込み、ステージへ飛び出した。
ライブが終わったあと。
メンバーと別れた私は、一人で繁華街へ向かっていた。
目的地は決まっている。
静さんが働いていたホストクラブ。
私はこの数か月間、ライブ終りに何度も街を歩いた。
学校帰りも、休日も。
もしかしたら、どこかで静さんに会えるかもしれない。
そんな小さな期待を抱きながら、この街で彼を探し続けてきた。
でも、一度も会えなかった。
店の前に立ち止まり、ネオンを見上げる。
あの日と変わらない景色。
胸が少しだけ高鳴る。
「……静さん」
小さく名前をつぶやいた、そのときだった。
「君、うちの店になんか用?」
突然、後ろから声をかけられる。
振り返ると、黒髪に眼鏡をかけたスーツ姿の男性が立っていた。
私はその顔を見て思い出す。
「あ……!」
「おっ、君!」
男性も私に気づいたようだった。
「店に入ってすぐ帰っちゃった子だよね?」
「あ……はい」
少し恥ずかしくなりながら頭を下げる。
「その……静さんは、いますか?」
私が尋ねると、男性の表情が少し曇った。
「あいつなら、もうとっくに辞めてるよ」
「……え?」
頭の中が真っ白になる。
「辞めた……?」
「うん。君が店に来た日の、次の日だったかな」
「次の日……」
そんな…。
街中に彼がいなかった理由を知り、私はショックを受ける。
「…店を辞めた理由はなんですか?」
ホストは肩をすくめた。
「さあな。理由は誰にもわからない」
少し寂しそうに笑う。
「連絡しようにも音信不通。今どこでなにをしてるんだか…」
私は言葉を失った。
静さんが……いない。
もう、この店には来ない。
会えると思っていた場所が、一瞬でなくなってしまった。
「……そうなんですね」
それだけ言うのが精一杯だった。
私は深く頭を下げ、その場を後にする。
夜風が頬を撫でる。
賑やかな繁華街を歩いているのに、私の耳には何も聞こえなかった。
静さん。
あなたは、どこへ行ってしまったんですか。
答えてくれる人は、もう誰もいなかった。




