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曲が始まると、お客さんたちはスマートフォンを構えた。
楽曲の音でシャッター音はほとんど聞こえない。
でも、レンズの向こうにある私たちへ向けられる視線は、いつも以上に真剣だった。
私は歌って、踊って、笑う。
昨日までとは違う。
今日は『見られる』だけじゃない。
『残される』ライブなんだ。
四十分ほどのライブを終え、私たちは息を切らしながらステージ中央へ並んだ。
「本日はありがとうございました!」
四人で深く頭を下げる。
大きな拍手が劇場に響いた。
私は笑顔のまま舞台袖へ下がろうとした。
そのときだった。
「この写真、どうですか?」
客席から聞き覚えのある男性の声が聞こえた。
深く帽子をかぶった男性が、最前列の二人のお客さんにスマートフォンを見せている。
「自分、SNSやってないんで、載せてもらえると助かります」
私は思わず足を止めた。
「……おお!これは、最高の写真ですね!」
一人のお客さんが目を輝かせる。
「明音ちゃんがめちゃくちゃ可愛く撮れてる!俺、自作のホームページに載せます!」
「俺はアイドル掲示板に投稿します!写真送ってもらっていいですか?」
三人はその場でスマートフォンを操作し始めた。
「送りました」
「ありがとうございます!」
「それにしても、良い写真だな~。今日も来て良かった~。それじゃあ、また」
去っていく二人の男性に帽子の男性が深く頭を下げる。
そのやり取りを見た瞬間、私の胸が高鳴った。
……もしかして。
私はステージを飛び降り、その男性のもとへ駆け寄る。
「……静さん?」
男性がゆっくり帽子を上げる。
整った金髪。
穏やかな笑顔。
やっぱり。
そこにいたのは静さんだった。
「静さん……!」
「明音、どうしたの?」
後ろからメンバーの声が聞こえる。
静さんは何事もなかったように私へ一歩近づくと、誰にも聞こえないくらい小さな声で耳元に囁いた。
「ライブ、良かったですよ」
その一言だけ残して、静さんは帽子を被り直し、劇場を後にした。
私は呆然と、その背中を見送る。
昨日話したことを、もう実践してくれたんだ。
しかも、自分ではSNSに投稿せず、お客さん同士をつないで。
あの人は、ただアドバイスをするだけじゃない。
ちゃんと、人を動かす方法まで知っている。
胸がじんわりと熱くなる。
私は小さく微笑みながら、その背中に向かって心の中でつぶやいた。
――ありがとう、静さん。




