表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「異世界は金で強くなるらしいので、現代から稼いで成り上がります」  作者: れいじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/101

第96話「奇跡のあとで」

第96話です。


ついにローディアスの娘、アイリが登場します。


これまで積み重ねてきた出来事が、

一つの形として報われる回になっています。


そして、新たな関係の始まりも。


ぜひ最後までお楽しみください。

王都の中心から離れるにつれて、景色はゆっくりと色を変えていった。


 整えられた石畳はひび割れ、建物の壁はくすみ、通りを歩く人の数も減っていく。


 華やかな王都とは違う、静かな生活の匂いが漂っていた。


「……ここは」


 レオンが周囲を見回しながら呟く。


 ローディアスは何も言わず、足を止めることもなかった。


 ただ、まっすぐに進む。


 その背中には、焦りと決意が混ざっている。


 やがて、小さな家の前で立ち止まった。


 決して大きくはない。


 だが、丁寧に手入れされているのが分かる。


 ローディアスは扉を開けた。


「戻った」


 短い一言。


 すぐに奥から足音が響く。


 現れたのは、一人の女性だった。


「あなた……!」


 驚きと安堵が入り混じった声。


「やっと帰ってきたのね……!」


 駆け寄ってくる。


 ローディアスは一瞬だけ表情を緩めた。


「ああ、リリー」


 その呼び方には、確かな温度があった。


 リリーは涙ぐみながら頷く。


 だがすぐに顔を上げた。


「アイリが……」


 その言葉に、ローディアスの目が鋭くなる。


「大丈夫だ」


 はっきりと言い切る。


「治せる」


 一瞬、空気が止まる。


「……本当に?」


「ああ」


 迷いはなかった。


 ローディアスは奥へと進む。


 悠真たちも後に続いた。


 部屋の中は静かだった。


 小さなベッドの上に、一人の少女が横たわっている。


 細い。


 あまりにも細い。


 呼吸は浅く、胸の動きも弱い。


 今にも消えてしまいそうだった。


「……」


 悠真は言葉を失った。


 思っていた以上に危うい。


 本当にぎりぎりだったのかもしれない。


 ローディアスはゆっくりと近づいた。


「アイリ」


 優しく呼ぶ。


 反応はない。


 だが、その声は届いているようだった。


 ローディアスは回復カードを握りしめる。


 一瞬だけ目を閉じた。


「……頼む」


 淡い光が広がる。


 カードが輝き、光がアイリの身体を包み込んでいく。


 しばらくは何も変わらなかった。


 だが――


 呼吸が変わる。


 浅かった呼吸が、ゆっくりと深くなる。


 胸が確かに上下している。


 指先が、わずかに動いた。


「……っ」


 リリーが息を呑む。


 ローディアスは動かない。


 ただ見ている。


 祈るように。


 そして。


 ゆっくりと。


 まぶたが開いた。


「……あれ」


 かすれた声。


 だが、確かな意識。


「ここ……」


 視線が揺れ、やがて止まる。


「……お父さん?」


「ああ、アイリ大丈夫か?」


 ローディアスの声が、わずかに震える。


 アイリはゆっくりと身体を起こす。


 一瞬ふらつく。


 だが、そのまま自分の手を見る。


 握って開く。


「……すごく軽い」


 ぽつりと呟く。


 そして――


 勢いよく起き上がった。


「えっ、ちょっと待って」


 自分で驚いている。


「私……動けるんだけど!?」


 声が弾む。


 そのまま立ち上がろうとして、少しよろける。


 それでも笑っていた。


 まるで別人のように、生きている笑顔。


 その瞬間。


 悠真の視線が止まった。


「……」


 言葉が出ない。


 ただ見ていた。


 胸の奥が、少しだけざわつく。


「……なんだこれ」


 小さく呟く。


 自分でも分からない感覚だった。


 リリーが涙を流しながらアイリを抱きしめる。


「よかった……本当に……」


 サイリも駆け寄ってくる。


「お姉ちゃん!」


 アイリは笑って応えた。


「心配かけたね」


 その声は、明るかった。


 ローディアスはゆっくりと振り返る。


 悠真を見る。


「……この男が」


 一歩、前に出る。


「身体を張って、神と交渉してくれたんだ」


 部屋の空気が変わる。


 リリーが息を呑む。


「神と……?」


 ローディアスは頷く。


「容易なことではない」


 一拍。


「普通なら、戻ってこれない」


 静かな言葉。


 だが重かった。


 悠真は少しだけ顔をしかめる。


「……大げさだって」


 軽く言う。


「たまたま上手くいっただけだ」


 だが、その場の誰もが分かっていた。


 それが簡単なことではないと。


 リリーが深く頭を下げる。


「本当にありがとうございます……」


 声が震える。


 アイリも一歩前に出た。


「……ありがとう」


 一瞬の間。


「悠真さん」


 その呼び方に、悠真の心が少しだけ揺れる。


 サイリも元気よく続く。


「ありがとう!」


「悠真さん!」


 悠真は照れくさそうに笑う。


「……大したことしてないって」


 そう言いながら、どこか落ち着かない。



 その日の夜。


 小さな家に笑い声が満ちていた。


 質素な食事。


 だが温かい。


 アイリは何度も体を動かしていた。


「ほんとに元気だ……」


 自分でも信じられない様子で笑う。


 リリーが苦笑する。


「無理しないのよ」


「大丈夫だって!」


 即答。


 ローディアスが小さく笑う。


「変わってないな」


 その光景を、悠真は少し離れて見ていた。



 食事の後。


 ローディアスが静かに言う。


「……明日、王に会ってくる」


 視線が集まる。


「騎士団に戻ろうと思う」


 一拍。


「もう一度、やり直す」


 レオンが頷く。


「それがいい」


「今の王には、お前が必要だ」


 ローディアスは静かに頷いた。



 夜。


 悠真たちはガイオの屋敷へ戻る。


 しばらく静かな時間が流れた。


 やがてレオンが口を開く。


「……なんかいい時間だったな」


 一歩前に出る。


「だが」


 一拍。


「そろそろ現実に戻るぞ」


 悠真を見る。


「次は本題だ」


 わずかな間。


「石版だな」


 空気が変わる。


 穏やかな時間が、ゆっくりと引いていく。


 悠真は小さく頷いた。


「……ああ」


 まだ終わっていない。


 ここからが、本当の始まりだった。

第96話を読んでいただきありがとうございます。


無事にアイリが回復し、

ローディアスの物語も一つ区切りを迎えました。


ですが、物語はここで終わりではありません。


石版、そして神との取引。


ここから物語は再び動き出します。


次回もぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ