第95話「約束」
第95話です。
悠真が神との約束を果たし、
ついに状況が大きく動きます。
ひとつの問題は解決へ。
しかし、その裏で新たな条件が提示されます。
ここから先は、より深い領域へ。
ぜひ最後までお楽しみください。
白い空間に、静寂が満ちていた。
モーガントと向かい合ったまま、悠真は動かない。
提示された条件。
そして、その裏にあるもの。
だが――
悠真は小さく息を吐いた。
「……まず約束が違うだろ」
静かに言う。
モーガントの目をまっすぐ見る。
「俺が来たら、娘を治すって言ったよな」
一瞬の沈黙。
やがてモーガントは、わずかに口元を歪めた。
「……言うじゃないか、小僧」
楽しそうだった。
「いいだろう」
あっさりと応じる。
次の瞬間。
空間が、わずかに歪む。
何もない場所から、一枚のカードが現れた。
モーガントの手の中に、自然と収まる。
「これを使うといい」
差し出される。
悠真はそれを受け取った。
軽い。
だが、触れた瞬間に分かる。
これは普通の物じゃない。
「回復カードだ」
モーガントが言う。
「神しか持たぬスキルの一つ」
一拍。
「どんな病でも、一度だけ治すカードだ」
淡々とした説明。
だが、その中身は規格外だった。
悠真はカードを見つめる。
これ一枚で、人の命が変わる。
「……ほんとに何でもか」
「何でもだ」
即答。
迷いはない。
悠真は小さく息を吐いた。
「すげえな」
モーガントは肩をすくめる。
「まあ、これもゼラモードが作ったものだがな」
またその名前。
悠真は眉をひそめる。
「……誰なんだよ、それ」
「本当に知らぬのか」
「知らないよ」
即答だった。
モーガントはそれ以上語らない。
悠真も深追いしない。
カードを軽く握る。
これで、ローディアスの娘は助かる。
それだけで十分だった。
だが――
悠真はその場を動かなかった。
「……その前に」
モーガントを見る。
「聞きたいことあるんだけど」
モーガントがわずかに目を細める。
「なんだ言ってみろ」
「石版って知ってるか?」
一瞬。
空気が変わる。
「……石版だと?」
低い声。
先ほどまでとは明らかに違う反応。
悠真は続ける。
「いくつかあるらしいんだけど、詳しくはまだ分かってない」
一拍。
「次来る時、実物持ってくる」
視線を外さずに言う。
「心当たりあるなら、教えてくれ」
沈黙。
モーガントはしばらく何も言わなかった。
ただ、じっと悠真を見ている。
やがて。
「……面白いな」
小さく呟く。
「ますます気に入った」
ゆっくりと笑う。
「いいだろう」
一拍。
「次に来る時、持ってこい」
静かに言う。
「その話も、してやる」
それが条件かどうかは分からない。
だが、確実に“次”に繋がった。
悠真は小さく頷いた。
「わかった」
それだけ言う。
そして背を向けた、その時。
「待て」
モーガントの声。
振り返る。
何もなかった空間が、ゆっくりと裂けていく。
そこに現れたのは――階段だった。
下へと続く、長い長い階段。
底は見えない。
「そこを降りるといい」
モーガントが言う。
悠真は眉をひそめた。
「……いや、降りろって」
一歩近づく。
下を覗き込む。
何も見えない。
「え、ここを?」
普通に考えて無理だった。
高さの感覚がおかしい。
落ちたら終わりだ。
モーガントはあっさり言う。
「飛び降りろ」
「……は?」
「問題ない」
一拍。
「その装備があればな」
悠真は少し黙る。
三種の神器を見る。
「……ほんとかよ」
モーガントは答えない。
ただ、わずかに笑っていた。
悠真は小さく息を吐く。
「……まあ、ここで止まっても仕方ないか」
一歩、前へ出る。
足先が空へ出る。
何もない。
「……行くか」
そのまま踏み出した。
落ちる。
風はない。
だが確実に落ちている。
「うわ――」
一瞬。
視界が歪む。
次の瞬間。
固い地面の感触が戻る。
「……っ」
王家の祭壇だった。
夜の空気が肌に触れる。
「悠真!」
ララの声。
全員がこちらを見ていた。
ローディアスの視線が、真っ直ぐに向けられる。
「どうだった」
短く問う。
悠真はカードを取り出す。
「はいこれ」
そのまま差し出す。
「このカードを使えば治るってさ」
空気が止まる。
ローディアスの目が見開かれる。
「……それは」
震える声。
悠真は軽く言う。
「一回だけだけどな」
「どんな病でもいけるらしいよ」
沈黙。
やがてローディアスが手を伸ばす。
震えていた。
だが、しっかりと受け取る。
「……ありがとう」
その一言に、すべてが詰まっていた。
悠真は軽く笑う。
「まだ終わってないけどな」
一拍。
レオンが口を開く。
「神とはどうなった」
悠真は頷く。
「ああ、話はした」
一拍。
「石版のこともな」
全員の視線が集まる。
「次に行く時、実物持ってこいってさ」
ララが小さく息を呑む。
「……それって」
悠真は肩をすくめる。
「たぶん、取引になる」
一瞬の間。
「で、その内容が――」
少しだけ言葉を選ぶ。
そして苦笑した。
「まあ、ろくでもない気がする」
静寂。
レオンが低く言う。
「だろうな」
悠真は頷く。
「でも、避けて通れないだろうな」
神との約束。
その見返り。
まだ見えないものが、確実にそこにあった。
夜の空気が、わずかに重くなる。
それでも、進むしかなかった。
第95話を読んでいただきありがとうございます。
無事に“約束”は果たされました。
ですが、神との取引は終わりではなく、
むしろここからが本番になります。
石版の謎、そして見返り。
悠真たちがどんな選択をするのか、
次回もぜひお付き合いください。




