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夢子が辞めてからというもの、私はどこか心に穴が空いたような毎日を送っていた。
そんなとき、ふと思い出したのは、あの金髪の男性だった。
――もう一度、会いたい。
その気持ちだけが、日に日に大きくなっていく。
数日後。
私は制服ではなく私服に着替え、少しだけ大人びたメイクをして夜の繁華街へ向かった。
あの日、見つけたホストクラブ。
店の看板を見上げると、胸がどきどきしてくる。
「……よし」
覚悟を決めて店の中へと入っていく。
「わぁ…」
店内はまるで別世界だった。
シャンデリアがきらめき、落ち着いた音楽が流れている。
スーツ姿の男性たちは皆、雑誌から飛び出してきたように整った容姿をしていて、上品な笑顔で客を迎えていた。
私は思わず圧倒される。
地下劇場とは何もかも違う。
ここには、華やかな空気が流れていた。
「こちらへどうぞ」
スタッフに案内され、私はテーブル席へ腰を下ろす。
緊張で喉が渇く。
しばらくして、黒髪に眼鏡をかけた男性が穏やかな笑みを浮かべながら尋ねてきた。
「ご指名はございますか?」
私は小さくうなずいた。
「名前はわからないんですけど…、肩くらいまである金髪で……すごく背が高くて、モデルさんみたいな人です」
男性は少し考えたあと、納得したように笑う。
「わかりました」
そして無線で誰かに連絡を入れる。
「少々お待ちください。ただいまお呼びします」
胸の鼓動が一気に速くなる。
もうすぐ、あの人に会える――。
私は両手をぎゅっと握りしめ、店の奥へ続く扉を見つめていた。
数分後、店の奥から一人の男性が姿を現した。
私は思わず息をのむ。
あの人だ。
街で見かけた、あの金髪の男性。
「お待たせいたしました。当店ナンバーワンホストの、静でございます」
案内してくれたホストの男性が丁寧に紹介する。
『静…』
その名前を聞いただけで、胸が高鳴った。
静さんは柔らかな笑みを浮かべると、私の隣へ腰を下ろした。
「こんばんは」
落ち着いた声だった。
耳に心地よく響く。
「お名前を教えていただけますか?」
一瞬、本名を言いそうになった私は慌てて飲み込む。
「……田森凛です」
もちろん偽名だ。
高校生で地下アイドルをやっていることは、絶対に知られたくなかった。
「凛さん…」
静さんはそう呟くと、じっと私の顔を見つめた。
……え。
そんなに見つめないで。
恥ずかしさに耐えられず、私は視線をそらす。
鼓動がうるさいくらい速くなっていた。
すると別のホストがメニュー表を差し出した。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
私はメニューを開く。
シャンパン。
ワイン。
ウイスキー。
カクテル。
並んでいるのはお酒ばかりだった。
……どうしよう。
私はお酒なんて飲めない。
というより、飲める年齢じゃない。
何も言えずに固まっていると、静さんがそっと立ち上がった。
「ちょっといいですか」
そう言うと、私の手をそっと取る。
「えっ?」
私は訳も分からないまま立ち上がり、そのまま静さんに連れられて店の外へ出た。
夜風が火照った頬を優しく撫でる。
店のネオンが二人を照らす中、静さんは私の顔を見つめ、穏やかに微笑んだ。
「凛さん…あなたは…」
その真剣な表情に、私は思わず息を止めた。




