第94話「神の誘い」
第94話です。
ついに神モーガントとの対面。
そして、提示される一つの選択。
力を得るか、拒むか。
価値観の違いがはっきりとぶつかる回になります。
ぜひ最後までお楽しみください。
白い空間は、どこまでも続いていた。
上も下も曖昧で、境界がない。
足元は雲のようでいて、沈むことはない。
ただ、そこに立っているという感覚だけが、はっきりしていた。
「……何もないな」
悠真が小さく呟く。
その声だけが、不自然なほど遠くへ広がった。
「来たか」
背後から声がした。
振り向く。
そこに立っていたのは、一人の男だった。
無駄のない筋肉に覆われた身体。
上半身は露出しており、その存在だけで空気が押し潰されるような圧がある。
神というより、戦士。
だが、その奥にあるものは人とはまるで違う。
「思ったより若いな」
モーガントは興味深そうに悠真を見た。
じっと観察するような視線。
悠真は肩をすくめる。
「そっちは思ったよりゴツいな」
軽く返す。
だが、目は逸らさない。
モーガントは一瞬だけ黙った。
そして、ふと動きを止める。
じっと悠真の顔を見る。
空気がわずかに張り詰めた。
「……顔もか」
小さく呟く。
「やはり、似ているな」
悠真が眉をひそめる。
「何が?」
モーガントはそのまま続けた。
「声だけではない」
一歩近づく。
「その顔……ゼラモードに似ている」
その名が、静かに落ちる。
「……お前もしかして」
一瞬、間を置く。
「ゼラモードの子か?」
悠真は、ぽかんとした。
「……誰だそれ」
素直な反応だった。
「知らないよ、そんなやつ」
即答。
迷いはない。
モーガントはしばらく黙る。
そして、わずかに目を細めた。
「……そうか」
だが、その声には納得がなかった。
「ならばなおさら妙だな」
小さく呟く。
「偶然にしては……出来すぎている」
その直後だった。
モーガントの腕がわずかに動く。
空気が裂ける。
見えない衝撃が、一直線に悠真へと叩きつけられた。
だが――
何も起こらない。
触れた瞬間に、衝撃は消えた。
「……おお」
モーガントが小さく笑う。
もう一度、今度は少し強く。
だが結果は同じだった。
「効かぬか」
面白そうに呟く。
悠真は自分の腕を見る。
三種の神器。
「……やっぱこれか」
軽く言う。
モーガントはゆっくりと頷いた。
「なるほど」
「神の干渉を完全に遮断するという代物……」
小さく笑う。
「ゼラモードめ、妙なものを残しおって」
悠真はまたその名前に引っかかるが、深くは考えない。
モーガントは視線を戻す。
「非常に面白い」
短く言う。
その一言に、はっきりとした興味が込められていた。
「気が変わった」
あっさりと続ける。
「お前は使える」
「……は?」
悠真が眉をひそめる。
モーガントは構わず話す。
「一人、どうしても気に入らん神がいる」
淡々とした口調。
「力はある奴だが、つまらん奴でな」
一拍。
「人を資源としか見ておらん」
その言葉で、悠真の中に一つの光景が浮かぶ。
ロペの館。
歪んだ空間。
あの天使もどき。
「……もしかしてあの館のことか」
自然と口に出る。
モーガントは小さく頷いた。
「そうだ」
「ロペと繋がっているのは、そいつだ」
やはり、そうか。
すべてが繋がる。
モーガントは一歩前に出た。
「どうだ」
真っ直ぐに悠真を見る。
「我と手を組まんか」
一瞬の間。
「そいつを潰したい」
それだけだった。
余計な説明はない。
ただ目的だけを提示する。
悠真は少し考える。
そして、小さく息を吐いた。
「……なんで俺が」
正直な疑問だった。
モーガントは即答する。
「簡単だ」
一歩近づく。
「お前は盾になれる」
一拍。
「我は攻撃する」
それだけ。
「二人でやれば、落とせる」
あまりにもシンプルだった。
悠真は少しだけ呆れたように笑う。
「ずいぶん雑だな」
「そうか?」
モーガントは気にした様子もない。
「単独ではいろいろ面倒でな」
あっさりと言う。
神でありながら、その言葉。
だが、それが本音だと分かる。
悠真は一歩、距離を詰めた。
「……あんたさ」
モーガントがわずかに視線を動かす。
「言ってることは分かるけど」
一瞬の間。
「やってること、あいつと変わらなくないか?」
静かな指摘だった。
「ヴァルクを完全に駒にしてたよな」
空気が止まる。
だが、モーガントは否定しない。
「……利用しただけだ」
あっさりと答える。
迷いはない。
悠真は小さく息を吐いた。
「ほらな」
「やっぱ同じじゃないか」
モーガントは、わずかに笑った。
「違うな」
一歩、近づく。
圧が増す。
「我は最初から隠しておらん」
静かに言う。
「対価も、目的もな」
一拍。
「それでも来るかどうかは、お前が決めることだ」
その言葉は、妙に真っ直ぐだった。
歪んでいるのに、嘘ではない。
悠真は少しだけ黙る。
そして、目を逸らさずに返した。
「……で?」
短く聞く。
モーガントの口元が、わずかに歪む。
「その代わりだ」
一瞬の間。
「病の娘を治してやる」
静かに言い切る。
それが条件。
それが報酬。
白い空間の中で、二人は向き合ったまま動かない。
風はない。
だが、空気だけがわずかに揺れている。
選択は、まだ出ていなかった。
第94話を読んでいただきありがとうございます。
モーガントという存在、いかがだったでしょうか。
敵とも味方とも言えない立場。
そして、はっきりとした“対価”。
悠真にとっては避けられない選択が近づいています。
この先、何を選ぶのか。
次回もぜひよろしくお願いします。




