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6

曲が始まると、お客さんたちはスマートフォンを構えた。

楽曲の音でシャッター音はほとんど聞こえない。


でも、レンズの向こうにある私たちへ向けられる視線は、いつも以上に真剣だった。

私は歌って、踊って、笑う。


昨日までとは違う。

今日は『見られる』だけじゃない。

『残される』ライブなんだ。


四十分ほどのライブを終え、私たちは息を切らしながらステージ中央へ並んだ。


「本日はありがとうございました!」


四人で深く頭を下げる。

大きな拍手が劇場に響いた。

私は笑顔のまま舞台袖へ下がろうとした。

そのときだった。


「この写真、どうですか?」


客席から聞き覚えのある男性の声が聞こえた。

深く帽子をかぶった男性が、最前列の二人のお客さんにスマートフォンを見せている。


「自分、SNSやってないんで、載せてもらえると助かります」


私は思わず足を止めた。


「……おお!これは、最高の写真ですね!」


一人のお客さんが目を輝かせる。


「明音ちゃんがめちゃくちゃ可愛く撮れてる!俺、自作のホームページに載せます!」


「俺はアイドル掲示板に投稿します!写真送ってもらっていいですか?」


三人はその場でスマートフォンを操作し始めた。


「送りました」


「ありがとうございます!」


「それにしても、良い写真だな~。今日も来て良かった~。それじゃあ、また」


去っていく二人の男性に帽子の男性が深く頭を下げる。

そのやり取りを見た瞬間、私の胸が高鳴った。


……もしかして。

私はステージを飛び降り、その男性のもとへ駆け寄る。


「……静さん?」


男性がゆっくり帽子を上げる。

整った金髪。

穏やかな笑顔。

やっぱり。

そこにいたのは静さんだった。


「静さん……!」


「明音、どうしたの?」


後ろからメンバーの声が聞こえる。


静さんは何事もなかったように私へ一歩近づくと、誰にも聞こえないくらい小さな声で耳元に囁いた。


「ライブ、良かったですよ」


その一言だけ残して、静さんは帽子を被り直し、劇場を後にした。

私は呆然と、その背中を見送る。

昨日話したことを、もう実践してくれたんだ。


しかも、自分ではSNSに投稿せず、お客さん同士をつないで。

あの人は、ただアドバイスをするだけじゃない。

ちゃんと、人を動かす方法まで知っている。


胸がじんわりと熱くなる。

私は小さく微笑みながら、その背中に向かって心の中でつぶやいた。


――ありがとう、静さん。





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