第91話「王家と神」
第91話です。
今回は王の口から語られる、過去と真実。
神と王家の関係、そして崩壊のきっかけ。
これまで見えていなかった背景が、少しずつ明らかになります。
静かな回ですが、物語の根幹に関わる重要な話になります。
ぜひ最後までお読みください。
王座の間には、重く静かな空気が満ちていた。
戦いの余韻は消えかけている。
だが、場の緊張はむしろ深まっていた。
玉座に座る王は、ゆっくりと息を整えている。
まだ完全ではない。
それでも、その目にはすでに確かな意志が戻っていた。
「……すまぬな」
ぽつりと落ちた言葉。
ローディアスがすぐに一歩前へ出る。
「いえ……陛下がご無事で何よりです」
深く頭を下げる。
その背に、長年仕えてきた者の想いが滲んでいた。
王は小さく頷く。
そしてゆっくりと顔を上げ、場にいる者たちへ視線を巡らせた。
悠真、レオン、リズ、ララ。
そしてローディアス。
一人ひとりを確かめるように見ていく。
「……そなたたちが、ここまで来たのか」
その言葉に、誰もすぐには答えなかった。
軽く返せる空気ではない。
しばらくして、悠真が口を開く。
「……話は、だいたい聞きました」
言葉を選びながら言う。
「神のことも、ヴァルクのことも」
王は静かに頷いた。
「そうか」
一拍。
「ならば……続きを話すとしよう」
その声は落ち着いていた。
感情は抑えられている。
だが、その奥にあるものは重い。
「……昔の話だ」
ゆっくりと語り始める。
「王家は長きにわたり、神と友好関係にあった」
静かな声。
「神は我らを守り、我らはそれに応えてきた」
短い間。
「国は安定していた」
それは疑いようのない事実だった。
「だが……」
王の視線がわずかに細くなる。
「六十年前」
空気が変わる。
「一柱の神が、神を辞めた」
静寂が落ちる。
「その名は――ゼラモード」
その名前が響いた瞬間。
悠真の胸の奥に、かすかな違和感が生まれた。
理由は分からない。
だが、引っかかる。
王は続ける。
「他の神々ですら恐れる存在だった」
「だが……人には優しい神でもあった」
一拍。
「わしがまだ王子だった頃の話だ」
ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「神と会うには、祭壇で儀式を行う必要があった」
「直接会うことなど、そう容易くはない」
視線がわずかに落ちる。
「だが、ある日」
「いつものように、あのカエルの置物を通じて声が届いた」
悠真がわずかに眉を動かす。
ヴァルクと同じだ。
「この前の儀式に来ていた娘がおったろう」
一拍。
「とても……めんこいのう、とな」
リズが小さく息を吐く。
「……軽いわね」
王は苦く笑う。
「わしもそう思った」
「冗談だと……そう思いたかった」
だが。
「次の儀式で、はっきりと言われた」
空気が張り詰める。
「その娘と結婚したい、とな」
誰も言葉を発しない。
「そしてさらに言った」
一瞬の間。
「……最近、神に飽きてきておった」
静かな声。
「人間になろうと思う」
ローディアスがわずかに顔を上げる。
「……正気とは思えませぬな」
王は静かに頷いた。
「わしもそう思った」
短く答える。
「だが、断れるはずもなかった」
一拍。
「結果として、妹は嫁いだ」
「神ではなく……人となった男のもとへ」
静かに言う。
その言葉の重みは大きい。
「その時点で、すでに歪みは始まっていたのだろう」
王は続ける。
「他の神々は、人を下に見ていた」
はっきりとした声だった。
「対等などとは思っておらん」
一拍。
「むしろ……利用するつもりでいたのは感じていた」
空気が沈む。
「ゼラモードの件で、それがはっきりと見えた」
悠真は黙って聞いていた。
胸のざわつきは消えない。
だが、まだ理由が分からない。
王は続ける。
「ゼラモードは去る前に、三つの品を残した」
視線がわずかに動く。
「鎧、盾、そして剣」
「三種の神器だ」
その言葉に。
悠真は無意識に、自分の身体へと視線を落とした。
今も――三種の神器は装着されたままだった。
まるで最初からそこにあったかのように、違和感がない。
王は続ける。
「神の力を無効化し」
「神に傷を与えることができる」
一拍。
「対等に対話するためのものだと、そう言っていた」
そして。
「……だが」
その声がわずかに低くなる。
「そもそも、対等ではなかった」
静かな断言。
「だからわしは決めた」
「神とは関わらぬと」
ローディアスが静かに目を伏せる。
「三種の神器は受け取った」
「だが、それを使って対話する気にはなれなかった」
一拍。
「対話にならぬからだ」
重い沈黙が落ちる。
その時だった。
王の視線が、ふと止まる。
悠真へと向けられる。
いや――その装備へ。
「……ちょっと待て」
小さく呟く。
ゆっくりと目を細める。
「その装備……」
一拍。
「もしかして三種の神器……か」
空気がわずかに張り詰める。
王の視線が、悠真から外れない。
「……そなた」
一瞬の間。
「王家の血を継いでおるのか」
悠真はわずかに戸惑った。
「……いいえ」
少し考えてから答える。
「違うと思いますけど……」
正直な答えだった。
だが。
王の表情は変わらない。
ただ、じっと見ている。
何かを確かめるように。
やがて、ゆっくりと視線を外した。
「……そうか」
それだけだった。
だが、その一言には納得がなかった。
再び沈黙が落ちる。
悠真は小さく息を吐いた。
頭の中で、いくつもの情報が繋がっていく。
だが、まだ何かが足りない。
「……あの」
少し間を置く。
「これから……どうするつもりなんですか」
王を見る。
さっきよりも、少しだけ真っ直ぐに。
王はその問いを受け止めた。
そして、わずかに笑う。
疲れたような、それでも確かな意志を持った笑みだった。
「無論だ」
短く言う。
「もう一度、向き合うしかあるまい」
一拍。
「神とな」
その言葉が、静かに王座の間に響いた。
第91話を読んでいただきありがとうございます。
ゼラモードという存在、
そして神と人との関係について描きました。
すべてを語りきったわけではありませんが、
ここから物語はさらに大きく動いていきます。
そして、悠真に起きている“違和感”。
それが何を意味するのかは、
もう少し先で明らかになっていきます。
引き続きよろしくお願いします。




