第98話 ゼラモードの手掛かり
いつも読んでいただきありがとうございます。
神々の国の管理者である双子神、カンジンとベンジンとの対面です。
石版の謎に迫る悠真ですが、思わぬ反応が返ってきます。
第98話をお楽しみください。
天使の泉のほとり。
白い光が静かに揺れている。
泉から立ち上る光の粒は風もないのに空へ昇り、やがて淡く消えていく。
その幻想的な光景の中で、悠真は目の前に立つ双子の神を見つめていた。
カンジン。
ベンジン。
二人はそっくりだった。
白銀の髪。
透き通るような白い肌。
幼い顔立ち。
まるで鏡を並べたように同じ姿をしている。
その二人が、悠真を見たまま動かない。
先ほどまで浮かべていた微笑みも消えていた。
ただ驚いたように悠真を見つめている。
やがて二人は同時に呟いた。
「ゼラモード様……?」
「ゼラモード様……?」
悠真は目を瞬かせた。
「え?」
双子は顔を見合わせる。
そして同時に首を横へ振った。
「違う」
「違うね」
今度は再び悠真を見る。
その視線は不思議そうだった。
「でも似てる」
「とても似てる」
「顔も」
「声も」
悠真は困惑した。
またその名前だ。
ゼラモード。
最近になって何度も耳にする名前だった。
「そのゼラモードって奴、そんなに俺に似てるのか?」
二人は同時に頷く。
「似てる」
「かなり似てる」
「でも本人じゃない」
「気配が違う」
悠真は頭を掻いた。
本人ではない。
それは当然だ。
会ったこともないのだから。
「悪いけど、俺はその人知らないぞ」
「そう」
「残念」
二人は少しだけ肩を落とした。
その反応を見ていると、本当に会いたい相手なのだろうと思えた。
モーガントが横で腕を組む。
「だから言っただろう」
「最初は声、実際会うと顔もだからここへ呼んだんだ」
モーガントは真顔で言った。
どうやら本当らしい。
悠真は苦笑する。
呼ばれた理由が、自分に似ているから。
何とも不思議な話だった。
「まあ、その話は後にしよう」
悠真は収納袋へ手を入れた。
今日ここへ来た理由は別にある。
布包みを取り出す。
そしてゆっくり開いた。
奈良の大仏の石版。
白い石に刻まれた巨大な仏像。
双子の表情が変わった。
「それは」
「ゼラモード様の石版」
二人は同時に言った。
やはり知っている。
悠真は石版を持ち上げる。
「こういうの知らないか?」
双子は頷いた。
「知ってる」
「もちろん」
「他にもあるのか?」
悠真が尋ねると、双子は再び顔を見合わせた。
そして同時に右手を差し出した。
光が集まる。
次の瞬間。
二枚の石版が現れた。
悠真の目が見開かれる。
一枚には巨大な鳥居。
その奥に広がる神殿。
もう一枚には海に浮かぶ赤い大鳥居。
見覚えがあった。
「これは……」
「出雲大社」
「厳島神社」
双子が答える。
悠真は思わず息を呑んだ。
間違いない。
探していた石版だった。
「持ってたのか……」
「持ってる」
「ずっと持ってる」
二人は大切そうに石版を見つめた。
その視線には愛着があった。
まるで宝物を見るような目だった。
「じゃあ譲ってくれないか?」
悠真は率直に言った。
だが双子は即座に首を横へ振る。
「だめ」
「渡せない」
予想外の即答だった。
「なんでだ?」
悠真が尋ねる。
二人は石版を胸へ抱いた。
「ゼラモード様にもらった」
「大切な贈り物」
「私たちの宝物」
「だから渡せない」
その声ははっきりしていた。
迷いがない。
悠真は少し考える。
確かにそう言われれば無理もない。
自分だって大切な思い出の品を簡単には渡せない。
「そうか」
「うん」
「ごめんね」
双子は申し訳なさそうに言った。
しばらく沈黙が流れる。
泉の光だけが静かに揺れていた。
その時だった。
ベンジンが口を開く。
「でも」
カンジンも続く。
「条件がある」
悠真は顔を上げた。
「条件?」
二人は頷く。
「ゼラモード様の手掛かり」
「見つけてほしい」
「手掛かり?」
「どこにいるのか」
「何をしているのか」
「会えるのか」
双子の表情は真剣だった。
それまでの幼い雰囲気が消えている。
長い年月を待ち続けた者の顔だった。
「会いたいんだな」
悠真が言う。
二人は静かに頷いた。
「会いたい」
「ずっと」
「何十年も」
「待ってる」
その言葉に嘘はなかった。
悠真は少しだけ驚く。
神ですら待ち続ける相手。
ゼラモードという存在は、やはり普通ではないらしい。
「もし手掛かりを見つけたら?」
悠真が聞く。
二人は答える。
「教えて」
「連れてきて」
「そうしたら」
「石版を渡す」
悠真は思わず苦笑した。
「いや、難易度高くないか?」
モーガントが横で吹き出す。
「確かにな」
「だろ?」
「だが、あいつらにとっては石版より大事なんだろう」
双子は頷く。
「そう」
「ゼラモード様の方が大事」
迷いのない答えだった。
悠真は頭を掻く。
困った。
本当に困った。
なにしろゼラモードが誰なのかすら知らない。
探せと言われても手掛かりがない。
「俺、その人に会ったことないんだけど」
「知ってる」
「でも似てる」
「すごく似てる」
そこへ戻るのか。
悠真は思わずため息を吐いた。
だが完全に無理な話でもない。
アルヴェルトがいる。
地球には石版もある。
もしかしたら何か分かるかもしれない。
少なくとも今よりは情報を集められる。
「分かった」
悠真は言った。
「約束はできない。でも調べてみる」
双子の瞳が少しだけ輝いた。
「本当?」
「探してくれる?」
「ああ」
悠真は頷く。
「見つかる保証はないからね」
「それでもいい」
「手掛かりだけでも」
二人は嬉しそうだった。
長い間閉じていた扉が少しだけ開いた。
そんな表情だった。
悠真は改めて二枚の石版を見る。
出雲大社。
厳島神社。
目の前にあるのに手に入らない。
だが場所は分かった。
持ち主も分かった。
収穫は大きい。
少なくとも前進はしている。
泉の光が静かに揺れる。
その光を見つめながら、悠真は考えていた。
ゼラモード。
神々が待ち続ける存在。
石版を作った人物。
そして、自分に似ていると言われる男。
「まずは地球に戻ったらアルヴェルトに相談だな……」
小さく呟く。
双子は首を傾げていたが、その意味までは分からないらしい。
だが悠真の中では次にやることが決まっていた。
石版の謎。
ゼラモードの正体。
その二つは、どうやら同じ場所へ繋がっている。
そしてその答えは、神々の国ではなく、地球側にあるのかもしれなかった。
第98話を読んでいただきありがとうございました。
今回は石版の新たな手がかりと、ゼラモードという存在の大きさが少し見えてきた回でした。
双子神が持つ石版、そして彼らの願いとは何なのか。
次回も引き続き石版の謎を追っていきます。
よろしければ評価、ブックマーク、感想などいただけると励みになります。
次回もよろしくお願いします。




