表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/11

4

静さんが私の手を離し、一歩距離を取る。

そして、真っすぐ私を見つめて言った。


「あなた、小学生ですよね」


「……え?」


予想もしなかった言葉に、間の抜けた声が漏れる。


「成人女性の割には胸がありませんし、身長も低い。それに、大人っぽく見せようとしている下手なメイク」


静さんは小さくため息をついた。


「……全部、無理をしているように見えます」


「なっ……!」


思わず言葉を失う。

小学生ではないけれど、ここまで見抜かれるなんて思ってもいなかった。


「その反応を見る限り、図星でしょう?」


「ち、違います!」

私は反射的に叫んだ。


「私は高校生で!」

そう言った瞬間、自分で口を押さえた。


「あ……」


しまった。

完全に自爆した。

静さんは少しだけ目を丸くしたあと、小さく笑う。


「高校生?」


「……」


「それなら、あなたは未成年。お酒は飲めませんよ」


「わ、分かってる!」


顔が熱い。

恥ずかしくて逃げ出したい。


「それで…」


静さんは怒るでもなく、優しく問いかけてきた。


「どうして店に来たんですか?」


私は俯いたまま、指先をぎゅっと握る。

こんなことを言ったら笑われるかもしれない。

気持ち悪いと思われるかもしれない。

それでも、この人には嘘をつきたくなかった。


「……あなたに」


声が震える。


「あなたに、会いたかったから……」


沈黙が流れる。

私は恐る恐る顔を上げた。

静さんは驚いたように私を見つめ、それから困ったように笑った。


「困りましたね」


「……え?」


「そんな真っすぐなことを言われると、ホストでも返事に困ります」


その笑顔を見た瞬間、私はまた胸が苦しくなった。

私は観念して、小さく息を吐いた。


「私の名前…、田森凛なんて名前じゃありません」


静さんは何も言わず、私の言葉を待っている。


森田明音(もりたあかね)です」


「明音さん…」


本名を呼ばれただけで、胸が少し熱くなった。


「実は私、地下アイドルをやっていて…」


「地下アイドル?」


「はい。五人組だったんですけど、一人辞めちゃって……」


私は今までのことを全部話した。

学校が終わると毎日レッスンへ通っていること。

アイドル活動を始めて半年が経ったこと。


そして――。


「ライブのお客さんは、二人しかいません」


言葉にすると、改めて胸が痛んだ。

静さんは少しだけ目を伏せ、静かに呟く。


「客が二人……」


私は苦笑いを浮かべた。


「どれだけ頑張っても、結果が出なければ意味ないですよね……」


その言葉を聞いた静さんは、ゆっくりと首を横に振る。


「そんなことはありません」


「……え?」


「あなたは、ないものばかり見ています」


静さんの視線がまっすぐ私を射抜く。


「大切なのは、ないものではなく、あるものに目を向けることです」


「あるもの……?」


「客が二人いる。それが、あなたの武器です」


意味が分からず、私は首を傾げた。


「二人しかいないのに?」


「二人"も"いるんです」


静さんは迷いなく言い切った。


「その二人に、どうすればあなたたちの魅力を広めてもらえるかを考えるんです」


私は少し考えてから口を開く。


「……友達を勧誘(かんゆう)してもらう、とか?」


静さんは額に手を当て、小さくため息をついた。


「あなたは馬鹿(ばか)ですか?」


「はぁ?」


思わず素っ頓狂(すっとんきょう)な声が出る。


「勧誘なんて成功率の低いことを、なぜ最初に考えるんです」


「じゃあ、どうすればいいの?」


「ライブ中の写真撮影を許可するんです」


「写真撮影?」


「ええ」


静さんは微笑んだ。


「お客さんに、あなたが一番輝いている瞬間を撮ってもらうんです」


「一番輝いている瞬間……?」


「ええ。それが奇跡の一枚になります」


その言葉に、私は息をのむ。


「推しが最高に輝いている一枚なら、誰だって自慢したくなる。SNSに投稿したくなるんです」


静さんはスマートフォンを取り出し、画面を私に見せた。

画面には静さんのファンであろう人のSNSが表示されていた。

そこに投稿されていた静さんの写真には『いいね』がたくさんついている。


「人は広告より、人が投稿した写真を信じます」


私は画面を見つめながら、小さく呟く。


「私の奇跡の一枚を……ファンの人がSNSにアップすればいいってこと?」


「そうです」


静さんは優しく微笑んだ。


「あなたが頑張るだけでは、人には伝わりません。誰かにこの子を見てほしいと思わせて初めて、ファンは増えていくんです」


私は静さんの言葉を何度も頭の中で繰り返した。

――ないものじゃない。

あるものを見る。

その考え方は、今までの私にはなかったものだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ